社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.121 四半期GDPとデフレの考察 ~「日本の正しい未来」に学ぶ~

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今回は経済の話です。

2月14日に四半期GDP(1次速報)が公表されましたので、いつものように中身を確認していきましょう。

国民経済計算(GDP統計) - 内閣府

 

新聞では「実質GDPが8四半期連続成長」と好感されていますが、残念ながら「デフレ脱却」と胸を張れる状況にはなっていません。


デフレで苦しんでいる日本の場合、実質GDPよりも名目GDPGDPデフレーターに注目する必要があります。

名目GDPは国内の所得の合計であり、そこから物価の変動(GDPデフレーター)を控除したものが実質GDPなのですが、デフレ下では実質GDPが嵩上げされてしまうのです。

下のグラフは日本の名目GDPと実質GDPの推移ですが、デフレに陥った1997年以降も実質GDPは若干、右肩上がりになっているのが分かるでしょう。これが小泉政権下などで言われた「実感なき経済成長」の正体です。

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出典:「世界経済のネタ帳」

日本のGDPの推移 - 世界経済のネタ帳

 

GDP速報によれば、2017年四半期毎の推移(対前期比)は以下のようになっています。

1-3月期 名目GDP+0.1、実質GDP+0.3、GDPデフレーター▲0.2

4-6月期 名目GDP+0.9、実質GDP+0.6、GDPデフレーター+0.3

7-9月期 名目GDP+0.6、実質GDP+0.6、GDPデフレーター+0.1

10-12月期 名目GDP▲0.0、実質GDP+0.1、GDPデフレーター▲0.1

データ出典:内閣府「国民経済計算」

 

・名目GDPが右肩下がりになっていた「リーマンショック~2011年」

GDPデフレーターが右肩下がりになっていた「1998年~2012年」

よりもマシなことは確かですが、1-3月期に続き、10-12月期もデフレ型の経済成長となってしまいました。


次に支出の内訳(対前期比)を見てみましょう。

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データ出典:内閣府「国民経済計算」

 

10-12月期に関して言えば、

・消費が(7-9月期に大きく落ち込んだ反動かもしれませんが)増加

・純輸出はマイナスになったものの、輸入は対前期比で5兆円増(国内需要が活発だったということでしょう)

・4四半期共に民間企業設備が増加

していることは朗報。

一方で名目GDPの減少は勿論、2四半期連続で公的固定資本形成が減少している点が問題です。

 

  • 日本の正しい未来

今回は、村上尚己氏の著書『日本の正しい未来 世界一豊かになる条件』(講談社+α新書)を引用・参照しながら、デフレや経済政策の問題点を指摘していきたいと思います。

 

まずは根っこを押さえるため、「物価が下がる」デフレが何故悪いのか。

非正規社員比率はデフレが始まった1995年時点の20.9%から約20年にわたり上昇、2014年1~3月に37.9%まで高まった。<中略>また、物価上昇分を加味した「実質賃金」の水準も、1997年をピークにその後減少し続け、約20年間で13%賃金水準が下落している(毎月勤労統計調査より)。』(出典:上記書籍P57-58)

つまり物価の下落以上に賃金が下がり、日本人の生活が苦しくなることが問題なのです。


そして、需要不足がデフレの原因であるとした上で、政策に関しては、

『需要減少が長引くと弊害・コストがきわめて大きいため、その落ち込みを和らげる政策対応が、通常どの国でも施される。<中略>そう考えると、なぜ日本だけでデフレが続くのかは、金融政策、財政政策という総需要安定化政策が日本において不十分・不適切だったからというのが、シンプルで多くの人が納得できる理屈になる。金融政策、財政政策はそれらの責任を負う担当者がいるわけだが、彼らの失政のため引き起こされた現象、それがデフレなのだ』(同書P62)

と指摘します。


安倍政権において大規模な金融緩和が実施されていますが、本来、2013年からではなく、リーマンショックよりも更に前、デフレが本格化した段階から打たれるべき政策だったのです。


また、米国ではトランプ大統領が大規模な財政拡大策を進めているにも関わらず、安倍政権は、経済界には賃上げや投資拡大を要請するものの、政府の財政拡大には(2013年を除いて)消極的です。

「民間の活力」というのでしょう。人手不足によって賃上げや生産性向上投資の必要性が増していることは確かですが、同時に村上氏が『もちろん、企業経営者やサラリーマンは、デフレという厳しい環境でも、前向きに努力し続けることをやめることはできない。<中略>ただ、デフレとパイ縮小の経済舞台は、ほとんど「無理ゲー」の世界での戦いである』(同書P72)というように、政府が率先して需要をつくる財政政策が必要不可欠です。

 

いわゆる「財政健全化」が足かせになっているのでしょうが、日本の財政破綻国債の暴落というシナリオはあり得るのでしょうか?

