社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.62 2015年に向けて ~国家について考えてみよう~

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 今年最後の投稿です。一年間ありがとうございました。

 当ブログも2年を超え、先日説明文を若干変更させて頂きました。政治や経済、社会、大切にしたい考え方などについて私なりの意見をお伝えすることで、(賛否はそれぞれの方にお任せしますが)一歩深く考えるキッカケにして頂ければと思っています。

 

 さて、総選挙は与党の圧勝で終わりました。自民党政権公約はものすごいボリュームで、経済評論家の三橋貴明氏が言うように(あれもこれも)「全部乗せ」の印象が強く、相互に逆の効果を生むのではないかというものまで含まれています。これからどのような取捨選択、あるいは優先順位づけがされていくのか、しっかり見届け、是々非々で賛否をお伝えしていきたいと思います。

 来年がどういう年になるかは、それによるところも大きいのですが、我々の考え方次第では「国・国家」について考えを深める機会になるのではないかと思います。

 第一に強い政権が樹立したことで、北朝鮮との拉致問題解決に向けた交渉に動きが出る可能性があること。加えて、ウクライナ問題で進展が止まっていましたが、原油価格の急落で経済的にダメージを受けているロシアから、北方領土絡みのアクションが生まれる可能性も残っていることが挙げられます。それぞれ国際社会から批判を受けている国相手の交渉となりますから、日本政府が国民と領土を守るための交渉をする一方、アメリカをはじめとした国際社会に理解を得るために「事実に基づく主張」を広く発信し続ける必要があります。

 特に拉致被害者は、毅然とした態度で交渉して全員取り戻さない限り、日本は本当に(国民主権で、他国から犯されない国家主権を持つという意味での)国民国家と呼べるのか、、、国の根幹に関わる問題です。

 

  • アメリカの大戦略の転換

 そして、恐らく来年の夏頃までには「安全が確認された原発の再稼働」と「集団的自衛権の法整備」が進んでいくと思います。双方とも国論を二分している問題ですが、これらはアメリカの外交姿勢の変遷とも関わりを持っています。

 アメリカは冷戦終了後、世界の一極支配を目指してきましたが、イラクアフガニスタンの泥沼化によって厭戦気分が広がり、内に籠もる傾向を強めています。
これを国際政治アナリストの伊藤貫氏はアメリカのグランドストラテジーが「ストラテジー・オブ・ドミナンス(世界中を支配し、軍事覇権と共にアメリカに都合のよい経済システムを世界中に押しつける)」から「オフショアー・バランサー(ユーラシア大陸の陸上戦には巻き込まれずに、海と空を支配する)」への移行期であり、混乱期でもあると分析し、

【伊藤貫】アメリカと世界はどうなる[桜H26/3/20] - YouTube

外交評論家の加瀬英明氏は「アメリカが頂点を過ぎた国で、これから力を衰えさせてゆくとみるのは、早まっている」とした上で、「これまで、アメリカは振り子のように、果敢に外へ向かう時期と、羹(あつもの)に懲りて、内に籠る時期が、交互に繰り返されてきた」「アメリカはアフガニスタンと、イラク戦争によって受けた傷が深いために、向こう10年あまりは、内に籠ることになるだろうと思う」(共に出典:『アメリカはいつまで超大国でいられるか』加瀬英明祥伝社新書)と見立てています。

 いずれの見解をとるにせよ、日米同盟に頼っていれば安全だと構えていられた時代は終わりつつあります。加えて、アメリカの戦略によって掻き回された中東ではISISイスラム国)に代表されるように、スンニ派とシーア派の宗教対立が激化。再び「世界の火薬庫」と化しています。そして、その中東にエネルギーを大きく依存しているのが日本なのです。

 

 今の日本は原発ゼロでも何とかなっていますが、火力発電所に相当無理をさせているという現実もあります。原発再稼働に賛成であれ、反対であれ、国家として安定電源をどのように確保し続けるかという点から考えなければ、将来は開けません。また、原子力発電所が既に存在している以上、脱原発を進めたとしても使用済核燃料の処理は必要です。将来を見据え、感情に流されず、不都合な現実に向き合って国の方針を定めないといけません。

