社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.117 四半期GDPと「雇用と賃金」

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11月15日、四半期GDP(2017年7-9月度)一次速報が発表になりました。

  • 四半期GDP速報

新聞等では

・実質GDP:年率換算+1.4%
・7期連続プラス成長で「いざなぎ景気」超え
・名目GDPの実額は546兆円と過去最高の水準

と好感されています。

7-9月GDP年率1.4%増、16年半ぶり7期連続プラス成長 - Bloomberg


「景気は気から」という側面もあるので、それはそれでよいのですが、一方で景気拡大を実感できない人も多いはず。政治が経済状況を誤認し、自画自賛に陥らないよう、今回もGDP成長の内訳を確認していきたいと思います。

 

まずはGDPデフレーター

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2017/qe173/pdf/jikei_1.pdf

17ページの四半期デフレーター原系列(前年同期比)によれば、一年前の2016年7-9月期から続いていた「マイナス状態」から、辛うじて0.1%のプラスに転じました。とはいえデフレ脱却と呼ぶには成長率も期間も足りません。

7期連続プラス成長と言いながらGDPデフレーターがマイナス状態だったわけです。

 

次に名目GDP

過去最高水準になったことは喜ばしいのですが、対前期の増減額を確認すると、

国民経済計算(GDP統計) - 内閣府

国内総生産全体は+33,978億円 ながら、

民間最終消費支出:▲13,631億円
民間住宅:▲271億円
民間設備投資:+4,923億円
民間在庫変動:+14,157億円
政府最終消費支出:+1,981億円
公的資本形成(公共投資):▲4,946億円
公的在庫変動:▲145億円
純輸出:+31,911億円

と純輸出に依存した成長であることがわかります。

純輸出の内訳は、輸出の増加+27,919億円-輸入の減少▲3,992億円です。

つまり、輸入と民間最終消費支出の減少双方で消費は大幅に減退。

民間設備投資の増加は朗報ですが、前回「まずは政府が率先すべき」と指摘した公共投資は大幅減。

結果、国内需要全体の伸びは前期比+2,067億円(+0.0%)にとどまった上、実質GDPでは前期比▲8,138億円(▲0.2%)と減少してしまっています。

 

  • 内需縮小型経済成長とデフレ型経済成長

経済評論家の三橋貴明氏は、この現象を「内需縮小型経済成長」と呼び、これとデフレ型経済成長(名目GDPが縮小してしまっても、インフレ率であるGDPデフレーターのマイナスによって実質GDPがプラスになる現象で2017年1-3月期はそれに当たる)に支えられた現在の実質GDP「7期連続プラス成長」を、「いざなぎ景気超え」と持ち上げる論評に警鐘を鳴らしています。

内需縮小型経済成長|三橋貴明オフィシャルブログ「新世紀のビッグブラザーへ blog」Powered by Ameba


いずれにせよ健全な経済成長路線(実質GDPがプラス、GDPデフレーターのプラスにより、名目GDPが実質GDP以上にプラス:通常の資本主義経済の状態)とは言い難い状況です。

特に今回の四半期GDPで、依然として根強い外需依存型経済成長=グローバリズムへの期待が高まれば、工場の海外移転や安倍政権下で実質的に進んでいる移民政策などにより、「底辺への競争」が再燃し、賃金が上昇しにくくなります。

グローバル化によって先進国の中間層の所得が伸びない「エレファントカーブ」の継続です。

「エレファントカーブ」がトランプ現象を生んだ:日経ビジネスオンライン

所得が伸びなければ、消費が増えず、需要拡大が見込めなければ今回プラスとなった設備投資の伸びも鈍化してしまうでしょう。

 

  • 日本の雇用と賃金

さて、そこで雇用と賃金について考えてみます。

アベノミクスの功罪として、就業者数や求人倍率の高さ、あるいは失業率の低さを挙げる擁護派と、実質賃金の低下を挙げる否定派がいらっしゃいますが、「現時点では」私はどちらにも与しません。