村上氏は投資運用会社のエコノミストですが、

『そうした議論のほとんどは、国債などへの投資を行っている投資家の視点でみれば的外れなものばかり』であって、『いわゆる「狼少年」という扱いである。』(同書P113)とのこと。

国債発行残高がGDPの2倍になっていようと、円建てである以上、通貨発行権のある日本政府は債務不履行に陥りません。

そして、その9割が国内で保有されているということは、家計や企業が預金し、金融機関が国債で運用しているという構図を理解すれば、国民がその分の安全な金融資産を持っているとも考えられる訳です。

 

  • デフレが財政を悪化させる

早期の財政健全化を叫ぶ方々は、1990年代初頭のバブル崩壊とその後のデフレの放置によって政府債務の対GDP比が悪化してきたことを忘れているようです。

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出典:世界経済のネタ帳

日本の政府総債務残高(対GDP比)の推移(1980~2017年) - 世界経済のネタ帳

 

まず「デフレ脱却」のために十分な金融政策・財政政策を打たなければ、財政は健全化しません。順番を間違えているのです。

逆にアベノミクス当初言われていたように、経済成長2%とインフレ率2%が達成すれば、名目GDPは4%増加します(今回の速報の年次名目GDP成長率は1.4%)。税収は名目GDPに連動しますので、4%に税収弾性値を乗じた分が増加し、財政は自然に健全化します。


政治家も官僚も、我々国民も、意識的か無意識かは別にして、「国の借金1000兆円、国民一人あたり何百万円」というレトリックが刷り込まれ、自縄自縛に陥っているように思えます。

本来、「小さな政府」論というのは、国民が豊かな暮らしを望み、政治家が人気取りのため放漫財政に走るのを牽制するという面があった筈ですが、あまりに長期間デフレに苦しんできた日本国民は、政府の財政拡大も「無駄遣い」と映るようになってしまったのかもしれません。

 

この状況に対して、元英金融サービス機構長官:アデア・ターナー氏が三つの提案をしています。

視点:マネタリーファイナンスはなぜ日本に必要か=アデア・ターナー氏 | ロイター

1, 政府は2019年10月に予定している(8%から10%への)消費税率引き上げを再延期し、高水準の財政赤字を計上し続けるべきだ。

2, 日銀は、政府による国債発行とほぼ同じペースで国債を購入し続けるべきだ。

そして、3つ目は

『日銀は、保有国債の一部を無利子永久国債としてバランスシートの資産に計上し、実質的に「消却」すべきだ。併せて、一般企業グループにおける連結決算と同じように、政府と中銀を会計的に一体として捉える統合政府の考え方に従って、日銀保有分を公的債務から差し引いて考えることも強調すべきである。公的債務負担が実際のところは、よく言われている国内総生産(GDP)比250%よりも大幅に低い水準であるならば、国民のマインド面にポジティブな影響を与えるだろう。』

 

これをご紹介したのは、3つ目で企業や家計と違い、日本における「国の借金」はこの程度の問題だと知って頂きたかったからです。


日経新聞(2018年2月17日朝刊)によれば、日銀の国債保有割合は、

・2012年12月の12%→現在41%

まで上昇していますので、統合政府のバランスシートを作って、説明を徹底する=「国の借金」型のミスリードを改めるだけで十分だと思いますが、それでも足りなければ(一部を)無利子永久国債にすることで実質的に「消却」し得るという訳です。

 

少し前、ノーベル経済学者のスティグリッツ氏も、国債の一部を無利子永久国債・貨幣化することが、インフレが必要な逆転経済に陥っている日本では有効策になり得ると主張していました。

A better economic plan for Japan | Business | The Guardian

 

消費増税(私も凍結すべきだと思いますが、、、)、東京オリンピック景気の終焉、残業規制の所得減少という負の側面、選挙後に生まれた増税路線などが景気を冷やす前に、あらゆる政策を駆使してデフレ脱却を進めて欲しいと思います。