社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.118 財政赤字が少なすぎる?! ~中野剛志氏に学ぶ~

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  • ある経営者との会話

先日、台湾で活躍していらっしゃる日本人経営者の方とお話しする機会に恵まれました。

その際、印象的だったのが「1990年前後の日本(バブル期)や2000年前後の台湾と同じような雰囲気を今の中国から感じる」と実体験を踏まえておっしゃっていたことです。

 

面談前に以下の記事を読んでいたこともあり、

引用:「あまり豊かじゃないけど、日本て、いい国よね」――。

中国人が日本人には絶対言わない日本旅行の意外な本音 | News&Analysis | ダイヤモンド・オンライン

「中国は政治的リスクが大きく、民間債務の膨張など経済的リスクもある。加えて、GDP統計も信用できない困った国ですが、リーマンショック後の財政拡大は素早かったからなぁ、、、」と嘆息したものです。


片や、我らが日本は消費増税以降、個人消費の低迷が続く中、

統計局ホームページ/家計調査報告(二人以上の世帯)―平成29年(2017年)10月分速報―

法人に賃上げ減税を行うことで、「給与アップによる個人消費の拡大によってデフレ脱却を目指す」としながら、同じ与党税制改正大綱で「個人軸に2800億円増税」と矛盾した政策を打ち続けています。

個人軸に2800億円増税 法人税は増減ゼロ :日本経済新聞

 同じタイミングで米国は10年間で1.5兆ドル規模の減税を進めようとしているにも関わらず、、、です。

税制改革で10年間に1.5兆ドルの歳入減、米上院委が予算決議案 | ロイター

 

下の動画は、自民党衆議院二期生を中心とした「日本の未来を考える勉強会」のもので、前回ご著書からリードリッヒ・リストの「国債制度は近代の政治の最もみごとな創造物の一つ」(『経済と国民』 朝日新書)という言葉を引用させて頂いた中野剛志氏が、国債財政赤字の仕組みと共に、デフレ下で緊縮財政を行うことの愚について講演されています。

第2回「日本の未来を考える勉強会」ー貨幣と租税ー 平成29年4月27日 講師:評論家 中野剛志氏 - YouTube

 

「世間の通念と違う」と断った上での講演内容を参照し、一部私見も含めて、いくつかポイントをご紹介します。


まず、国債の仕組みについて。

少し難しいのですが、このような図が紹介されています。

  1.  銀行が(政府の発行した)国債を購入すると、(政府は日銀にしか預金口座を持っていないので)銀行保有の日銀当座預金から、政府の日銀当座預金勘定に振り替えられる。
  2.  政府は公共事業の発注にあたり、企業に政府小切手で支払う。
  3.  企業は取引銀行に小切手を持ち込み、代金の取り立てを依頼。
  4.  銀行は小切手相当額を企業の口座に記帳(新たな預金の創造)。同時に、日銀に代金の取り立てを依頼。
  5.  政府保有の日銀当座預金から、銀行の日銀当座預金勘定に振り替えられる(銀行の日銀当座預金が戻ってくる)。

(並木註:以上の内容は動画の22分あたりから説明されています。文脈の都合上、ハイライト箇所の変更や若干の表現変更を行っています。)

 

1~5をグルグル回し、ステップ2で民間に仕事=売上を生み出します。政府の赤字が需要を創り、同時に同額の民間金融資産を生まれます。この繰り返しによって、デフレギャップ(需要不足)を埋めることで、デフレ脱却が可能になります。

金融緩和だけでは、ステップ1で逆に日銀が銀行の持つ国債を購入し、銀行の日銀当座預金は増えますが、銀行が企業に貸し出しを行い、企業がそれを実体経済で使わない限り需要は生まれません。しかし残念なことに、デフレ下では企業の借入ニーズが少ないのです。

 

また、国債の発行制約は借り手である日本政府の返済能力であり

・日本国債はほぼ100%円建であり、

・政府は通貨発行権を持っているため

発行量に資金的な制約はない(自国通貨建て国債のデフォルトを起こり得ない)ことも語られています。

こちらは評論家:島倉原氏が、明治維新以降の政府債務残高の推移をグラフ化したデータですが、個人と違って寿命のない政府は、自国通貨建ての債務であれば、増やし続けることで国民の豊かさや安寧を保っていけるのです。

https://twitter.com/sima9ra/status/768397725503135744

 (対数目盛りになっているのでご注意下さい)


