Vol.54 外国人労働者問題を考える
社長の並木です。
2014年4-6月期の四半期GDPが発表になりました。消費増税駆け込み需要の反動減が予想されていたとは言え、大変厳しい結果となりました。日本をデフレに陥らせた前回の消費税増税時(1997年4-6月期)と比べても、
名目GDP(対前期比・年率換算):1997年1.0%、2014年▲0.4%
実質GDP(対前期比・年率換算):1997年▲3.5%、2014年▲6.8%
と悪化しており、GDPの55~60%程度を占める最大の項目である民間最終消費支出も名目で、
民間最終消費支出(対前期比・年率換算):1997年▲8.1%、2014年▲12.3%
と大幅減。構成要素の中では、純輸出(輸出額-輸入額)が対前期比で伸びていますが、実数をみると輸出は減少、それ以上に輸入(内需)が減っているだけですのでプラス材料とは言えません。
四半期だけの結果で詳しくコメントは出来ませんが、政府は早急に追加経済対策の準備をするべきだと思います。
- ドイツの移民問題
さて今日の本題です。前回、移民問題でドイツを例に挙げ『外国人労働者の受け入れについて、年数制限を設け、非常に抑制的に導入したにも関わらず、今では移民受入大国となって社会問題化している』と書きましたが、長文になってしまうため説明ができませんでした。今回はそれを補足した上で、移民や外国人労働者について考えてみたいと思います。
ドイツで移民が増えた要因は、概ね四つに分けられるようです。
一つ目は、第二次世界大戦敗戦後の復興期の人手不足です。日本が高度成長期を迎えたように、ドイツ(当時の西ドイツ)でも1950年代から「経済の奇跡」と呼ばれる好景気が訪れます。日本では、後に日本的経営と呼ばれ、強みの源泉とされた終身雇用・年功序列・労使一体の経営によって、社員の定着と生産性の向上で高度成長を実現しましたが、ドイツの場合、好景気によって生じた労働力不足を「ガストアルバイター」と呼ばれる外国人労働者によって補ったという側面があります。ガストはゲスト。一時的滞在者という意味ですので、そのまま定住することは想定されていませんでした。そういう協定を数カ国と結んで、外国人労働者を受け入れたようです。相手国も国内の失業問題の解消や、身につけてきた技能で帰国後に自国経済の発展に寄与して欲しい等の理由で国民を送り出したのでしょう。
しかし、雇用した企業側としては、ようやく仕事を覚え、技能を身につけた段階で帰国してしまうのはもったいないと思うでしょうし、西ドイツ人と比べて低賃金で働いてくれるのであれば利益も上げやすい。また労働者側も、家族を呼び寄せることができ、低賃金とはいえ自国で働くよりも好条件。加えて、社会制度も整っているのであれば自国に戻る理由が薄らぐなどの理由で定住していくことになります。以前、日本で3K(きつい・汚い・危険)という言葉が流行りましたが、そのような仕事を外国人労働者がしていたのであれば、その仕事に就きたいという自国民がいなくなったという面もあるのかもしれません。
そうして、例えばトルコとの雇用双務協定から1964年に「二年を超えて、滞在許可を延長できない」という文章が削除され、実質的な移民が誕生します。
二つ目は1990年前後の冷戦の終結。ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一されますが、同時に他の東欧諸国からの難民が流入します。
三つ目はIT革命。ドイツでは2000年に、ITなど専門性の高い外国人労働者を受け入れやすくするためのグリーンカード制度を導入します。ドイツは長らく「移民受入国ではない」と公式には言っていたのですが、同制度の導入後、2005年に新移民法を施行し、移民受入国であることを正式に認めた形になります。
そして、今回のユーロ危機です。ヨーロッパではシェンゲン協定を結んだ国家間では渡航の自由が認められています。現在、ユーロの中でドイツ経済は一人勝ちのような状況ですが、ギリシャやスペインの失業率は20%を超えています。そうなると当然のことながら南欧など経済不振の国々から労働者が流入するわけです。
その結果、ロイターによればドイツは2012年の移民受け入れ先として、OECD加盟国の中でアメリカに次いで第二位になり、
ドイツが米国に次ぐ移住先に、南欧から急増=OECD調査 | Reuters
Economic Newsによれば「全人口約8200万人のうち1500万人程度が移民の背景を持つ住民と言われている」「移民の背景を持つ国民の中途退学率や失業率は、移民ではないドイツ人と比較して約2倍となっていて社会問題とされている。ネオナチと呼ばれるグループによる外国人襲撃事件の発生、イスラム教移民の増大による文化摩擦なども数多く発生している。メルケル首相が『多文化社会を築こう、共存共栄しようという取り組みは失敗した』と発言したように、移民が社会に溶け込めていない状況は明らかである」という状況のようです。
