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社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.88 クルーグマン教授の提言

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少々時間があいてしまいましたが、前回の「国際金融経済分析会合」におけるスティグリッツ教授の提言に続き、今回は、もう一人のノーベル経済学賞受賞者クルーグマン氏からの提言をご紹介したいと思います。


首相官邸のホームページ「国際金融経済分析会合」第三回=クルーグマン教授の回は「配付資料なし」となっているものの、4月4日「現代ビジネス」に独占インタビュー記事が掲載されました。

お時間があれば、是非お読み下さい。

クルーグマンが明かす「安倍首相が極秘会談で語ったこと」〜消費税10%にするのか、しないのか 独占インタビュー | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]

 

特に重要な提言は以下の部分だと思います。

『そもそも、金融政策だけでインフレをもたらすことはできません。

私は今回の会談で、安倍総理にこう強く訴えかけました。

「金融政策だけではなく、いま日本政府が決断すべきは強力な財政政策だ。日本はいまだアベノミクスの第2の矢を放っていない」

「金融政策と財政政策を合わせて出動し、さらに予定している消費増税もやめるべきだ。そこまでしなければ、日本はインフレを実現できない」

これは今回の会談で、安倍総理に必ず伝えなければいけないと決めていたものです。』(出典:上記『現代ビジネス』P3)

 

そして、財政出動の規模と分野について、

『より具体的に言えば、GDPの2%ほどの額の財政出動が必要です(編集部註。日本のGDPは約500兆円なので、その2%は10兆円)。

労働人口の減少という問題を抱えている日本では、投資需要を生み出すのは難しい。その意味でも、財政支出インフラストラクチャーのニーズがある分野に投じるべきです。』

それに対して、財政赤字を心配する安倍首相の質問に対し、

『日本は短期的には財政危機になりようがない。ここ数年の財政赤字のことを心配するよりも、デフレから脱却するという目的のほうがはるかに重要だ』

と論じています。(共に出典:上記『現代ビジネス』P4)

 

以下、いくつかの点について考えてみたいと思います。

 

  • 「金融政策だけでインフレをもたらすことはできない」

現在の黒田総裁・岩田副総裁の日銀体制は、2013年3月に「2年で2%のインフレ率達成」のコミットメントと共に誕生し、異次元の金融緩和を主導しました。しかし、3年以上経った現在でも、日銀目標であるコアCPI(消費者物価指数:生鮮食品を除く総合)が低迷を続けている(2月時点で前年同月比0.0%)のはご存じの通りです。

統計局ホームページ/消費者物価指数(CPI) 全国(最新の月次結果の概要)

「デフレは貨幣現象である」と喧伝され、量的緩和を行えば解決するとの説もありましたが、現実は遠く及びませんでした。「消費増税」が重石になったことも大きな理由として挙げられるでしょうが、貨幣量を増やしても、そのお金が「金融経済」から実際の商品やサービスの購入という「実体経済」に流れなければ物価上昇には繋がらないということです。史上最低の金利水準であっても貸出先がないという「需要不足」の日本においては、金融政策だけの効果は限定的でした。

 

  • 「日本は短期的には財政危機になりようがない」

クルーグマン教授は、よく取り沙汰される“日本の財政破綻論”を明確に否定しています。

私はこの財政破綻論こそ、20年もの長きにわたってデフレを脱却できず、その間(1997年~2015年)アメリカの名目GDPは約2倍、中国に至っては(統計データの信憑性に疑問はあるものの)8倍以上の成長をしているにも関わらず、日本は4~5%減!に留まってしまった元凶、それも中核に位置するものだと思っています。

 

デフレ(需要不足)下では昨年と同じだけの仕事をしても、商品が売れないので、価格を下げざるを得ない。すると同じ量を売っても売上や利益が低下しますから賃金も下げざるを得ないという負の循環に陥り、名目GDPとそれに連動する税収が低迷します。そして不況によって失業が発生、人は好不況に関わりなく毎年年齢を重ねますので社会保障費は増加し、財政赤字(=国債発行残高÷名目GDP)が拡大します。しかも分子が増加し、分母が増えませんから加速度的に膨らんでしまいます。

その時、「短期的には財政危機になりようがない」という正しい認識に基づけば、財政出動によって、政府が仕事(不足している需要)を作り、成長路線に戻すことが出来るのですが、「財政破綻する」という誤認に囚われると政府も一緒になって財布の紐を締めてしまうため、いつまで経っても需要不足=デフレ不況を抜け出せないのです。実際、2015年6月にはプライマリーバランス目標が閣議決定されています。加えて本来、歳入を増やすための消費増税で逆に景気が悪化し、所得税法人税を含めた税収がかえって減ってしまっては救いがありません。

 

ここでクルーグマン氏の提言に敢えて異論を述べるとしたら、「労働人口の減少という問題を抱えている日本では、投資需要を生み出すのは難しい」の部分です。本来、労働人口が(人口全体を上回って)減少するのであれば、生産性向上のための技術投資・教育投資・インフラ投資をしなければなりません。しかし、デフレで総需要が増えない上、中国やEUの混乱に代表されるような「問題を抱えた世界(troubled world)」(クルーグマン氏)ではリスクが大きすぎて、民間企業は大型の長期投資には二の足を踏むというのが実態ではないでしょうか。その分を政府が担うべきなのです。「デフレ脱却は政府にしかできない」と主張させて頂いている理由です。

 

何故「日本は短期的には財政危機になりようがない」かというと、前回もお話ししたように、最も強い理由は、自国通貨建ての国債は政府が通貨発行権を持っている以上破綻しようがないということです。

加えて、日本のように貯蓄過剰(=経常収支黒字)の国は、意図的に働きかけない限り、国債の殆どが国内で保有されます(日本の場合は90%超)ので、国債を発行・償還しても国債と貨幣が国内をぐるぐる回るだけ。政府の借金の貸し主が国民であるため、国債発行額が増えようと国民が貧しくなることはあり得ないのです。

 

スティグリッツ教授は対象分野として、インフラ・技術・教育・健康などを挙げていました。クルーグマン教授の方がざっくりした印象ですが、将来の生産性向上や国力向上につながる資産を残すという点では一緒です。

 

私は財政出動が語られる際、真っ先に給付金型のものが検討されるのが不思議で仕方ありません。並行して「将来世代にツケをまわすな」という反対論もつきまといます。
給付金も今の需要を増やす効果がありますので反対はしませんが、将来不安が強い中ではその何割かを(給付金そのものか、給与からかは別として)貯蓄に回すのではないでしょうか?その分だけ景気対策の効果が削がれてしまいます。インフラや技術、教育などへの投資であれば、その点を政府がコントロールできる上、国債発行残高と共に将来世代に資産が残るので「将来世代にツケをまわすな」という人の主張にも合致する筈です。

 

財政破綻論」と共に「公共事業悪玉論」も蔓延していますが、一度、考え直してみる必要があるのではないでしょうか。