「雑観」コラム

(株)MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.10 公共投資の意義(1)~国民の安全の観点から~

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社長の並木です。さて、今回と次回の2回にわたり、改めて公共投資の意義について考えてみたいと思います。というのも、東日本大震災を経験し、今月2日には笹子トンネルの痛ましい事故に見舞われながら、依然として公共投資に否定的な意見や正しい情報に基づかない言説を数多く目にするからです。

■コンクリートには寿命がある

当コラムではかねてから大規模地震や災害から国民の命と安全を守るための公共投資の必要性をお伝えしてきました。笹子トンネルの事故は、それに加えて道路等の老朽化対策を深刻に受け止めなければならない時代に入ったことを示しています。
 
アメリカでは2007年にミネアポリスで高速道路崩落事故が起こり、少なくとも60台の車がミシシッピ川に転落しました。どの国にもあてはまることですが、道路や橋、港湾といったコンクリートには寿命があり、その寿命を延ばすためにメインテナンスをし続けていかないと悲惨な事故が生まれるのです。
 
今回の事故を受けて「検査の仕方が不十分だった」「全国の危ないトンネルはどこだ」といった報道を目にします。検査方法に関してはしっかりと調査をして頂きたいですし、危機認識を共有することは大事ですが、俯瞰すれば「日本の道路などの公共インフラの多くは高度成長期に作られており、メインテナンスを急がなければ寿命を迎えつつある場所が少なくない」のです。
 
■公共インフラへの投資は削減されている

国土交通省のホームページを調べてみると道路橋のデータが見つかりました。既に通行止めになっている橋が217、通行規制がかかっている橋は1,162に上るそうです(http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobo3_1.pdf)。勿論、長寿化対策は打っているのですが、1990年代中盤には年間40兆円を超えていた公的資本形成(公共事業投資額の中で土地購入費用などを引いた額)が、近年では20兆円強まで削られてきているという事実が早期対策の足かせになっていることは間違いないでしょう【表1】。

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また、選挙絡みで「公共投資に頼る古い政治は問題である」「メインテナンスは仕方がないが新設の公共投資は控えるべき」といったコメントが出ていましたが、選挙結果に基づき、新たな政権を担うことになる自民党の国土強靱化基本法案は多面的な災害対策を考えてくれていないのだろうかと思い、同法案の成立に大きな影響を与えたと思われる京都大学の藤井聡教授の著書を調べてみますと、日本がレジリエンス(耐久力や回復力)を身につけるための列島強靱化に必要なおおよその予算規模として【表2】のように書かれています。老朽化対策はもとより、エネルギー対策や東日本大震災の際も幾つかの地域で効果を生んだ防災対策などのソフト面まで視野に入っているので大変安心しました。

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■安全への備えは必要投資

マズローの欲求5段階説にもある通り、食・睡眠・排泄といった全ての動物共有の生理的な欲求の次にくるものは「安全の欲求」です。その確保は国家の役割の基本中の基本といっても良いでしょう。
 
思えば私が子供の頃は台風が来る度に雨戸を閉め、停電に備えてロウソクを用意していました。実際、時々停電も起こりました。舗装されていない道路も多く、砂埃が舞っていたものです。それが長い年月をかけて改善され、今の我々はその利便性の上で生活しているのです。また大規模に水害や停電、道路の陥没、地盤の液状化、震災や津波による倒壊や火災が起こった場合、個人ではどうにもなりません。地震も火山も多く、河川も急で水害が起こりやすく、台風の通り道でもある日本に住んでいる以上、安全への備えを疎かにするということは、何かが起こったときの被災者の命の軽視に他ならないと思うのです。

しかし、公共投資というと必ず、政府の財政の問題がパッケージの様に語られます。次回は公共投資の経済的な意義について話してみたいと思います。