社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.129 国土強靱化vs経路依存性

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たった2ヶ月前、西日本豪雨大阪府北部地震気象庁が「命に危険がある」とした猛暑を教訓に、防災投資の必要性を考えましたが、その後も台風21号の上陸・関西国際空港の閉鎖、北海道胆振東部地震・北海道ほぼ全域がブラックアウトと大規模な自然災害が頻発しています。

当社社員にも影響を被ったメンバーがおりますが、地震とブラックアウトの際は「絶望的」だったと言っていました。

 

改めて、心から犠牲者のご冥福をお祈りし、今なお苦しんでいらっしゃる被災者の皆様にお見舞い申し上げます。

 

  • 安倍首相と国土強靱化

安倍首相は、

『18日、官邸で開かれた平成30年防災功労者表彰式で、地震や豪雨など相次ぐ災害を踏まえ「全国の防災、減災、国土強靱(きょうじん)化の緊急対策を3年間で集中的に実施する」と強調した。』

安倍首相、防災功労者を表彰「緊急対策を3年間で集中的に実施」:イザ!

そうですが、本来、首相の公約には当初から「国土強靱化」が盛り込まれていた筈。本当は既に推進していなければなりません。

今回こそ、消費増税以来の緊縮策を脱し、本格的な国土強靱化のための予算措置がなされるか、注視したいと思います。

 

日本が自然災害大国なのは、一般財団法人国土技術研究センターのレポートからも明らかです。

『日本の国土の面積は全世界のたった0.28%しかありません。しかし、全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の20.5%が日本で起こり、全世界の活火山の7.0%が日本にあります。また、全世界で災害で死亡する人の0.3%が日本、全世界の災害で受けた被害金額の11.9%が日本の被害金額となっています。』

自然災害の多い国 日本


阪神淡路大震災以降、地震の活動期を迎え、近年は台風の大型化・ゲリラ豪雨・猛暑・豪雪など明らかに自然災害が増えています。

そんな自然災害大国であるにも関わらず、(前々回もご紹介したように)橋本龍太郎政権以降の歴代内閣は、公共投資を削減し続けてきました。

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https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2018/seifuan30/17.pdf(P13)


しかも、1996年以降の公共投資の伸び率は日本が突出して「低い」のです。(グラフ:右下)

しかも、しかも、右下のグラフと左下のグラフ「各国の名目GDP成長率」=経済成長率にはかなりの相関が見られます。

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https://www.sato-nobuaki.jp/report/2017/20170529-002.pdf

 

公共投資にはフロー効果とストック効果があるので、それも当然です。

『フロー効果とは、「ある期間にお金が流れると多くの企業や人に順次お金が流れ、利益を生んだり雇用や支出を増加させたりすることができる」というものである。20年にもわたって需要不足によるデフレに沈むわが国では、公共事業を拡大するとフロー効果によって需要が拡大し、デフレからの脱却に近づく効果もある。
しかし、公共事業の本来の目的はフロー効果を狙うものではなく、河川でいえば堤防を上流から下流まで整備することによって、降った雨が河川から田畑や市街地にあふれることなく安全に海に流れ、流域の人々の生活の安全と安寧を確保するというストック効果を求めて行うものなのである。』(出典:「危機感のない日本」の危機 大石久和著 海竜社 P139-140)

 

非常時にもライフラインを維持できるようにする為には、これまで進めてきた緊縮財政・構造改革・民営化の流れに逆らって、政府の責任を拡げ、予算を増やす必要があります。

冗長性と言いますが、災害への備え(堤防など)やバックアップ(発電能力など)を用意しなければいけませんので、平時に見れば非効率となるからです。

効率=豊かさではありません。冗長性が安全のみならず、災害時の経済的被害の縮小ももたらします。


土木学会の推計によると、例えば南海トラフ地震の経済被害は、20年累計で1,240兆円にも上ります。資産被害は170兆円、国と地方が失う税収の総額は131兆円です。それに対して、38兆円以上の防災対策を講じれば509兆円=41%の減災ができるのです。

レジリエンス委員会報告書「『国難』をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」を公表しました | 土木学会 会長特別委員会

※添付されている『概要「国難」をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書』を参照。

 

南海トラフ地震に関しては、高橋洋一氏も確率論の観点から、ユニークなツイートをしています。

CDSとは国や一部企業の債務不履行などに備える保険のようなものですが、日本国債の保険料率は0.2%

南海トラフ地震の発生確率は、今後30年以内に70~80%ですので、

高橋洋一(嘉悦大) على تويتر: "CDSから計算される日本の破綻確率は今後5年間で1%程度。南海トラフ地震が今後5年間で起こる確率は2割程度なので、それに比べるとはるかに低い数字だわな。南海トラフで直撃弾を食らうとかなり不味いので、その前に防災国債発行してできるだけ備えるべき。もち今回の豪雨対策にもなる"

