社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.105 思考停止のリスク

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前回、グローバリズムを先導してきた英米におけるブレグジットやトランプ大統領就任、大国の中で最も保護主義的な中国:習近平国家主席ダボス会議における保護主義批判などを取り上げ、「何でもあり」の世界が拡がっていると書きました。

こうしたフィクションさながらの出来事が次々に起こると、「どうなるのか、もうわからない」という気分になりますが、「どうにでもなれ」という思考停止に陥らないよう気をつけないといけません。

 

  • 思考停止の問題点

思考停止に陥ると、

・第一に、主体的に考えることをやめてしまいますので、風評に操られやすくなります。政治的な意図を含んだ風評をプロパガンダといい、そこにテロル(恐怖)が加わると全体主義の傾向が生まれます。実際に暴力が使われなくても、反対できない(反対するとバッシングされる)「空気」の醸成もテロルの一種ですので注意が必要です。

・第二に、思考停止に慣れると考えることが苦痛になります。誰しも難しい問題に対峙するのは面倒くさいものです。ただ、都合の悪い現実を「なかったこと」のように扱うのは重傷で、場合によっては亡国に進みかねません。

 

豊洲問題を例に考えてみましょう。

丁度百条委員会が開かれ、石原元都知事ほか多数の方々が証人喚問を受けていますが、小池都知事就任以来、豊洲市場の危険性を煽る発言・報道が溢れかえり、「小池劇場」と言われてきました。

その間、

・地下ピット(地下空洞と呼ばれていたもの)はメインテナンス上有用なものである

・盛り土がないのは、むしろその上に建物を建てると地盤がゆるく危険なためである

といった意見も耳にしましたが、科学的な検証が大きく報道されることはありませんでした。

 

ところが最近になって、築地市場側の安全性に疑義が唱えられると、14日の都議会で小池都知事自身が、

『小池知事は土壌汚染が明らかになった築地市場について、土壌がコンクリートで覆われているなどとして「安全安心だと宣言できる」と述べる一方、同じくコンクリートで覆われた豊洲市場については、安全性は確保されているものの、消費者の信頼は得られておらず安心だとは言えないとする認識を示しました。』

と発言されています。

Ceron - 豊洲「安全だが安心は認めず」|NHK 首都圏のニュース

 

要は、井戸水を70年間飲み続けても健康被害が起こらないという地下水の環境基準には適合しないが、地上は(もちろん水道水も)安全ということで、ほぼ井戸水を使わない東京では珍しいことではないようです。

 

安全だとすれば、この7ヶ月の騒動は何だったのでしょうか?

それについては善意に、安全性を担保するための期間だったと解釈して脇に置くとしても、この発言の中で、安全性(科学的な検証が可能)の問題を、安心(感情の問題)にすり替えているのは問題です。

最初は純粋な動機で延期を決めたのかもしれませんが、「不安」を増幅させた主因は都知事にあるのですから、マッチポンプと言われても仕方ありません。そうなれば、安全基準やデータ、地下水管理システム等の打たれている対策を説明して、「安心」させるのが本来の仕事で、情報開示を遅らせている場合ではありません。

小池知事、豊洲の構造安全1カ月未公表 「行政手続きの一環」 :日本経済新聞

 

以前にも書きましたが、リーダーに最も大切な要素は「誠実さ」です。

Vol.39 大切な資質:「誠実さ」 について - 社長の「雑観」コラム

誠実さは一貫性に支えられます。豊洲と築地をダブルスタンダードで評価してはいけません。そして、新たな事実や環境変化によって方針を変える時に一貫性を担保するものが説明責任です。

 

また、百条委員会では石原元知事の決裁責任が問われましたが、豊洲移転は曲がりなりにも都議会の承認を得て進められたものであるのに対し、小池都知事の移転延期は独断です。

そして当然、移転延期にもコストがかかります。

この問題に詳しいジャーナリストの有本香氏によれば、今は独立採算の市場会計から支出されているようですが、長引けば都民の税金で負担せざるを得なくなるかも知れません。

小池氏「風評」劇場のツケ、50億円超は誰が被るのか ジャーナリスト・有本香氏が緊急寄稿 (2/2ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK

 

都民にとって他人事ではないのです。

都庁の手続きに問題があれば正し、違法行為があれば、司法に訴えて調べてもらうべきですが、同時に「誰かを敵にみたてて、皆で叩けば溜飲は下がるものの、風評に乗ったことで実害を受けるのも我々主権者」だということも考えておくべきでしょう。

 

  • 国会と森友問題

そして、国会における野党質問は「森友学園問題」一色となっています。

本質的には、国有地が不当に安く払い下げられたか否かと、そこへの政治家の関与の有無の問題の筈で、近々行われる証人喚問と、場合によっては司法の調査で詳らかにして頂きたいですが、論点が拡散され、真偽が定かでない発言に右往左往するあまり、他の重要事とのバランスが欠けてしまっています。

 

例えば、批判は園の教育方針、さらには教育勅語にまで及んでいます。

幼稚園の運動会で園児に「安倍首相ガンバレ。安保法制国会通過よかったです」と宣誓させるのは行き過ぎだと思うものの、そうさせたかった大人と、稲田大臣に対して教育勅語は悪だと言わせたい(あるいは辞職させたい)議員。

一見、右と左で真逆のようですが、全体主義や独裁の反意義は民主主義ではなく「思想信条の自由」です。その観点から考えると両者が似たもの同士のように思えてしまいます。

 

現在の東アジアは、金正男氏の暗殺後、米韓合同軍事演習が大規模に展開される中、北朝鮮日本海にミサイルを撃って、在日米軍攻撃の訓練だと公表、一方の韓国では朴槿恵大統領が弾劾され、次期大統領の有力候補は親北・親中という、「何でもあり」の状態です。加えて、余り報道されていませんが中国船による尖閣諸島周辺の領海侵犯も継続していることを考えると、安全保障論議の優先順位が上がるべきでしょう。

そもそも国家とは国民の安全を護り、豊かにしていくためにこそ存在するものの筈です。

 

もちろん努力を続けている方々もいらっしゃいます。

予算委員会青山繁晴参議院議員が、

北朝鮮有事の際、混乱の極みを克服しつつ拉致被害者を救出するための救出部隊の編成や訓練を行い、国民を護るという主権国家としての絶対の義務を果たすための備えをするべき

という趣旨の質問をされ、

若宮防衛副大臣が、国際法憲法の制約はあるものの、平和安全法制・自衛隊法に基づき、一定の要件のもとでの救出訓練を開始しているという大変重要な回答を、

麻生財務大臣は、朝鮮有事の際の難民、さらには武装難民のリスクにも触れた上で、そのような省庁横断の救出部隊の検討がまとまれば、予算は「つけるに決まっている」と回答されました。

【青山繁晴】参議院予算委員会一般質疑🔴平成29年3月2日 - YouTube

 

諦めは思考停止につながりやすいので、現実と国益を考えた取り組みも行われていることを知っておいて下さい。

 

  • 主権者の責務

リーマンショックの際、英国のエリザベス女王に「どうして、危機が起こることを誰もわからなかったのですか?」と問われ、並み居る経済学者が答えられなかったということがありました。

主流である新古典派経済学が、市場の不確実性を軽視しているため、専門家の筈の経済学者に現実が見えなかったという例ですが、

政治家にも、政局に血道を上げるあまりに現実が見えないということが起こりかねません。

 

最終的な責任は国民が負わざるを得ないのですから、「悪いことは起こらない。起こっても政権与党の責任」と構える政治家に対し、不確実性への備えを要請するのも主権者やメディアの務めではないでしょうか。