社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.84 日銀のマイナス金利政策とデフレ脱却

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年明けから続いた株価低迷や世界的な市場の混乱を背景に、日銀は1月29日にマイナス金利導入を決めました。これまでの量的緩和国債の買い取り)だけでなく、金利による金融緩和に着手したことは評価するのですが、果たして思惑通りに進むでしょうか、、、

 

最初にどういう内容かおさらいしてみましょう。

銀と金融機関が取引に使う「日銀当座預金」というものがあります。ここには準備預金制度に従って金融機関が保有する預金の一定割合を預ける「準備預金」と、それを超える「超過準備額」が預け入れられているのですが、その額が黒田日銀の量的緩和以降に急増。250兆円に膨れあがっています。

http://www.tokyotanshi.co.jp/past/cabs/gyoutai.pdf

(上記URLの右下のグラフを見ると、その増え方がよくわかります)

日銀は量的緩和で市中に出回っている国債を買い取っているわけですが、買い取った代金がこの日銀当座預金に振り込まれるからです。

 

本来の銀行の役割・ビジネスモデルを考えると、準備預金額を超えるお金は貸付や投資に振り向けて金利収入を稼ぐのですが、不況下ではお金を借りたいという先が不足します。そこでリーマンショック後だったと思いますが、特別に超過準備額に0.1%の金利をつけることになりました。

低利とは言え超過準備額が220~230兆ともなれば、2,200~2,300億の金利収入を得られますので金融機関の救済という意味合いを持つ一方、金融緩和をしても実体経済にお金が回らないと一因とも言われてきました。

 

そこで今回のマイナス金利です。

銀行が貸し出しを増やし、企業に設備投資をしてもらうことで需要を生み出したいのでしょうが、全額にマイナス金利を掛けると金融機関の収益への悪影響が大きくなりすぎます。上記2,200~2,300億の金利収入がなくなるだけでなく、長期金利も下がる上、貸付先も不足しているのですから金利引き下げ競争が起こり、金利収入全体を圧縮するからです。

そこで現在の超過準備額まではこれまで通りの金利をつけ、それを超える部分に対してマイナス金利を付すという中庸策がとられたわけで、先行してマイナス金利をつけているECB(欧州中央銀行)などよりは金融機関への配慮が感じられます。

また別の見方をすれば、今後の動向次第で第二、第三の金利政策も採れる余地を残しているわけです。

 

さて、金融機関はどう動くでしょうか?

 

まず少しでも金利がつく国債に人気が集まります。

実際、今回の発表を受けて翌営業日である2月1日に長期金利が一時過去最低の0.05%!!となりました。日本国債が大人気です。

国債先物が高値更新、長期金利は一時過去最低0.050% | Reuters

 

次に国債に比べてリスクはありますが、株価が上がります。

16,900円台になっていた日経平均株価は同じく2月1日には17,800円台に回復しました。外国人投資家の売買額(保有額ではありません)が七割を超える日本では、先日利上げをした米国との金利差が大きくなるので円安方向に動くことも株価には追い風です。

また、日本企業は3月決算が多く、海外子会社などの業績は円換算して連結決算に取り込みますので、円安の方が利益が増えるというメリットもあります。

安倍政権は株価を強く意識していますので好材料なのでしょうが、中国のバブル崩壊や原油安といった世界経済の不安要因はそのままですので、どこまで効果があるかは疑問です。

 

第三がマイナス分の転嫁です。

金利の低下は借りる側には有利ですが、預ける側には不利になるので、その意味でも企業がお金を使うことを期待しているのでしょう。

2月3日の日本経済新聞に「三菱東京UFJ銀行が大企業の普通預金への口座手数料導入を検討」という記事が掲載されました。

三菱UFJ銀、企業の普通預金に手数料 マイナス金利受け検討 :日本経済新聞

ご注意頂きたいのは、現状では個人や中小企業は対象外となっている点です。我々の預金もマイナス金利になるのかと心配する人もいるようですが、預金金利の引き下げは起きると思うものの、さすがにマイナスにするとお金を他行に移したり、タンス預金にしたりと銀行からの預金流出が加速しますので、そう簡単にできる意思決定ではありません。

またそうなった場合、消費を増やすというより、むしろ将来不安から消費を減らすという逆効果になりかねません。

 

  • ボールは民間よりも政府に渡されている

そして、本来の狙いと思われる貸し出しの促進。

安倍政権も民間企業に賃上げや投資の増強を求めており、今回のマイナス金利の後、「ボールは民間に委ねられた」という論調も見受けられましたが、金利を下げれば投資や消費が促進されるという経済理論の「デフレ下での実効性」は甚だ疑問です。

 

マイナス金利発表と同じ日、日銀は2%の物価上昇目標の達成時期を、「16年度後半ごろ」から「17年度前半ごろ」へと先送りしました。もともとは13年4月に「2年程度で物価上昇2%を達成できる」と黒田総裁や岩田副総裁が宣言していたにも関わらずです。原油価格の下落が主な要因とされていますが、食料及びエネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)を見ても12月度は前年同月比+0.8%(日銀が正式に指標にしているコアCPIは+0.1%)でしかありません。日銀に甘くコアコアCPIを使って、さらに宣言から2年半以上経っていることを脇に置いても、2%と0.8%では1.2%もの差があります。達成率40%ですね。

統計局ホームページ/消費者物価指数(CPI) 全国(最新の月次結果の概要)

 

これまた同日、総務省の家計調査が発表されましたが、こちらの【二人以上の世帯】消費支出(実質)の前年同月比は何と▲4.4%。四ヶ月連続で前年割れしています。

統計局ホームページ/家計調査報告(二人以上の世帯)―平成27年(2015年)12月分速報―

 

経営者の端くれとして断言しますが、金利の高低以前に儲かる見込み、即ち需要が増えなければ投資を増やせません。

また海外投資を行っても日本のGDPは増えませんし、就業者数の増加は好材料ではあるものの、経済の先行きが不安であれば賃金上昇とそれによる消費拡大にもブレーキがかかります。

 

金融政策のみによるインフレ目標の達成・デフレ脱却策は失敗だった。そこまで言わなくても消費税増税に代表される緊縮財政策によって相殺されてしまったと見るべきでしょう。

 

民間企業が頑張るのは当然として、「デフレ脱却は政府にしかできない」のです。

なぜなら、デフレという需要不足の中で、経済合理性に関係なく投資や消費を増やす。しかも何兆円という需給ギャップを埋めるほど増やせるのは日本政府しかいないからです。

 

「政府支出を積極的に拡大することによって経済成長が実現する」ことを多面的に論じた良著『積極財政宣言 なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論)の著者:島倉原(はじめ)氏は同書に、各国の財政支出と名目GDPの伸び率の相関を示した以下の表を載せています。

島倉 原 - タイムラインの写真 | Facebook

積極財政と経済成長は密接な関係があるのです。

 

来年度予算を審議している最中ですから今すぐには出来なくても、予算成立後、閣議決定している「プライマリーバランス目標」は間違いだったと認めて、早期に大型補正予算を組んで欲しいと思います。財政出動のためには赤字国債建設国債の発行が必要になりますから、マイナス金利に苦しむであろう金融機関にとっても救いの手となるでしょう。

今は「日本政府の借金が多い」ことが問題なのではなく、「国債発行が足りない」ことが問題になっているのです。異次元緩和を行ってもインフレ目標を達成できず、消費も増えない。“国債が暴落(=金利が急騰)する”という煽り文句を言う人もいる中で、逆に国債金利はかつてないほど低いという現実の中で、緊縮病に囚われる必然性はありません。