「雑観」コラム

(株)MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.25 国家と企業② ~通貨発行権~

 

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社長の並木です。前回、企業の海外生産(対外投資)の増加によって、高度成長期と比較し、日本企業の成長が税収面での国家の繁栄、所得面での国民の利益と乖離するようになってきたことに触れました。今回も前回に続き、国家と企業の違いについて考えてみたいと思います。

 

国家と企業の一番大きな違いは『通貨発行権』でしょう。企業にも株式や社債はありますが、それは円などの通貨を資金として集める手段に過ぎません。それに対して、国には中央銀行が紙幣を、政府・国会には(国債は勿論ですが)硬貨を発行する権利があります。

余談ですが、上記のように紙幣と硬貨は発行元が違います。財布の中の紙幣には「日本銀行券」と書いてあり、硬貨には「日本国」と彫られているのはその為です。また、先の日銀総裁・副総裁人事で「中央銀行の独立」とは何かについて話題になりましたが、「日銀は政府の子会社」(政府が55%の株式を持っています)ですから、「目的(国民経済の安定成長:現在はデフレ脱却)」に対して政府と日銀が連携して、その目的を達成する「手段(金融政策)」の自由が、中央銀行という金融政策のプロフェッショナルに任されているというのが適切な考え方だと思います。

 

  • デフレとインフレ、悪性インフレ

通貨発行権がある以上、無尽蔵にお金を刷れるかというとそう都合良くはいきません。それが出来れば無税国家も夢ではないのですが、通貨発行はインフレに繋がります。

ここで、1997年から日本を覆ってきたデフレと、普通に経済成長をしている国のインフレ、アベノミクス批判でよく出てくるハイパーインフレーションなどに代表される悪性インフレについて整理しておきます。

『デフレ』は継続的に物価が下がる現象ですので、消費者としてだけの国民を考えればメリットはあります。ただ、消費をするためには、働いて所得を稼いでこなければいけません。デフレ下では物やサービスの価格が全体的に下がりますので、働いた仕事の価値も下がってしまうため、同じ仕事をしても得られる所得が減少してしまいます。その縮小均衡が底なしに続くことこそデフレの問題なのです。

一方、『インフレ』は商品の価格が上がる、逆にいえばお金の価値が(商品に対して)将来的に下がっていくという状況ですから、お金を貯めこむよりも消費や投資に使おうというインセンティブが働くため、需要を喚起し、経済成長に貢献してくれます。現在の日銀が異次元の金融緩和で目指している2%のインフレ目標が達成できれば、単純な話、同じ量の商品・サービスの提供で2%の名目GDPの成長、企業全体でみた時の売上拡大が実現するわけです。

『悪性インフレ』は物価が酷く上がるわけですから、国民生活を窮乏に陥れるのは間違いありません。ただ、それは『適度なインフレ(2%のインフレターゲットなど)』を達成した後に、政策を誤り続け(国民がそれを見過ごし続け)、更に天変地異や戦争が起こらなければ杞憂に終わるということを忘れてはいけません。日本はデフレ慣れをしているかもしれませんが、普通の国はインフレなので、世界大恐慌以降ほとんど事例のないデフレに比べ、インフレ対策は「金融引き締め、緊縮財政、増税、構造改革、自由貿易、民営化・・・」と充実しています。笑えない話ですが、不況下でそれらを推進し、デフレを継続させてきたのが日本のここ10数年間です。

随分さかのぼりますが、オイルショックのあった翌年の1974年は狂乱物価といわれ、「トイレットペーパー買い占め騒動」などが起こり、私も子供心に「何が起こっているんだろう」と不安になったことを覚えています。この年の物価上昇率は21%に上りましたが、短期間で沈静化しています。制御不能なインフレが長期にわたって続くということに対しては、デフレが長らく続いていて、ようやくインフレターゲット政策がとられ(日銀が2%のインフレターゲットを設定したということは、それを過度に超えそうな状況であれば逆に金融引き締めなどのインフレ対策がとられるということです)、景気回復が確実なものになればという条件つきの消費税増税法案が国会を通っており、政権が暴走した時には民主主義(選挙)によって正せる国では心配し過ぎる必要はないでしょう。

 

  • 通貨発行量はインフレ率によって制限される

話を元に戻しますと、通常の民主主義国家では、現実に起きたインフレ率の上昇が許容範囲か否かで通貨発行量(現在の政策では国債発行量)の限界が決まるということです。

企業はキャッシュフローが回らなくなると倒産してしまいます。それを避けるために懸命に事業運営をして、利益を出す必要があります。勿論、借入などによってキャッシュフローを回すことはできますが、いつまで経っても利益が出ないと、借入金の返済ができず、新しく借入もできないという状況に陥ります。

一方、国家(政府)はインフレ率が許容範囲内であれば通貨発行(国債発行)できるので、キャッシュフローが政策の制約条件になりません。そのため、利益を気にする必要もないわけです。

その辺のところを次回、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。