社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.130 国連演説と消費税

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9月に行われた国連総会で、安倍総理は演説の冒頭

「議長、御列席の皆様、向こう3年、日本の舵取りを続けることとなった私は、連続6度目となります本討論に、思いを新たに臨みます。

今からの3年、私は、自由貿易体制の強化に向け、努力を惜しみません。北東アジアから戦後構造を取り除くために、労を厭(いと)いません。

思いますに、日本国民は、自国の指導者に対し、自由貿易の旗手として立つことを切望しておりました。なぜなら日本自身、戦後、自由で開放された経済体制の申し子として、貿易の利益に浴し、目覚ましく成長した国だったからです。

<中略>

日本には、近代日本の産業化を支えた石炭のほか、めぼしい資源はありませんでした。しかし戦後の日本は、貿易の恵みに身を委ねたところ、資源が乏しくても、奇跡と言われた成長を実現できたのです。

貿易と成長の間の、いまや常識と化した法則を、最初に身をもって証明した国が日本です。日本は、貿易の恵みを、世界に及ぼす使命を負っています。」

と語りました。

平成30年9月25日 第73回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説 | 平成30年 | 総理の演説・記者会見など | 記者会見 | 首相官邸ホームページ

 

「北東アジアの戦後構造」も気になるのですが、今回は脇に置きます。

指摘したいのは、日本の経済成長に関する安倍総理の前提が間違っているということです。

 

  • 日本は「貿易立国」か?

「日本は貿易立国」というフレーズは時々耳にしてきましたが、調べてみると1955年度~高度成長期の終わる1973年度まで日本の輸出依存度(輸出額÷名目GNP:国民総生産)は9~12%に過ぎません。

1955年からの需要項目別一覧 - 内閣府

※当時はGDP国内総生産)ではなく、GNPが主流でした。表中:国民総支出GNE)=国民総生産(GNP)と記載されています。

 

オイルショック後11~15%に上がりましたが、バブル期の1986年度からはまた10%程度に戻り、2000年代中盤(小泉政権期)から再び上昇し、2017年度は18%。それでも、先進国の中ではアメリカに次いで低い、内需大国です。

※1994年度以降は輸出額÷GDPで算出

国民経済計算(GDP統計) - 内閣府

 

京都大学准教授:柴山桂太氏は、

『戦前と戦後で分ければ、日本は戦前のほうが外需依存型だったわけでしょう。そんな経済史上の事実の前提もぬきにして、「自由貿易が日本の繁栄を築いた」と言われても、困りますよね。』

『戦後に貿易依存度が若干、高くなったのは、終戦直後や高度経済成長期ではなくて、日本経済が不調になってから。いわゆる「失われた20年」の、デフレ期に入った後なんですね。

<中略>小泉政権以降というか、2000年代に入って輸出がむしろ伸びています。これは決して褒められたことではなくて、内需がしぼんだから外需に頼った。外需依存型の経済というのは、非常に脆弱なんです。外部環境でショックがあったときに打撃が大きいので。』

(出典:『グローバリズム その先の悲劇に備えよ』 中野剛志・柴山桂太著 集英社新書 P134-135)

と語っています。

 

  • 消費の重要性と消費税

因みに2017年度のGDPに占める割合は、民間最終消費支出55%、民間住宅3%、民間企業設備16%、政府最終消費支出20%、公的固定資本形成5%、純輸出(輸出-輸入)が1%です。

この辺りの前提を間違えてしまうと、消費をないがしろにする政策=消費増税に舵を切ることになります。

首相、消費税増税へ「政策総動員」 19年10月予定通り :日本経済新聞

記事には、

「あらゆる政策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」

とありますが、一方で、

「首相は増税で得られる税収の半分を国民に還元し、幼児教育を無償化すると言明した。」(下線部:並木加筆)

とも。


半分を「政府の借金」の返済に充ててしまえば、経済成長には寄与しません。

その分を、軽減税率や補正予算でカバーするという事なのでしょうが、ご存じのように、2013年に成功したアベノミクス効果は、2014年の消費増税5%→8%で大きく後退。増税判断時、消費はV字回復すると多くの学者や財界人がおっしゃったにも関わらず、L字低迷のままですから、今回も想定を超える可能性があります。


