社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.59 デフレ脱却に向けて~消費税とグローバル化の弊害~

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 前回の投稿で、消費税再増税の可否判断は12月と書きましたが、前倒しの可能性が高まっています。11月17日に7-9月期のGDP一次速報値が発表になるのですが、それを受けて早々に延期(中止?)を判断し、解散総選挙を行うという説です。消費税増税法案は当時の民主党野田政権下で、現在の与党である自民党公明党が三党合意しているわけですから、方針転換には国民に信を問う必要があるとの見方です。現在の国会の会期は11月30日までですから解散を行うのであれば、確かに2次速報(12月8日予定)を待っていては時機を逸してしまう可能性があります。

 政局には詳しくないのでどうなるかはわかりませんが、消費税再増税は当面の経済動向や国民生活に直結するばかりでなく、将来世代や世界経済にも影響を与える一大事ですので「国民に信を問う」ことにも意義はあると思います。その上で、(難しいでしょうが)出来れば「延期」ではなく、三党合意の枠を超える「好況になるまで凍結」「それまでは5%に戻す」といった内容での解散になれば、デフレ脱却が一気に近づくのではないかと期待しています。

 

  • 点検会合の意外(?)な結果

 その消費税ですが、先日来、有識者に意見を聞く点検会合が始まりました。
 意見は人それぞれで然るべきなのですが、初回の結果をみて意外だったのは、中堅中小企業団体や労働組合の代表が条件を付けながらも増税に賛意を示したこと。そして、個人的に憤ったのは4月の増税決定時に「夏場に回復」といっていた著名な識者が、現実には回復の兆しが見られないにも関わらず、相変わらず賛成だったことです。

 

  • グローバル企業と内需型企業と消費税

 さて、8日の日本経済新聞に「大企業 好業績けん引」という見出しの記事が載っていました。

『消費増税による景気低迷の影響が懸念されていた2014年4~9月期の決算を、上場企業は1割経常増益で乗り切った。中身をみると、海外市場の成長を取り込み、円安も味方につけた自動車など一部の勝ち組が主導した構図が浮かびあがる。増減益率はバラつき、15年3月期の業績予想を下方修正した企業も多い』
とのことで、紙面の小見出しには『上位10社で増益分の8割 「稼ぐ力」二極化進む』とあり、紙面では『30%以上の大幅増益になった企業が280社に上った一方で、2ケタ以上減益の企業も約300社あった』(出典:日本経済新聞)と紹介されています。

大企業、好業績けん引 上位10社で増益分の8割 :日本経済新聞

 今のような経済環境では、企業をグローバル企業と内需産業に分けて考える必要があるのかもしれません。

 前回もお伝えしたように、マクロでみれば現在の日本は貿易赤字です。しかし、記事に「外市場の成長を取り込み、円安も味方につけた」とあるように、輸出企業・グローバル企業の中で、円安効果等によって業績が好転した個別企業は相当数に上るでしょう。一方の内需産業は消費税増税で消費が冷え込み、円安で原材料等の輸入価格が上がりますので、相対的に厳しい環境に置かれています。

 この記事は黒田バズーカ第二弾と言われる先日の追加金融緩和の影響を受ける前の業績データを基にしていますので、消費税の行方次第では、今後こうした傾向が強まるかもしれません。このような政策の恩恵も受けて業績向上した企業や従来からの黒字企業が、賃金増と日本国内への投資を増やしてくれるか否かが、今後の日本経済成長へのポイントです。

 そうなれば、その投資や賃金上昇による消費の増加で内需産業も潤い、上昇した賃金は雇用市場全体に影響しますので全体の所得が上がって、更に消費と投資が増えるという好循環が生まれます。賃金は景気の遅行指標なのでタイムラグが必要ですが、賃金上昇幅の中で円安による輸入価格やエネルギーコストの上昇が価格転嫁できるようになるとデフレ脱却が現実味を帯びます。

 この展開の場合でも、消費と国内投資の減退につながる消費税増税は問題なのです。消費税増税は好況が続き、消費や投資を抑えないとバブルが膨らんでしまうという局面が来るまでは温存すべきです。

 

