社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.110 政治の役割:状況の中でバランスを見出す

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まず前回、加計学園を巡る国会論議などを念頭に、

「この状況、双方にとって都合がよい可能性すらあります。

野党は、現実的な優先順位を考えずに叩きやすいところを叩いていれば、強い支持層に顔が立つ上、自分の世界観も傷つきません。

与党にとって、叩かれても大して痛くないところであれば、他の重要政策で対抗されるよりは、野党よりも政権運営能力があると評価されて支持率が下がらない。」

と書きましたが、不明を恥じねばなりません。

 

現実に内閣支持率が下がったのです。

【図解・政治】内閣支持率の推移:時事ドットコム

※最近の暴言・失言騒動以前の世論調査です。

 

私は、安倍政権の緊縮財政や移民政策等には反対ですが、北朝鮮のミサイル危機が迫る中、「森友・加計学園」の追求だけを延々と続ける野党に辟易としていましたので、意外でした。

とはいえ、民進党はむしろ政党支持率を落としていますので、マスメディアの力が大きいのでしょう。

【図解・政治】政党支持率の推移:時事ドットコム

 

佐藤健志氏と藤井聡氏の近著『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)の中で佐藤氏が、

『経済が好調で、豊かになれる見通しが立っていれば、人々の反応はいっそう寛大になるでしょう。ところが時代や社会に対して不信感があると、裏切られた、騙された、というネガティブな情念が絶えず供給されてくるので、破壊的な炎上が起こりやすいし、公益も毀損されやすくなる』(出典:同書p175)

と語っています。

 

安倍首相は神戸の講演で、自らの関与を強く否定し、民進党や前川前文部科学次官の姿勢を批判した上で、

『「印象操作のような議論がされると強い口調で反論してしまう姿勢が政策論争以外の話を盛り上げてしまった」と反省の弁を口にした。』

【神戸「正論」懇話会】加計問題猛反論「訳の分からない意向まかり通る余地ない」 安倍晋三首相、自らの答弁に反省も(1/2ページ) - 産経ニュース

そうですが、デフレ脱却や北朝鮮問題が思うように進んでいない現状が、今回の遠因になっているようにも思えます。

 

今後、9条を中心とした憲法改正に着手するようですから、これまで以上の騒動・印象操作・炎上を覚悟しないといけないでしょう。

 

  • 混迷の中での政治の役割

これまでの歪みが顕在化し、不満や不信が溢れる中で、政治はどのようにあるべきでしょうか。

 

手掛かりに、西部邁氏が興味深い話をされていましたので、その要約をご紹介します。

近代化と伝統の狭間で揺れてきた先人たちは、どう生きてきたのか。 澤村・浜崎スコレー「日本」らしさの再発見 - YouTube

※6分45秒頃~15分頃

・・・<以下要約>・・・
近代の理想とされた「自由・平等・友愛・理性」も、それぞれが主義(イズム)と化して行き過ぎると、

・自由→放縦、無秩序
・平等→画一
・友愛→偽善
・理性(合理)→屁理屈

に堕してしまう。一方、それぞれの反意語たる「秩序・格差・競合・感情」も同様に、

・秩序→抑圧
・格差→差別
・競合→残酷
・感情→情念

となる。


むしろ「近代の理想とされた価値」と「反意語」の間にバランス(平衡)をとることで、

・自由と秩序の間に「活力」
・平等と格差の間に「公正」
・友愛と競合の間に「節度」
・理性と感情の間に「良識」

が生まれる。これこそが人間・社会の基準となるべきだ。

但し、当の実践すべき適切なバランスは「状況」の中からしか見出すことができない。

 

そして、古代ギリシャの思想を引用し、

『単一の徳の過剰は不徳に転ずる。相矛盾する徳の間でのバランスを保つ』ことが人間および社会の仕事である。

・・・<要約終わり>・・・


「状況」の中でプラグマティック(実際的)にバランスを模索し続けることこそが政治の役割ではないでしょうか。

 

近代の理想とされた価値も、その時代・国の置かれた「状況」のもとで、人々が幸せな人生を送るという目的の為に生まれた「手段」だった筈です。

それが「目的」化すれば、いつか過剰になって社会の安定が壊れることは、

古くはフランス革命後の粛清の嵐、

最近では、

・行き過ぎたグローバリズム(自由の過剰)によって、新興国や移民に職を奪われ(競合の過剰)、過剰な格差に反発した国民の支持を集めてトランプ大統領が誕生したアメリカ

・移民を無制限に認めようという思想(友愛の過剰)によって、国民の安全が脅かされている欧州

を見れば明らかです。

 

また、状況は国により、時代によっても変化しますので、ある価値を「普遍的な善」として追求し続けるのは、わかりやすいものの無理があります。

現実の不確実性を噛みしめながら、事実と大局をつかむ努力をし、それぞれの国の実践的なバランスを模索し続ける姿勢が大切です。

 

