社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.127 防災投資vs緊縮主義

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大阪北部地震西日本豪雨気象庁が「命の危険がある暑さ。一つの災害と認識」するほどの猛暑と自然災害が続いています。

特に、西日本豪雨では200人を超える方が亡くなり、ご家族や友人を失った方、家や職場が被害に遭われた方など、非常に多くの人から「普通の生活」を奪いました。

心から、犠牲者のご冥福をお祈りし、被災者にお見舞い申し上げます。

 

西日本豪雨と防災の必要性については、既に、藤井聡氏や三橋貴明氏らがブログやメルマガで発信していらっしゃいますが、それらを手掛かりに、改めて考えてみたいと思います。

 

まずは藤井聡氏のメルマガを引用します。

『この度の様々な災害報告を拝見していますと、
「防災投資」の大切さが、
改めて浮き彫りとなってまいります。

例えば、桂川は、激しい氾濫も危惧されましたが、
近年の度重なる氾濫を受けて、
治水対策(浚渫等)を進めていたため、
被害は最小限に食い止められました。

<中略>

そして30人以上もの貴重な人命が奪われた
今回の災害で「最悪」の堤防決壊が起きた小田川でも
抜本的な防災投資(稼働付け替え工事)が予定されており、
もしもそれが間に合っていれば、
ほとんど誰も死なずに死んだことは間違いありません。』

【藤井聡】防災に「国債」を発行しない政治家は、馬鹿の誹りを免れ得ない。 | 「新」経世済民新聞


倉敷市真備町の浸水は連日報道されましたが、

【西日本豪雨】岡山、愛媛の浸水範囲公開 国土地理院HP - 産経WEST

既に公開されていたハザードマップの洪水リスク地域(下図左側部分)と、ほぼ重なっています。

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国土交通省ハザードマップポータルサイト


最初に気づいた時に背筋が寒くなったのですが、分かっていたのに防げなかったということです。

故に、藤井氏の「防災投資が予定されていた」という発言や、

『「前から言われていた。小田川の堤防は、決壊しますよっていうことは聞いていた」。

<中略>

「県議の方とか市議の方に一生懸命働いてもらって、何とか(川の)流れを変えようとしてきた」と芥川氏は言う。現在の河川整備計画は2010年に策定され、今秋に着工される予定だった。「もうちょっと早く、もう4─5年早かったらこういうことにはならなかった」と語った。

<中略>

岡山県議会議長を勤める高橋戒隆氏は、河川工事が遅れた背景には、予算の縮小もあると指摘した。真備町で育った高橋氏は長年、洪水対策の重要性を訴えてきた。ロイターの取材に対し「自分が国を動かせなかったという無力感がある。住民の方々に対して申し訳ない。何とか間に合ったら、こんなことになっていなかったのに」と声を詰まらせた。』

という報道になります。

岡山・真備町襲った洪水、現実となった住民の長年の懸念 (1/2) - ITmedia ビジネスオンライン

 

  • 治水事業関係費と公共事業費の実態

国の治水対策が十分だったかどうか、費用を調べてみたのですが、なかなか見つからないので、今回は三橋貴明氏のブログから拝借します。

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日本の治水事業等関係費の真実 | 三橋貴明オフィシャルブログ「新世紀のビッグブラザーへ blog」Powered by Ameba

※別の、縦軸の目盛り幅が少々作為的なグラフもありましたが、数値そのものは2012年が若干違う程度でしたので、実態を正確に捉えられる三橋氏のデータを転載しました。

 

公共事業全体の推移はこちらです。

橋本政権以降、如何にインフラを軽視=緊縮財政主義に基づく公共事業悪玉論に与してきたかが分かります。

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https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2018/seifuan30/17.pdf(P13)

※念のため、私も会社も土木建設業と何ら利害関係はありません。

 

公共事業も、緊縮財政も主義でやるのではなく、時々の必要性と経済情勢によって判断するべきものです。

 

西日本豪雨直後、ある年配の財界人から(防災対策をするなという文脈ではなかったものの)「日本はGDPの2倍の借金がある。これはポピュリズムであり看過できない」という趣旨の発言を聞いた時には軽いショックを受けました。

この方は心底、日本の財政破綻(って何なんでしょう?)を心配されているのだと思いますが、財政破綻を煽る学者やメディアの論調に囚われてしまい、自然災害大国であり、近年では異常気象が続く日本で、ご自身も含めた国民の命を守るためには、防災対策=歳出拡大が不可欠であり、それが逆に有事の際の被害総額を抑えもするという想像力が薄れ、恐らく会社の成長には先人の築いた交通インフラ等のメリットを享受してきたことへの感謝も薄れてしまったのでしょう。

 

藤井氏が取り上げた桂川(嵐山)のように、象徴的な場所であればともかく、防災投資やインフラ投資は、防災に効果があった時、あるいは利便性に慣れた時に、忘れられてしまう存在なのかも知れません。