何しろ今回、増税幅は2%ですが消費税10%となれば、物を買う時に支払う税額を誰でも計算できてしまうため、前回の影響額の3分の2という単純計算は成り立ちません。

加えて、

・翌2020年にはオリンピック特需が終わる

・「働き方改革」の負の側面として、残業時間=残業代の減少が4~8.5兆円見込まれる

残業抑制で4━5兆円の所得減想定、3%賃上げで還元目指す=政府筋 | ロイター

というタイミングの悪さ。

 

そもそも、政府は「経済の好循環」を回していく為に、財界に3%の賃上げ要請をしていた筈です。経済の好循環とは、「賃上げ→消費拡大=企業の売上拡大→賃上げ・・・」というサイクルではないのでしょうか。

賃上げされても、消費増税では、消費意欲が減退します。

 

また、経済評論家の三橋貴明氏は、

「消費税は、

● 低所得者層の「消費税対所得比率」が高くなり、高所得者層は低くなる

● 赤字企業、失業者、低所得者、年金受給者であっても、容赦なく徴収される

という「逆累進課税」の欠陥を持っており、さらに税金が本来持つべきビルトインスタビライザー(埋め込まれた安定化装置)の機能がありません。

好景気だろうが、不景気だろうが、税収が変わらない「安定財源」である消費税は、まさに欠陥税制なのです。」

残酷な消費税を本当に増税するのか | 三橋貴明オフィシャルブログ「新世紀のビッグブラザーへ blog」Powered by Ameba

と主張していますが、私も同感です。

 

片や、トランプ大統領は同じ国連総会で、

アメリカの景気はかつてないほど好調だ」

アメリカ史上で最大の減税と改革を行った」

アメリカはアメリカ人が統治する。私たちはグローバリズムというイデオロギーを拒否し、愛国心という方針を取り入れる」

と演説したそうです。

英語で読むトランプの国連演説 グローバリズムより「愛国心」を選ぶべき理由とは | ザ・リバティweb

 

お二人の主張には大きな隔たりがあります。

そもそもグローバリゼーションは、しばしばアメリカナイゼーションと呼ばれる通り、レーガン政権以降、米国が主導で進めてきたものです。その理論的バックボーンである新自由主義も、代表的イデオローグ:ミルトン・フリードマン氏らによって、アメリカで市場原理主義の度合いを深めつつ、経済学の主流派となりました。

にも関わらず、国益にそぐわないと思えば、枠組みを変える。傲慢とも変節とも言えますが、我々にとって重要な教訓です。

民主主義国家では本来、「国民に安全と豊かさを提供する」ことが、特定の経済イデオロギーとは比較にならないほど重要なのです。

 

  • 日本の経済政策の「経路」

さて、日本では米英に遅れて(ないしは米国の影響を受けて)、1990年代中盤から新自由主義政策に舵を切り、アメリカ型経済システムへの改革が進められました。

バブル崩壊を経験し、「何かを変えたかった」心情はわかります。

しかし、当の改革によってデフレに突入。事態は悪化します。その後、軌道修正すれば良かったのですが、「(状況が悪いのは)改革が足りないからだ」と強弁。以降、「構造改革」と「緊縮財政」が続けられますが、閉塞感は増すばかりです。

その間、小渕政権や2013年の安倍政権といった僅かな時期に「財政拡大」が行われ、同時期に景気回復したという成功体験がありながら、、、

 

景気低迷期には減税・財政拡大、逆にバブル懸念が拡大したら増税・緊縮財政、という経済政策に戻れないものでしょうか。


前回、「経路依存性」を紹介しました。

Vol.129 国土強靱化vs経路依存性 - 社長の「雑観」コラム

何らかのキッカケで初期の軌道が決まると、それが正しい!という自己強化メカニズムが作動し、不都合な事実があっても、その軌道が固定化し、増幅するというものです。

 

20年以上続く新自由主義・緊縮財政・構造改革という経路、2012年に民主党:野田政権下で行われた三党合意に基づき成立した「消費増税法」という経路、を増幅させるのではなく、今、切り替えることができるか否かによって、日本経済の姿が大きく変わると思います。