自国通貨建て国債発行の制約となるのは、国民の貧困化につながる過度のインフレですが、インフレターゲットの未達で悩んでいる現在の日本にとって、物価上昇はむしろ朗報です。物価は上昇するけれども、それ以上に賃金が上昇することによって経済成長は実現します。

国債金利についても同様で、超低金利に悩む日本が心配することではありません。バブル期の20年国債金利が7%を超えていたように、金利の上昇=資金需要の拡大=好景気ですので、その時こそ政府から民間主導の景気回復に、そしてバブルが膨張し過ぎないよう(一方で急激なバブル崩壊を起こさないよう緩やかに)緊縮財政に切り替えるべきタイミングが来ます。

 

  • 誰かの債務は誰かの債権

また、中野氏は「デフレ下の財政再建は、無駄な骨折り」と断言しています。

私も時折説明する、緊縮財政による不況が税収減とつながることと共に、「誰かの債務=別の誰かの債権」という視点を論じています。これは当たり前ではありながら見落としがちです。

同旨の内容を東洋経済オンラインに寄稿していらっしゃるのでそちらを参照しましょう。

『まず、当たり前の話から始めよう。

あらゆる支出は、誰かの所得として受け取られるものである。したがって、経済全体でみると、支出の総計は所得の総計に等しくなる。

さて、マクロ経済は国内民間部門、国内政府部門、海外部門から成り立っており、ある部門における収支の赤字は他の部門における黒字によって相殺される。よって、「国内民間部門の収支+国内政府部門の収支+海外部門の収支=0」という恒等式が事後的に成立している。

この等式から明らかなように、国内民間部門、国内政府部門、海外部門のうち、ひとつの部門の収支を変化させるには、他の2部門の収支も変化させなければならない。したがって、政府の赤字の減少は、国内民間部門か海外部門の赤字の増大に対応することになる。』

「財政赤字の拡大」は政府が今やるべきことか | 国内経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

3ページにグラフがありますが、高度成長期やバブル期など、好景気で民間が借金を拡大する局面でないと政府の財政黒字は実現していません。


公共事業悪玉論が根強い日本。財政拡大が利権の温床になっていれば腹もたちますが、それは運用方法の話。

本来、政府の赤字は民間の黒字になるのですから、ありがたい話なのです。特にデフレ下では政府の財政拡大こそが、内需の拡大と我々の給与上昇を牽引しますので、中野氏の言葉を借りれば、

「日本はデフレなので、財政赤字は多すぎるのではなく、少なすぎると言うべき」

となります。緊縮財政によるデフレの継続によって、

「消費をしなくなるのは、現在の世代の貧困化

 投資をしなくなるのは、将来の世代の貧困化」

につながります。「日本は豊かになって欲しいものがない」と言う人が本気だったとしても、将来世代のための投資は続けないといけません。

 

  • デフレ脱却に向けて

さて、冒頭の経営者との会話に話を戻します。


その方から「日本の(外食などの)価格は驚くほど安い。ブラック企業問題など、過剰サービスという側面もあるのではないですか?」と指摘されました。

「おっしゃる通りです。日本は20年間デフレを続けている国です。需要不足の中では価格競争に陥ったり、(価格に対して)過剰サービスに走らざるを得ません。政府や経済団体の会合などで、(特にサービス業の)生産性向上が叫ばれますが、生産性=GDP÷労働投入量(就業者数×労働時間)ですから、20年間デフレ(低価格化)で名目GDPが上がらず、平均賃金が減少=労働力が安くなっていたことから、労働投入量を増やして過剰サービスが可能だった状況下では、生産性が上がらなくて当然なのです。その間アメリカでもGDPが2倍に成長しているのですから」

とお答えし、日本のために「デフレ脱却が大切ですね」と話し合いました。

デフレなのに人手不足という現在の環境を契機にしなくてはいけません。


逆に、個人を軸とした増税と2019年の10%への消費増税が本当に行われれば、2020年東京オリンピック特需の終了ともタイミングが重なりますので、相当の経済的リスクを自ら背負い込むことになります。


税制の行方、それと並行して検討が進んでいる来年度の予算、更に次回の「骨太の方針」からプライマリーバランス黒字化目標が消えるか否かが当面の試金石です。

その為には主権者である我々が、デフレ脱却に向けた「政府の財政赤字の役割」を改めて認識することが大切だと思います。