社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.131 安倍政権への疑問:消費税と入管法

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私は昔からNBAアメリカのプロバスケットボールリーグ)が好きで、今でもインターネットニュースなどをチェックしているのですが、先日NBAを代表するスター選手のレブロン・ジェームズが面白いコメントをしていました。

「忍耐について話しているけれど、同じことを繰り返してはいけない。何度も何度も同じことをやって、同じ結果を期待しているのならば、それは狂気だ。だから僕たちは良くなる必要がある。何度も何度も同じ間違いを繰り返してはならない。」

今年、再建途上のロサンゼルス・レイカーズに移籍したレブロンがチームに苦言を呈したものです。

https://nbatopics.com/archives/9940

何と哲学的な、、、と調べてみると、下線部は政治的文脈でしばしば使われる言葉のようです。

 

失礼ながら、これを読んだ瞬間に頭に浮かんだのが、実行すれば安倍政権下で2回目となる消費増税です。

 

  • 消費増税と消費水準指数の推移

総務省統計局が消費水準指数というものをまとめています。ホームページによれば、2015年を100とし、「消費支出から世帯人員及び世帯主の年齢,1か月の日数及び物価水準の変動の影響を取り除いて計算した指数です。家計消費の面から世帯の生活水準をより的確に把握することができます。」とのこと。

統計局ホームページ/家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)

1996年以降の四半期データをグラフ化すると、このようになります。

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※「消費水準指数(世帯人員及び世帯主の年齢分布調整済):二人以上の世帯」を使用


1997年1-3月にポンと上げっているのが駆け込み需要、翌四半期にガクッと下がっているのが橋本政権下での消費増税

その後デフレで下がり続け、2014年1-3月にポンと上げっているのが駆け込み需要、翌四半期にガクッと下がっているのが前回の増税です。

 

こうして見ると、

・我々日本国民は、実質10%以上も消費できなくなっている(貧しくなっている)

・日本をデフレにたたき込んだ1997年の増税時よりも前回の方が悪影響が大きい

・デフレ期には増税後のV字回復など起こらず、悪影響が長期化する

・この間2回「実感なき経済成長」と言われる時期を経験しているが、国民は豊かになっていない

ことが分かります。

 

  • デフレ脱却を標榜しながらデフレを促進する!?

デフレ脱却を標榜して誕生した政権が、消費増税と緊縮財政で遅々として結果を残せない中、それでも次の消費増税を凍結(さらには減税)しないのが不可解です。

「安倍さんは分かっているけれども財務省が・・・」と言う声はよく聞きます。

戦後レジームからの脱却」を掲げ、短命に終わった第一次安倍政権下でも、財務省自民党内との綱引きがあったのでしょう。

 

とはいえ、奇跡的な総裁選の復活から、先般自民党総裁3選を果たした安倍総理です。さすがに4選はない中で、守りに入る意味はあるのか。

同じくアメリカの政治用語に、「It’s the Economy, Stupid」(馬鹿だな、要は経済なんだよ)という言葉があるそうです。ブッシュを倒したクリントン陣営のスローガンにもなったそうですが、次の消費増税でさらに経済を冷え込ませれば、悲願?の憲法改正どころか、政権の維持も難しくなるのではないでしょうか。

 

その点でさらに不可解なのが、外国人労働者受け入れ拡大のための「入管法改正」です。

入管法改正案、自民部会が了承 紛糾4時間 :日本経済新聞


移民政策の失敗が招いた欧州の治安悪化や政治的混乱。長期政権を誇った独:メルケル首相ですら党首退任と、首相任期満了後の引退発表を余儀なくされたのは、当然ご存じの筈。

「メルケル時代終焉」でドイツは不安定化する | ヨーロッパ | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

既に日本の外国人労働者は急増していますが、さらに周回遅れで移民政策を「今国会で成立させ、来年4月から施行を目指す」と急ぐ理由がわかりません。

 

「経済界が安い労働力を欲している」というのは、本政策が財界及び(主流派経済学=新自由主義の)学者が幅を効かせる経済財政諮問会議産業競争力会議の提案が基になっていますので、蓋然性は高いでしょう。

首相「外国人材活用を」 建設や介護で検討指示 :日本経済新聞(2014年の記事)

現在、事実上労働基準法を適応されておらず、失踪者が年間7000人を超えているという外国人技能実習制度の見直しであればともかく、

技能実習生の失踪7000人 駆け込み寺、元難民が奔走 :日本経済新聞

1号とか2号(こういう呼び方もどうかと思いますが)という新制度で外国人労働者を増やせば、少なくとも表向き政府は「企業に対して日本人と同等以上の報酬水準を求める」としていますので、

