社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.123 経済と政治 ~イデオロギーを超えられるか~

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今回は、経済と政治。異なるけれども連関する2つのテーマを考えたいと思います。

 

  • 経済理論と経済政策

まずは経済について。

柴山桂太氏(京都大学大学院准教授)のメルマガが大変勉強になったのでご紹介します。

『その昔、経済学者のジョーン・ロビンソンは次のように書きました。

「経済学を学ぶ目的は、経済学者にだまされないようにするためである。」

この言葉は、有名になりました。あまりに有名になりすぎたため、元の文脈を離れて一人歩きしている感もあります。

 

この文章が出てくるのは、「マルクス、マーシャル、ケインズ」と題された1955年の講演録(”Contributions to Modern Economics”という本に収められています)なのですが、その結論部分でロビンソンは、おおよそ次のように述べています。

 

経済学で大事なのは、一つの経済理論を信じることではなく、その時々の状況に応じて適切な経済理論を当てはめることだ。

 

どんな状況でも一つの経済理論を当てはめるべきだ、というのは科学ではなくイデオロギーである。

<中略>

そして最後に出てくるのが、冒頭の言葉です。正しくは次のように書かれています。

「経済学を学ぶ目的は、経済問題についての出来合いの答えを得るためでなく、経済学者にだまされるのを避けるためである。」

 

これを分かりやすく言いかえると、次のようになるでしょう。

経済学者は、その時々に支配的な学説を、唯一の正しい科学的理論であるかのように言いがちである(さらに言うと、世論もそのように受け取りがちである)が、それが間違いのもとだ。

経済問題に出来合いの答えなどない。その国の状況によって、取りうる解は違う。経済学には、タイプの異なるさまざまな理論がある。重要なのは、現実の問題にそのどれを当てはめるのが適切であるかを考えることだ。そこに経済学を学ぶ目的がある。』

表現者クライテリオン » 【柴山桂太】経済学の本質は「診断学」にあり(一部脱字等を修正)


折りしも、リフレ派の岩田規久男日銀前副総裁は任期満了前の1月31日、大分市内での記者会見で

『「金融政策は一生懸命やったが、他の政策が逆風では、はねのけることができない」と述べ、2014年の消費税増税が2%の物価上昇目標未達の主因だったと強調』し、

岩田・日銀副総裁:目標未達「消費増税主因」 政策の限界認める - 毎日新聞


ニッポン放送ザ・ボイス そこまで言うか!』では、

「雇用が不安定な非正規雇用や年金世代といった低所得層の増加によって、1997年(の消費増税)以上に悪影響(=消費の冷え込み)が長く・広汎に及んだ」

「デフレ均衡から、インフレ均衡に持っていくためには、相当力の大きい政策をやらないと元に戻ってしまう。需要を押し下げる逆噴射的な政策は問題」

という趣旨の発言をされています。

2018/3/27(火)ザ・ボイス 宮崎哲弥×高橋洋一×岩田規久男 特集『5年間に及ぶ黒田日銀の経済政策』「佐川氏証人喚問 安倍総理らからの指示は”なかった”と証言」など - YouTube


「デフレは貨幣現象である」ため、「マネタリーベース増加で、予想インフレ率を引き上げることで、実質金利(=名目金利-予想インフレ率)が低下、それによる投資増と雇用拡大」を重視するリフレ派への賛否はともかく、今の日本がデフレ脱却するためには、大胆な金融緩和と「需要不足に対応する」財政拡大(減税・公共投資・給付金等)が有効な可能性が高いということ。

そして、一つの経済理論をイデオロギー化することなく、状況に応じた選択が必要だと言うことです。

 

同じ『ザ・ボイス』の中で、

「欧米では中長期的にはインフレ率が2%程度になるという予想が形成されているが、日本の場合は(20年に及ぶデフレで)見たこともない」

という発言がありました。我々はデフレマインドからも脱却しなければいけないのです。

 

しかし現実は、財政健全化優先というイデオロギーでデフレが長期化、その間に“いわゆる財政破綻論”が常識化して積極財政が嫌われ、「日本は経済成長できない」という悲観が広がる。すると、原因となった経済政策を疑う人が減り、資本主義では特殊な状態のデフレさえも常識となり、結果、他国と比べて相対的に衰退を続けるといった次第。

 

経済理論のイデオロギー化というのは、それほど危険なことなのです。

 