という考え方も成り立ちます。


歴史に目を向けると、戦国末期、見渡す限り不毛なアシ原の湿地帯だった関東平野に「転封」という名の「左遷」をされた徳川家康は、利根川の流れを銚子に向けて開削。当初は東北の伊達への防御目的があったものの、3代将軍家光の時代になっても拡幅・掘り下げ工事を続け、何と11代将軍家斉の時代に川幅が73mにまで広がります。

この利根川東遷によって、関東平野を洪水から守り、湿地の乾田化に成功。それが現在の関東平野となり、東京・首都圏の礎になっているのです。

(この段は『日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】』 竹村公太郎著 PHP文庫を参照・引用)

 

どの国でもそうですが、特に自然災害の多い日本では、防災投資を続け、そのインフラのストック効果によって安全・安寧を、さらに経済効果も得るという営みを続けていく必要があります。

 

  • 「日本の未来を考える勉強会」の提言

現代の政治家からも、新たな動きが生まれています。
先に「デフレ脱却」に向けた提言を行った「日本の未来を考える勉強会」が、

https://www.andouhiroshi.jp/wp/wp-content/uploads/2018/07/26ed80e2cec31706c6b8a0b3d9b7dfbd.pdf

「国土強靱化投資」に関しても提言を行いました。

https://www.andouhiroshi.jp/wp/wp-content/uploads/2018/08/proposal_20180810.pdf

 

この提言のポイントは、国土強靱化の10~15年計画を策定し、国土強靱化投資は「国債」を財源とし、プライマリーバランス(以下、PB)の例外項目とすること。つまり、一般企業が投資を行ったときのように「減価償却」をすることです。

PBの決定的な問題は「投資」に関しても、一律歳出として勘定してしまうことです。結果、将来の安全や成長のための投資が行われにくくなります。

企業ではキャッシュフローが重要ですが、通貨発行権を持ち、自国通貨建ての国債を超低金利で発行できる現在の日本政府が、何故PBを指標にするのか、本当に謎です。

 

減価償却とは、例えば、企業が鉄筋コンクリートの建物を建てたら、長期にわたって使用する訳ですから30~50年間でかかった費用の償却をするということです。

本来、建設国債はそれと同じ考え方で、早めに防災等のインフラを造って国民を守り、守られている期間で償却していきましょうというものですので、当たり前の提案なのですが、「骨太の方針」に(延期されたとはいえ)PB黒字化目標が残ってしまったため、「例外項目」という提言をせざるを得なかったのでしょう。

加えて、すっかり悪玉にされてしまった「公共事業費」の呼称を「公的投資」に、「建設国債」を教育・技術開発・防衛も含めて「投資国債」に改めるというところです。

 

  • 政策の経路依存性

中野剛志氏は、大著『富国と強兵』(東洋経済新報社)の中で、

『国家の政策や体制には、現状を維持しようとする「運動」「慣性」あるいは「経路依存性」が働く』(同書P552~553)と指摘しました。『小さな事件や偶然をきっかけにして初期の軌道が決まると、(それが正しいんだという)自己強化メカニズムが作動し、その軌道が固定化し、増幅する』(同書P518( )部並木加筆)ということです。

経路依存性を断つ為には、呼称の変更も案外重要かもしれません。

 

日本は、国内的には1995年自社さ政権下での武村蔵相の「財政危機宣言」、上記橋本政権での六大改革、あるいは小泉政権での「痛みを伴う改革」「聖域なき構造改革」、更には「公共事業悪玉論」やデフレによる所得減少から「政府も節約せよ」という「空気」によって、海外からの「グローバリズム規制緩和非関税障壁撤廃」要請によって、緊縮財政という経路が自己強化され続けてきました。


同書には、

『社会が危機的な状況にある時には、従来の主流であったパラダイムに対する信頼が弱まり、それまで傍流に甘んじていた思想に光が当たる機会が生じる』(P492)

とも、

『むしろ不確実性の高い変動期だからこそ、不安から逃れない人々は確実性を求めて慣れ親しんだ既存の制度や方針にますます固執するのである。そして、それが悲劇を生む』(P553)

とも書かれています。

 

災害はいつ我が身に降りかかるかわかりません。

より安全で豊かな未来を築くためにどうすべきか、真剣に考えるべき時はとっくに訪れています。