政府、入管法改正案を閣議決定 外国人労働者受け入れへ大きく転換 - 産経ニュース

日本人(と外国人労働者)の賃金上昇が抑制され、政権の言う「経済の好循環」=賃金を上げ、消費を増やすことで、投資にも好影響を与え、デフレ脱却と経済成長を実現、、、に水を差す結果になるでしょう。


議論が紛糾し、「3年後に制度の見直しを行う」とあるのが与党の理性なのか、その時には別の政権になっているでしょうから、現内閣の責任転嫁なのかは分かりません。

 

自民党の部会では、人手不足で悩む当の建設業の業界代表でさえ、

『「日本人の処遇(待遇)改善に、外国人が入ってきて水を差すことがないようにしてほしい」「建設現場は大変危ない。必要な安全教育や技能指導ができるだけの日本語能力をお願いしたい」などと要望。さらに「建設業は仕事が減ることも考えられる。(職を失って)不法滞在になった技能者に対してどのように対処するのかも明らかにしてほしい」とも訴えた。』

入管法改正案:外国人労働者どうする 業界から不安、要望 - 毎日新聞

と心配しているほどです。

 

人手不足の業界の代表として介護と建設が挙げられますが、政府は、
・介護報酬の引き上げや中高年層の雇用促進
・国土強靱化に向けた長期投資計画の立案
・人手不足に苦しむ業界の生産性向上のため投資拡大
といった政策が打てる筈。それを飛び越して外国人労働者に解を求めるのは、短絡的すぎるのではないでしょうか。

 

一方、安倍政権は繰り返し、「移民政策はとらない」と言っています。

言葉の定義の問題で、国連などでは一年以上にわたる居住国の変更を「移民」、おそらく安倍政権は永住権取得者を「移民」と呼ぶことにしたのでしょう。

移民(いみん)とは - コトバンク

となると、2号の対象者が永住権を取れるのだとすれば、真実を語っていないことになりますし、永住権をとれないのであれば、先の建設業界代表の方の第三の指摘「(職を失って)不法滞在になった技能者に対してどのように対処するのか」への回答は、強制送還ということになります。

 

ただし、当の安倍総理が、

『外国人に対して自国の価値観を強制するようなことがあってはならない。お互いが尊重し合えるような共生社会の実現に向け、環境整備を進めていく』

安倍首相「共生実現へ環境整備」=外国人材の受け入れ拡大-衆院予算委:時事ドットコム

と語っていますので、「強制送還」なのか「人道配慮」なのかすら分かりません。

 

ここで4年前に、外国人労働者問題を考えた時の投稿を参照します。

『移民受入国でありながら、仕事のない人は強制退去させるというドバイ方式や、メイドなど女性の単純労働者には半年ごとの妊娠検査を義務づけ、妊娠した場合には強制送還するシンガポールのようなやり方もありますが、日本に馴染むでしょうか?』

Vol.54 外国人労働者問題を考える - 社長の「雑観」コラム

 

欧州は、先の安倍総理の発言のように「多文化共生主義」を謳って失敗しました。

日本の場合、現状の外国人技能実習生さえ管理しきれておらず、国会審議と並行してドタバタと見直しが叫ばれてはいますが、世界に冠たる国民皆保険制度は外国人労働者を想定していないため、

・海外居住の家族、親族も健康保険(社会保険)の対象になる

国民健康保険の場合、滞在3ヶ月で対象になる一方、滞納者も多い

等々、スウェーデンやドイツのように「社会保障へのただ乗り」(フリーライダー)が既に問題になっています。

 

  • 「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」

安倍総理の言う(社会保障制度などの)環境整備は出来ていません。当の入管法改正案でさえ「受け入れ分野の詳細や規模は詰まっていない」(その後、業種別の「試算」は出しました)、即ち、大枠しか決まっていない曖昧な状況での強行は、日本国民と外国人労働者双方に禍根を残します。

何しろ、一方で「AIに職を奪われる」将来が語られているのですから。

 

最後に、改めて4年前のブログから引用します。

『スイスの作家マックス・フリッシュが外国人労働者問題について語った「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」という言葉があります。人間である以上、試しにやってみて、上手くいかなかったから元に戻しますというわけにはいきません。また企業にとっては人件費が抑えられて有利だとの声も聞きますが「業績不振になったらリストラ」では社会に対する責任を果たせません。「国体を重視する人」も「人権を重視する人」も「企業経営者」も入口で慎重に考える必要があるのです。』