 集団的自衛権については、アメリカが内向きになることによって日米同盟に頼ってばかりもいられない「可能性」が高まっている以上、よく言われる「アメリカの戦争に巻き込まれるリスク」は低下しているとも考えられます。少なくともそのリスクと同等程度に、中東やシーレーンで問題が発生し、エネルギーが届かないという事態に陥らせないためにはどうするかを考えるべきです。また、今回の選挙で共産党が「海外で戦争する国にさせない」というメッセージを掲げていましたが、それ以前に、尖閣など日本の領土を侵略されないようにすることが、現実的なリスクになりつつあります。

 さらに言えば、あらゆる国の軍隊は「してはいけないこと」を決めるネガティブリスト方式の法律に従って行動しますが、日本の自衛隊だけは、原則としてあらゆることを禁止した上で「してもいいこと」を決めるポジティブリスト方式です。形だけの自衛権では、目の前で起こった有事にさえ身動きがとれないばかりか、侵略を狙う相手国が法律を読んで、日本が手を出せない方法で攻めてくるということもあり得ます。小手先の説明より、本質的に国民の生命・生活・領土の安全を守るための「抑止力」を如何に強化するかを議論すべきです。

 

 そして今回の選挙の主要な争点になった経済政策でも「国家」のあり方が問われます。安倍首相は2017年4月に、景気動向に関わらず消費税を10%に引き上げる。そのために景気を良くし、必ず賃金を上げ続けていくと明言されました。私としては、状況によっては改めて法改正をするという道もあると思いますが、ひとまずそれは置きましょう。その9ヶ月前の2016年7月頃に参議院議員選挙がありますので、そこで大敗を喫しないためには今から1年半の間に景気回復を実感できるようにしなければいけません(因みに第一次安倍内閣が総辞職したのは2007年の参院選大敗後のことです)。

 そうなると、成長戦略(第三の矢)には期待できません。新技術開発など国の将来に貢献する成長戦略であっても、成果が出るまでに相応の期間が必要になるからです。

 また、現在の成長戦略に色濃く表れている新自由主義的な構造改革は、逆にデフレを促進してしまいます。例えば雇用規制の緩和は、ユーロ危機後にスペインが施行して失業率を悪化させてしまったように、雇用を増やし「賃金を上げ続ける」ことの足を引っ張りかねません。外資を呼び込む政策にしても、銀行が貸出先に困って国債購入に走り、金利が史上最安値圏になっている現状では必要性がない上、外国資本は短期に稼ぐことを目的に投資を行う傾向が強いため、配当金や株価を上げろという圧力が働くので、こちらも(コスト削減で短期利益を上げようとせざるを得なくなり)賃金上昇や技術開発投資を阻害する可能性があります。成長戦略は状況を勘案しながら、5年先10年先に向かってジックリと進めればよいのです。

 所得が上がらなければ消費は増えず、企業の利益が増えなければ賃金は上げられない。円安を味方に輸出で稼ぐという手もありますが、世界的に需要が後退し、デフレ下で製造業は、工場の海外移転を進めた後ですので簡単には行きません。加えて日本の輸出依存度(輸出額÷名目GDP)は15%程度と決して高くありませんから、やはり内需を増やす方が効果的です。

 そのためには、まず国家が「需要」か「国民の所得」を増やす。即ち、公共投資や減税といった財政政策が鍵を握ります。ある程度は貯蓄に回ってしまう減税よりは、乗数効果のある公共投資の方が効果が高いと思いますが、相変わらず“公共事業叩き”は色濃く存在します。また効果のある減税は、今言われている法人税減税ではなく、より広く消費に影響を与える消費税減税か、さもなければ富裕層以外への所得税減税でしょうが、そういう声も出てきません。既に主流派となって久しい新古典派経済学や、彼らによってつくられた「財政均衡主義(特に日本の場合、各年の政府の歳入と歳出を合わせるというプライマリーバランスの均衡論)」「トリクルダウン(富める者をさらに富ませれば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちるという仮説)」を信じる空気に抗って、再び中間層が厚く、所得格差も比較的小さい国として国全体が豊かになっていけるかどうか、重要な分かれ道です。

 

 日本では国家を語ることがタブー視される風潮もありますが、私たちは国の保護や影響を受けながら生活し、一方で民主主義国家である以上、我々自身が主権者=主人公です。様々な機会に、もっと積極的に国家観や将来のあるべき国家像を思い描いて頂ければと思います。

 皆様、よいお年をお迎え下さい。