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社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.95 日本人とアイデンティティー ~皇室のご存在~

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先日、今上陛下がご譲位へのみこころ、お言葉を発せられました。

今上天皇 明仁陛下「お言葉」 - YouTube

その勅語(ちょくご)に関連し、様々な政治家や識者の方が意見を述べられています。

 

そんな中、自民党の二階幹事長は25日、テレビ番組で「女性尊重の時代に、天皇陛下だけ『そうならない』というのは時代遅れだ。そうと決まれば国民には違和感はないと思う」と、そして番組収録後には「女性がこれだけ各界で活躍しているところで、皇室、天皇だけが女性が適当でないというのは通らないと思う」と話されたそうです。

二階俊博氏、女性天皇を容認 自民幹部初「国民に違和感ない」 - 産経ニュース

 

現在、皇太子殿下、秋篠宮殿下、悠仁殿下がいらっしゃいますので、今上陛下のお言葉と、女性ないし女系天皇の是非は直接関係ありません。収録後の発言からは、皇位継承を企業や政治の世界と混同していらっしゃるようにも感じます。

そもそも、二階幹事長が女性天皇女系天皇の違いまで踏まえて発言していらっしゃるのか定かではありませんが、よい機会ですので、二つの違いと、皇室典範に「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」とあるのは、男女差別とは関係なく、まして「一億総活躍」とは次元の違う話だということを確認しておきたいと思います。

 

女性天皇女系天皇の大きな違いについては、ご存知の方も多いと思いますが、『決定版 日本人論 ~日本人だけがもつ「強み」とは何か?~』(渡部昇一著 扶桑社新書)を参考・引用しながらご紹介します。

 

過去、推古天皇をはじめ何人かの女性天皇は存在しました。しかし女系天皇、即ち女性天皇が結婚して生まれた子供が皇位を継承することはなかったのです。

天照大神卑弥呼が語り継がれている日本です。加えて女性天皇もいらっしゃったのですから、女性差別とは別の理由があります。

 

当然のことながら、男性と女性には決定的な違いが幾つかあります。例えば、女性でなければ子供を産めませんので、未来を紡いでいくためには女性の貢献が不可欠です。同様に遺伝子の中の性別を決める染色体は、男性がXY、女性がXXと決まっています。

 

さて、男系天皇の遺伝子をX1Y1、皇后の遺伝子XaXbとした時に、お二人の間に生まれた男性は必ずY1の遺伝子を持っています。

つまり、男系天皇のYの遺伝子を遡れば、神武天皇にまで行き着くことができるのです。

一方、お二人の間に生まれた女子が女性天皇になった場合の遺伝子はX1Xa(ないしX1Xb)。その方が皇室以外の男性(遺伝子をXαYαとします)と成婚され、生まれる子供の遺伝子の組み合わせは、男性の場合でX1YαかXaYα、女性の場合はX1XαXaXαとなり、神武天皇から続くY1の遺伝子は消滅します。これが決定的に重要なのです。また、たった二代でX1遺伝子でさえ途絶えるかもしれません。

 

渡部氏は、「日本人は、おそらく本能的にその危険性を知っていたのだろう。だからこそ、男系を守り続けてきたのである」。それ故、「過去の女帝(並木注:女性天皇)は、独身または未亡人で終えている」としています。女性天皇もご不自由をされながら、神武天皇の即位以来2676年にわたって、世界に類をみない万世一系の皇統を紡いできたのです。

 

さらに渡部氏は、「最大の国難とは、日本人のアイデンティティーが失われてしまうことである。」「占領政策の一つに、皇室を減らすということがあったのも、日本のアイデンティティーの根本を成す皇室を消滅させようという意図があったことは明白なのだ。しかし、日本研究を怠らなかったアメリカには、皇室を即座になくして、日本人から一気にアイデンティティーを奪うことの結果が見えていた。神話の時代から継承されてきた天皇家が、日本人にとって精神的なよりどころになっていることがよくわかっていたのである。」と語ります。

(以上『決定版 日本人論』を参考に作成。「 」部は全て同書からの引用、ただし改行等を一部変更)

 

アイデンティティーとは自己同一性などと訳されますが、その根幹にある、誇りや帰属意識・よりどころと考えてもいいでしょう。

自分は徐々に成長し、時に失敗し、また老けてきたけれども同じ人間であり、これからもあり続けていいんだという意識。そして、同じ日本人として誇りを持って今を生き、手を携え、未来につないでいくんだという気持ちです。

 

想像を超える厄災に出会うと、アイデンティティーは危機を迎えます。根っこを見失うと、人は弱くなるんですね。

東日本大震災で被災された方々の避難所で、当時の菅首相は足早に歩き去って顰蹙(ひんしゅく)を買っただけに終わりましたが、天皇皇后両陛下が膝を折り、目を合わせて、いたわって頂いたことで、気持ちが救われた方も多かったと思います。

冒頭のお言葉の中でも触れていらっしゃるように、「時に人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、想いに寄り添う」ということによって、アイデンティティーの危機を救って頂いた。皇室が依然として、日本人の精神的なよりどころになっていることが実感できます。

 

  • “生前退位”とご譲位

渡部氏は、西洋の王様や豪農・豪商などの相続と、皇位継承の違いについて、「家産の相続」と「遺伝子の相続」の違いだと指摘しています。天皇家は遺伝子が相続されていれば、貧しくても構わない。戦国時代などは実際貧しかったようですが、それでも権威を失うことなく、名だたる武将がこぞって上洛を目指しました。(上記『決定版 日本人論』を参照)

 

最近、譲位の代わりに使われている「生前退位」という言葉。家産を意識した「生前贈与」に聞こえて仕方ありません。評論家の西部邁氏は「昔は、言葉の一つひとつが、物事の感覚、思念そして関与を表すという意味での、思想であった」と語っています(出典:『昔、言葉は思想であった』西部邁時事通信社)。言葉は大切に使いたいものです。

 

ご譲位に関しては、今上陛下のご公務に対する想いやご年齢に加え、昭和天皇の入院から崩御(ほうぎょ)、ご自身の即位に至るご経験、その際にお祭りや学校の運動会・文化祭の中止なども含めた過剰な自粛が行われたこと(当時はバブル景気の真っ只中でしたので、それによる経済的な影響は目立たなかったものの、現在の日本では経済、ひいては国民生活に相応の影響を及ぼすでしょう)。また、皇太子殿下をはじめ、今上陛下の後を歩まれる皇族の方々へのご配慮といった背景があるのでしょう。十分に忖度(そんたく)して頂きたいと思います。

 

一方、明治維新までは歴代天皇の約半数が譲位なさっているにも関わらず、明治の元勲達はそれを禁じました。政治的な意図をもって天皇陛下の譲位や退位・即位を行おうとする輩が現れ、世の中が乱れたという史実がその要因であろうことは、伊藤博文卿が残した『皇室典範義解』の中に、天智天皇の「天に二つの太陽が無いように、二王は無い」というお言葉や、南北朝に触れられた箇所があることからもうかがえます。

今もそうですが、国内外の情勢は常に流動的で、他国民のアイデンティティーを削ごうという動きすら見受けられます。100年先、1000年先にも責任を持てる判断をしなければいけません。

 

双方をしっかりと考えながら、日本人の心のよりどころである皇室について、改めて学ぶ機会にしたいものです。