  • 消費税増税以外の不安材料

 消費税増税に関する懸念については前回も書きましたので、今回はそれ以外の不安要素について触れておきたいと思います。

 日経新聞の記事によれば外需の取り込みに成功したグローバル企業が好業績を上げているわけですが、グローバル企業にとって日本は投資先の一つでしかありません。また、デフレ以降実質賃金が下がり続けているといっても新興国に比べれば日本人の賃金は何倍にもなります。その中で、日本での生産・開発や販売を拡大するという経営判断が出来れば上記のシナリオ実現に近づきますが、多くの企業が二の足を踏む可能性もあります。別の視点で言えば、政治家が国家の将来を決めるに際し、民間企業にそこまで期待して(あるいは影響を受けて)良いのかどうかという問題でもあります。

 企業業績には海外での収益も反映されますので、国内が稼ぎにくい状況では海外に目が行っても仕方ありません。しかし、GDPは「国内総生産」ですから、日本で生産されたものが輸出されれば増加するものの、海外への投資が増え、海外生産されたものが売上を上げてもカウントされません。日本企業が海外で好業績を上げても、国民の所得が増えるとは限らないのです。これが「企業が国を選ぶ時代」、賃金に関しては「底辺への競争」が進むと言われる「グローバリズム」の実態です。

 

 これへの対策としては、(保護主義との批判を受けるかもしれませんが)中長期的には「資本移動の自由」を少しずつ制限することでしょう。アメリカのサブプライムローンが破綻したことによって、パンデミックのように世界に不況が拡がった現在は、少なくとも金融グローバリズムが行き過ぎていると思います。国際課税に関するBEPS規制なども始まっていますが、制限や監視を強めることが、企業の繁栄が国民の所得に直結した時代に少し軸足を戻すことにもつながります。但し、あくまで少しずつ進めることです。企業は現在のルールの中で創意工夫と努力を重ねていますので、一気に変えようとすれば、それはそれで大きな弊害を生みます。サブプライムローンバブルにしても、それが破綻するまでは不動産価格の上昇によって米国の個人消費を拡大し、それを目指して各国が輸出することで世界中が潤っていたのです。一つの事象にも功罪がある上、様々な事象が絡み合っているのですから、以前ご紹介したように保守的に進めていくことが大切です。

Vol.55 保守のすすめ ~『フランス革命の省察』より~ - 社長の「雑観」コラム

 そして短~中期的には国土強靱化政策を進めることと、国内投資の促進と雇用拡大及び賃金上昇について、支援はしても阻害するような政策をとらないことだと思います。

 国土強靱化政策は財政出動を伴いますが、「国民の生命を守る安全対策」、「利便性を高め、国と企業の将来の競争力に繋がるインフラ強化」、「地方の仕事を生み出し、自律・分散・協調を目指す地方創生」を進めつつ、(高収益企業の経営判断に頼るだけではなく)政府が自前で需要を生み出すことで「経済を成長させる」こともできる、一石何鳥かの優れた構想だと思います。公共投資を増やせば、財政が悪化してしまうと感じた方もいらっしゃるでしょう。私の考えは前々回の「財政均衡主義の誤謬」で書きましたが、先日、経済学者である青木泰樹氏が無料メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』の中で卓見を披露していらっしゃったのでご紹介します。こうしたものにも目を通し、改めて考えてみて頂ければと思います。

 青木氏は、黒田バズーカ第二弾の功罪やリフレ理論の懸念点に触れた後、「功」の部分についてこう説明されました。

『経済学者はほぼ全員、「国債の償還資金は税収から」と考えています。
政府の借金の返済は国民が負担するものだと考えているのです。
そこから次世代負担論も出てくる。
しかし、日銀による長期国債の買い切り策はその通念を覆すのです。
国債買い切り量を増やしても、金利も上がらなければインフレにもならないデフレ状況であれば、民間経済に悪影響はありません。
それゆえ「政府の借金をデフレに負わせる」ことが可能なのです。日銀はその媒介役なのです。
国民が負担する必要はないのです(ただでランチが食べられるのです)。』

【青木泰樹】黒田バズーカの功罪 | 三橋貴明の「新」日本経済新聞


 「政府の借金をデフレに負わせる」とは、けだし名言です。現在、金融緩和によって日銀保有分を除いた国債発行残高は減少しています(日銀保有分の国債金利は、その殆どが国庫納付金として返還されます)。そして金利もインフレ率も上がっていません。デフレを「使って」財政健全化が進んでいるのです。この「資産」を有効に活用して中間層の厚い日本経済の強みを取り戻し、将来世代に価値あるインフラと経済環境を残したいものです。