- 他国の状況
文化・伝統・習俗・言語の違う人たち同士が融合するというのは並大抵のことではありません。ブラジルやアメリカに渡った日本人が現地に溶け込んで、現地の人たちから尊敬され、ご本人も成功したという話は耳にしますし、プラスの面があったからこそ、アメリカやカナダ、オーストラリアなどの移民国家が発展してきたのでしょう。
ただ、その代表格であるアメリカでさえ、アメリカ開拓史は先住民であるインディアンにとっては悲劇の歴史でしょうし、現在は人種・民族間の格差拡大やそれに伴う麻薬などの犯罪の増加が問題になり、リンドン・ジョンソン政権下で行ったアメリカのバイリンガル化(米語を強制せず、スペイン語でも生活していけるようにする)プロジェクトの影響もあってヒスパニック系移民が増加し、2050年には白人人口が半分を切るという予測も出て、移民法の改正について議会が二分されたりと様々な混迷を生んでいます。(参考:『夢の国から悪夢の国へ』 増田悦佐著 東洋経済新報社 及び
視点・論点 「アメリカ移民法改革の動向」 | 視点・論点 | 解説委員室:NHK)
経済評論家である三橋貴明氏の著書『移民亡国論』(徳間書店)によればイギリスでも、「2011年~12年の人口統計で、首都ロンドンにおいてネイティブのイギリス人が45%にまで落ち込んだことが判明した。<中略>信じがたいことに、ロンドンでは、『バッキンガム宮殿をモスクにせよ』と叫ぶ、イスラム系若者を中心とした組織が実在する。彼らはイギリスの女王陛下について、『イスラム教に改宗するか、もしくはイギリスから出ていけ!!』と平気で口にするのである」とのことです。
こうした国々に限らず、世界各地で移民による暴動や治安の悪化、文化的な摩擦などが社会問題となっています。
<フランス>
<スウェーデン>
焦点:移民大国スウェーデン、暴動で露呈した「寛容政策」のひずみ | Reuters
- 日本における外国人労働者受け入れの検討状況
さて、日本では先に発表された国家再興戦略改訂版において、
「中長期的な外国人材の受入れの在り方については、移民政策と誤解されないように配慮し、かつ国民的なコンセンサスを形成しつつ、総合的な検討を進めていく。
なお、外国人材の活用を進めるに当たっては、基本的な価値観を共有する国々との連携を強化するという観点も踏まえつつ、取組を進める」
という注釈を中長期的検討としてつけながら、
・外国人技能実習制度の対象職種の拡大や期間の延長、受け入れ枠の拡大
・介護分野における外国人留学生の就労
・建設及び造船分野における外国人材の活用
・高度外国人材の受け入れ要件の緩和
・国家戦略特区における外国人家事支援人材の受け入れ
などが取り上げられています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbun2JP.pdf
「外国人材」と「移民」という言葉の定義の問題はここでは置いておきます。今回の検討の背景には人手不足問題があるのでしょうが、その対策ならば他にもいろいろと考えられます。一方ドイツに学べば、外国人技能実習生などが『ガストアルバイター』と同じ道を歩まないとも限りません。それに加え、そもそもアベノミクスの目的はデフレ脱却であった筈です。もし、安易に外国人労働者で低賃金の労働力を確保しようとすれば、現在日本国籍を持っている人の賃金上昇を阻害してしまうため、直接的にデフレ脱却の足を引っ張ります。
移民受入国でありながら、仕事のない人は強制退去させるというドバイ方式や、メイドなど女性の単純労働者には半年ごとの妊娠検査を義務づけ、妊娠した場合には強制送還するシンガポールのようなやり方もありますが、日本に馴染むでしょうか?
(参考:http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/07/PDF/099-100.pdf)
スイスの作家マックス・フリッシュが外国人労働者問題について語った「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」という言葉があります。人間である以上、試しにやってみて、上手くいかなかったから元に戻しますというわけにはいきません。また企業にとっては人件費が抑えられて有利だとの声も聞きますが「業績不振になったらリストラ」では社会に対する責任を果たせません。「国体を重視する人」も「人権を重視する人」も「企業経営者」も入口で慎重に考える必要があるのです。
私が少し調べただけでもこれ位の情報は集められるのですから、目先の労働力不足に右往左往せず、国家再興戦略にも書かれている「国民的なコンセンサスを形成」するために、最初の段階でしっかりと国民に情報を開示して、どういう国にしていくのかを議論した上で、政策を検討して頂きたいと思います。