  • 国会と民主主義と議論

もう一つは、政治というか国会について。

森友問題は財務省の公文書偽造容疑に展開、佐川前理財局長の証人喚問に至りました。

 

政治にはパフォーマンスも必要でしょうから証人喚問を否定はしませんが、倒閣のためだけの印象操作となると問題です。加えてネットで炎上したように、もし倒閣を目指している側に政権運営をする覚悟がないとしたら、、、

民進・小西氏、衝撃発言でネット大炎上 「本気で政権取ろうと考えている野党議員はそんなにいない」 (夕刊フジ) - Yahoo!ニュース

 

以前ご紹介した民主主義の限界、

『民主主義は基本的に人気投票ですから、議会での話題はどんどんわかりやすいものへと矮小化します。<中略>国家の舵取りに関わる大きなビジョンでの争いはできず、<中略>各論が中心となる。

それならまだしも、政治家のスキャンダルや、政治とカネをめぐる話に時間を費やすことになるでしょう。』(『さらば、民主主義』 佐伯啓思朝日新書 P122)

Vol.109 女性宮家と民主主義の限界 - 社長の「雑観」コラム

という事態に陥ります。

実際、憲法改正や安全保障などから目を逸らせたいのではないか、、、と邪推することもしばしばです。

 

世界情勢を考えた時、国会がモリカケ問題に費やしてきた時間は余りにバランスを欠いているように思います。

 

直近でも、中国は憲法を変えて習氏の終身国家主席が可能となり、トランプ大統領はポンペオ国務長官ボルトン大統領補佐官という強硬派を指名。電撃的に中朝会談が実現し、南北会談、米朝会談に向かっています。

また、中台間も緊張、ロシアと欧米では外交官の国外追放合戦。

中国、台湾巡り軍事行動準備すべき=環球時報 | ロイター

先鋭化するNATO 対 ロシア:元スパイ襲撃事件で、露外交官130人以上大量追放 | ホウドウキョク

経済面では、トランプ大統領が(特に対中)貿易戦争を仕掛けていますが、鉄鋼・アルミニウム輸入関税は日本も適応対象になったままです。

日米首脳外交に限界、安倍首相の「片思い」か-北朝鮮、関税で - Bloomberg

 

各国が自国の国益を剥き出しにしている中で、軍事力を背景としない日本外交は国家・国民を守れるのか?

そんな質問をする野党がいない状況では、森友問題をワイドショーのネタとして面白がる気持ちにはなれません。

 

当然、米朝会談がハッピーエンドで終わる保証はなく、開催されないかもしれないし、決裂するかも知れません。また既に「段階的非核化」と言っているように、「いつかは完全廃絶」という合意で、日本に届く核兵器は実質的に容認されることだってあり得ます。

 

その時に、戦後70年間で常識化された安全保障に関するイデオロギー。即ち、「何かあったらアメリカが助けてくれる」あるいは「平和憲法によって日本の平和は保たれる」を乗り越える議論ができるのか、何とも心許ない状況です。

 

西部邁氏のもう一つの遺作(※一冊は3回前に紹介した『保守の真髄』講談社現代新書。並行して執筆されたようです)『保守の遺言 JAP.COM衰滅の状況』(平凡社新書)から引用します。

『どこかから攻撃がきたら、反戦をいう者は、武器は手にしないというのだから、相手に奴隷となって服従するか、非暴力不服従で犠牲を恐れずに抵抗しつづけるしかないはずなのに、彼らには「逃げる」という方針しかないのだ、しかし、どこにどのように逃げるかを考えたら、ましてや年老いた父母や幼い子供を抱えての逃亡となると、そんな方針は単なる空語、空語、空語でしかない。』(同書P144) 

安全保障は国民の生命、ひいては自尊心にも関わることです。

西部氏曰く、

『いかなる個人も、<中略>「自立することに自尊を感じる」はずである。他者や他国に従属することによって安全に生存したとしても、そんな人生や時代の生は、精神的動物としての人間にとって自尊と自立を喪失した果てで空無感や屈辱感をもたらして御仕舞となる。』(同書P57)

 

また、少なくとも民主主義国家では、国民の安全と豊かさを目指さない政府・国会・政党は本来、存在価値を失うはずです。

 

今回ご紹介したラジオ番組『ザ・ボイス』のアンカーマン飯田浩司アナウンサーが、番組最終回を印象的な言葉で締め括っていました。

『議論は闘わせるものではなく、深めるものだ』。

 

そういう国会であって欲しいものです。