 

普通ポピュリズムというと放漫財政推進に思えますが、むしろ日本では反対に、「緊縮財政」ポピュリズム・「構造改革ポピュリズムが、依然として主流なのだと再認識しました。

 

ご記憶の方も多いと思いますが、2015年には鬼怒川が決壊しました。「鬼怒川水害から1年」という記事の中に、構造改革と関連して、印象的な言葉があったのでご紹介します。

『「突然、水害に仕事を奪われた。死ぬまで現役のつもりだったけど……」

<中略>

義援金の配分に頼って生活再建しなさい、という、国の「自己責任主義」が根本的な問題です。だから中小事業者の廃業が増えたのです。』

『今の常総は、一度にみんな水につかった経験が身にしみていますから、コミュニティーの再建もしやすい。連絡網を配ると悪用されるから嫌だ、という関係ではなく、ある程度お互いが見える関係になって、「自分の家だけ守る」という発想を変えていけば、結果的にお互いを守れます。

災害からは誰も逃げられないから、「自己責任主義」や「うちは関係ない」という意識を変えるきっかけにもなります。転んでもただでは起きないぞ、と、前向きにとらえたいと思います。』(下線は並木加筆)

鬼怒川水害から1年 常総市が直面する「忘れられた、これからの復興」

 

  • 今回の災害から学んだこと

第一に防災について。

まずは、ハザードマップで自宅・勤務先とその間の経路、子供の学校・実家などを調べてみましょう。

国土交通省ハザードマップポータルサイト(再掲)

自治体版もある筈です。また、大震災の被害想定やシミュレーションもあります。

そして、家庭や会社などで話してみましょう。自助と共助の為に、イザという時を想像しておく事が大切なのだと思います。

公助に関しては敷居が高いでしょうが、行動力のある人は地元の政治家に働きかけることもできます。また、首相官邸や地元選出議員のオフィシャルサイトで要望を送る方法もあります。

 

第二に、問題を自分の頭で考えること。

財政破綻論に囚われている方の話をしましたが、全く違う世界観も成り立ちます。私はこちらの方が正しい国家のあり方だと思うのですが、、、

 

財政破綻=日本国債のデフォルト(償還ができなくなること)だとしたら、100%自国通貨建て国債を発行し、政府が通貨発行権を持っている日本では起こり得ません。

金融緩和によって、実質的に利払いが発生しない日銀の保有分が42%(2018年3月末)。どんどん(政府債務-中央銀行保有分)対GDP比=財政問題は解消に向かっているのです。

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/breakdown.pdf

 

1997年度-2017年度の日本の名目GDP成長は僅か1.03倍。他の先進国は2倍前後です。もともとデフレを早期に脱却していれば、税収も増え、財政問題が喧伝されることもなかった筈です。

 

金融緩和によって、日銀が市中の国債を買って、銀行等の日銀当座預金を増やす=貨幣量を増やしています。通常、量の多いものは価値が下がるのでインフレになる筈が、直近のGDPデフレーター(季節調整系列:前期比)は2四半期連続マイナスに戻ってしまいました。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2018/qe181_2/pdf/jikei_1.pdf(P19)

デフレ(=需要不足)によって、借り手が少ないため超低金利。資金が金融市場で滞留してしまっているのです(金融市場にだけ資金が余っていても、使われなければGDPは増えません)。

 

それを、政府が建設国債発行で吸い上げると、

・超低金利で資金を得られる。

・その資金(政府の借金)は防災投資によって、民間の所得に変わります。最初は土木建設業かも知れませんが、ぐるぐる廻って、サービス業にも、我々の売上や給与にもつながっていきます。

・同時に、デフレで不足している民間需要の穴埋めを政府が行う格好になり、晴れてデフレ脱却。

・好況になれば売上も給与も増えるので、税収も増え、(特に人手不足ですから、政府が移民拡大をしなければ)民間による生産性向上投資も更に加速。

する筈です。インフレが過剰になったら、得意の緊縮財政で増税をすればよいだけの話。

 

その間に、造られた(あるいは造成中の)防災インフラが我々や子孫を守ってくれます。財政危機で予算を付けられないのではなく、諸悪の根源であるデフレ=需要不足による低インフレ・低金利を使って、防災を進めることができます。

 

ついでに言えば、将来インフレになると借金負担が軽くなるので、経済成長と相まって国債の償還も楽(我々の住宅ローンも同様です)、というかその時には気にする人の方が少数派になるでしょう。

 

何回か前に、「投資不足は将来世代の貧困化につながる」と書きましたが、政府の防災投資でなければ、無料で(といっても世代間協力による建設国債ですが)国民を守ることはできないのです。

歴史に学ぶ賢者にはなれなくても、最低限経験から学んで、被災地の復旧は勿論、安全な国土計画を進めて欲しいと思います。