「雑観」コラム

(株)MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.11 公共投資の意義(2)~国民の豊かさの観点から~

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社長の並木です。前回は「国民の安全」に対する国の役割から公共投資について考えました。今回は公共投資の経済的な意義について、お話ししたいと思います。

■政府の借金の主な要因は公共投資ではない

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まずは、【表1】のデータをご覧ください。これまで何度かご紹介しましたように、日本の名目GDPは1997年をピークに右肩下がりですが、その中で「公的資本形成」(公共事業投資額の中で土地購入代金などを引いた額)の対GDP比は、1990年代の8%台から4%台まで下がってきています。GDPの減少を遙かに上回る規模で公共投資が削減されてきたということです。政府の借金である国債が増えている原因に挙げられることの多い公共投資ですが、実際は公共投資に使うための「建設国債」ではなく「赤字国債」、特に社会保障費の増加が原因になっているということが分かります。

誤解のないように書いておきますと、私は社会保障費を削減せよと主張したいわけではありません。不況が続き、高齢化が進展すれば社会保障が増えるのは当たり前です。そもそもそれを支えられず、不況によって低所得者を増やしてしまう名目GDPの減少が問題と言えます。実際に、1997年~2011年の期間でアメリカ・イギリスの名目GDPは1.8倍、フランスは1.6倍、ドイツは1.4倍となっており、昨今では成長が難しいと言われることの多い先進国でもしっかり増加・成長しているのが普通です【表2】。阪神淡路大震災からの復興の目処が立つか立たないかのうちに、他の災害の可能性を軽視して公共事業への投資を行わなかったことが問題だと思います。

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公共投資による金融緩和は経済を活性化させる

以前も触れましたが、公共投資を増やすと経済的にどのような効果があるかというと、建設国債の発行が同時に欧米並の金融緩和となり、行き過ぎた円高が是正されます。ただし、金融緩和については、欧米で実施してもGDPの引き上げ効果が限定的ではないかという反対論があります。確かにその通りで、不況下で企業の投資意欲が減退しているわけですから、単に金融緩和をしただけではせっかくの資金は資源などに向かってしまい、資源高を引き起こします。資源高になりコストが上がることをコストプッシュインフレと言いますが、そうなると企業は資源によるコスト増を他の項目(主に人件費)の経費削減で補おうとするので、インフレにも関わらず、人件費減・雇用の削減というデフレと同じ悪影響が出てしまうのです。

しかし、公共投資のための金融緩和であれば使い道が決まっているため、投下されたお金はすぐに実体経済に還元されます。そのため、「復興景気で仙台の繁華街が活況」という報道があったように、公共投資のお金がそれを請け負う企業に回り、労働者の雇用および賃金となります。そして、彼らがお金を使うことで、その他の産業が潤うという波及効果が生まれてきます。しかも、現政権は10年かけて国土強靱化を実現しようという政策ですから、これまでの単年度予算では翌年どうなるかわからず、不安でできなかった正規雇用が生まれてきます。建設業者がおいしい思いをしているということで公共事業に反対する人たちも多いと思いますが、実際のところ、建設業の就業者数は1997年の685万人をピークに2009年には517万人まで減少しているのです。

■インフレが止まらなくなる心配はない

こういう話をすると必ずインフレが止まらなくなるという話が出てきますが、2008年以降通貨供給量を3.5倍に増やしたアメリカでも急激なインフレは起きていない上、日本には15年に及ぶデフレギャップがあります。また、円建てで国債発行をしていますので、資金の心配なく日銀による買いオペレーションが可能であり、さらにデフレからインフレに脱却できれば消費税増税によって景気の過熱を冷ますことができます。さらに言えば、インフレによる景気好転で名目GDPが増えた後の消費税増税であれば、増税=税収増につながります(デフレ下で増税しても、法人税・所得税等の減収分が消費税の増収分を上回ってしまうことは、1997年の消費税増税後の実績が証明しています)。

つまり、公共投資は我々と将来世代に安全なインフラを残し、時間差はありますが景気を好転させ、財政赤字を減少させる可能性が高いのです。当社は法人向けサービス業であり、クライアントの皆様のほとんどは消費者向けサービス業ですので、直接的に得られる効果は波及効果・景気上昇効果を待つことになりますが、今を生きる私たちの生命と将来世代への資産を残すためには大切な意思決定だと思うのです。