厄介なのは、法律も含めて人がつくったものには、必ず良い面と悪い面があり、同じ時代の同じ国民であっても、立場によって損だったり、得だったり、無関係だったりすること。

加えて、直接自分に関係がないからと、無関心でいたり、曖昧な世論に乗っていたりすると、巡りめぐって、自分に降りかかってこないとも限らないことです。

 

例えば、加計学園の件。

鳩山政権時代に、積極的に誘致を進めていた前愛媛県知事の加戸氏のインタビューでは、

【加計学園問題】加戸守行前愛媛県知事「安倍さんが友達だと知ってたら10年前に獣医学部つくってた」(1/5ページ) - 産経ニュース


もともとは今治市を学生の街として活性化しようという構想からスタートした話。

加計学園今治市選出の県議からの提案だったようですが、背景には

愛媛県は学園都市よりも獣医学部が欲しかった。獣医師が欲しい、感染症対策をやってもらいたい、という思いだった。

私の知事時代には鳥インフルエンザが発生し、<中略>22年には口蹄(こうてい)疫が発生したが、獣医師が足りず大わらわだった。

調べると、県庁への志望者が不足しているゆえに公務員獣医師を採用できない。そのため、鳥インフルエンザ狂牛病やらで獣医師が手いっぱいなのに人手が足りないのだ。

しかも、愛媛県だけでなく、四国4県すべてがそうだった。定年の人にも定年延長して残ってもらって、悲鳴をあげている状態だ。<中略>

調べてみたらなんてことはない。獣医学部の入学定員は、神奈川県以東が8割、岐阜県以西が2割となっている。私立大学のほとんどは東京にあり、圧倒的なシェアを持っている。』

という事情があったこと。そして、様々な勢力自民党とも民主党(当時)とも結びつき、妨害された様子が語られています。


これを基に考えると、

1,愛媛県および四国や街おこしをしたかった今治市加計学園には直接的なメリットがある。

2,反対をしていた獣医師会、既に獣医学部を持っている私学にとってはデメリット。

3,鳥インフルエンザ口蹄疫は九州を中心とした西日本から発生するケースが多いので、その際、獣医師不足で感染が拡大すれば、日本中が他人事ではなくなる

ということです。


すると例えば、3の危機(状況)が現実のものにならないようにすることを第一義とし、叡智を集めて、(2の方々への悪影響が過大なものとならないことも含め)政策を調整(バランス)するという考え方が生まれます。

 

その次が説明責任です。

主義に凝り固まった人を説得できる見込みは薄いものの、国民の過半が望んでいない状態で、政策をゴリ押しするのでは、動機が純粋であったとしても、自信過剰という不徳に転じてしまいます。

 

先の安倍首相の反省の弁を思い出して下さい。

北朝鮮問題等の明らかな優先事項があるにも関わらず、根拠が曖昧な批判で時間が浪費されればキレたくもなりますが、一国の指導者である以上、目の前の人の、さらに先にいる国民を意識して説明するべきでしょう。

 

  • 安倍首相や官僚組織への諫言

この点について青山繁晴参議院議員は、上記神戸の講演や加戸前知事の発言を題材にして、以下の趣旨の諫言をしています。

『「私の友人だから認めてくれという訳の分からない意向がまかり通る余地など全くない。プロセスに一点の曇りもない」と安倍首相がおっしゃった。プロセスに一点の曇りもないというのは本当。ただ、総理として自分の潔白を証明することは必要だけれども、それがメインでは駄目。

半世紀にわたって西日本で獣医師が足りないという事実があるのに、西日本で獣医師を養成する学校が全く新設されなかった。それは旧文部省系が全部許認可の実権を握っていて、それが利権と結びついて阻んできたという実態を白日の下にさらけ出し、鳥インフルエンザ口蹄疫の問題はこうだから、(他の施策も含めて)今治だけではなく、例えば九州・西日本にも獣医師がいて下さるようにすると説明することで、あくまで国益のため、命も要らずにやっているということを証明しなければ』(註:『 』部は並木による要約)

【DHC】6/26(月) 青山繁晴・居島一平【虎ノ門ニュース】 - YouTube

※この動画の15分30秒頃~1時間8分頃まで、加計学園の件や旧文部省の闇について、相当踏み込んで話されていますので、関心のある方はご覧下さい。上記趣旨の発言は~29分30秒頃までです。

 

私は「国家戦略特区」とか「構造改革」と言われると眉に唾をしながら聞く方ですが、こうした説明であれば納得できます。

憲法改正に向けて、イデオロギーや印象操作・スキャンダル合戦に終始するのではなく、具体的な事実やリスク、対応策についてタブーを作り過ぎずに説明がなされ、国益に資する議論が進むよう期待しています。