人口構造上の変化に過ぎないように見えるからです。

というのも以前、就業者が増えても「延べ就業時間」は増えていないということをご紹介した後、改めて調べて気がついたのですが、

Vol.113 GDP速報と経済対策 - 社長の「雑観」コラム

(以下の数値は総務省統計局の労働力調査平成28年平均:速報)P22を見ながら手計算したので、若干誤差はあるかもしれません)

http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/index1.pdf

2012年と2016年との対比で、正規社員(役員除く)は+15万人(3,340万人→3,355万人)。

しかし、25歳~64歳の正規社員は▲19万人(3,016万人→2,997万人)、同世代で男性に絞れば▲46万人(2,123万人→2,077万人)。

一方、非正規雇用者は+203万人(1,813万人→2,016万人)、高齢者(65歳以上)で+120万人(179万人→299万人)、女性も+120万人(1,247万人→1,367万人)です。

つまり、団塊の世代が定年を迎えて減少した労働力を、高齢者や女性を中心とした非正規雇用で補っているという構図です。となれば年収の高い社員が定年を迎え、再雇用やパートアルバイトで不足した労働力を補うわけですから、就業者数が増えるのも、実質賃金が低下するのも道理です。

 

  • 政策の整合と不整合

問題はこれからどういう方向に向かって、整合のとれた政策を打っていくかです。

 

政策の整合性について、頭の体操として面白かったのは、11月21日のニッポン放送の「ザ・ボイス そこまで言うか!」の中で、「賃金上昇」を実現する政策について、立命館大学教授の松尾匡氏と評論家の宮崎哲弥氏が、

希望の党が掲げた公約:「内部留保課税」と「法人税の大幅減税」

の不整合を指摘した内容です。

法人税が減税されれば税引き後利益が増えます。そこから配当を払って残った金額が内部留保ですので、内部留保課税は増配へのインセンティブにつながり、人件費に回らない可能性が高いという訳です。

2017/11/21(火)ザ・ボイス 宮崎哲弥×松尾匡×井上智洋 「これからの日本経済と雇用」「訪朝の中国特使が帰国。アメリカが9年ぶりに北朝鮮をテロ支援国家に指定」など - YouTube


こうした不整合は、時に「調整機能」として必要な場合もあるでしょうが、基本的には注意が必要です。

 

安倍政権がデフレ脱却を掲げ、国難の一つとして少子化を挙げている以上、賃金上昇を目指して財界に働きかけ、賃上げ実施企業への減税を検討することは整合します。

東京新聞:賃上げで法人減税案 与党税調 内部留保税検討せず:経済(TOKYO Web)

しかし、外国人労働者の増加、非正規雇用の拡大は不整合。働き方改革も労働時間規制だけが一人歩きすれば、残業代の減少によって不整合になりかねません。


そもそも論として、中期的に需要が増える=業績が上がる見込みがなければ、企業は安心して人件費を増やせません。何しろ20年間デフレの上、金融危機まで経験しているのです。

 

結局、「まずはデフレ脱却ありき」です。

その対策として先に紹介した三橋氏も、「ザ・ボイス」に出演されているお三方(もう一人は井上智駒沢大学准教授)も財政支出拡大による需要の創造を上げています。宮崎氏は長期停滞論を提示したローレンス・サマーズ元米財務長官も停滞から逃れるために財政出動の必要性を説いたという引用もされています。

私も全く同意見ですが、プライマリーバランスの黒字化、消費増税、最近新聞を賑わしている各種の増税や財源論とは不整合となります。

 

因みに、更なる国難である「北朝鮮危機」など日本の安全保障とプライマリーバランス黒字化も明らかに不整合です。当たり前の話ですが、お金をかけずに防衛力・防災力を強化することはできません。

 

与野党を問わず、財政拡大を訴える政党がないのが不思議です。

確かに長年「公共事業悪玉論」「財政破綻論」が蔓延していますが、今回の選挙で(就職率が上がった)若者が自民党を支持したことからも、経済成長は支持率に直結すると思うのです。

グローバリズムへの盲信、政治的な駆け引き、財務省やマスメディアの影響など様々な要因があるのでしょうが、突き詰めれば政治家が

「自国通貨建ての国債のデフォルトはあり得ない」

「金融緩和によって財政健全化は相当に進んでいる」

「低成長下では増税ではなく、国債を財源とした財政拡大が有効」

ということを国民に説得する見識と覚悟次第なのだと思います。

 

最後に国債に関するフリードリヒ・リスト(19世紀の著名な経済学者)の慧眼をご紹介します。

国債制度は近代の政治の最もみごとな創造物の一つであって、それが将来のいかなるときにも国民国家の利益となるような、また国民国家の存立、成長、偉大、勢力、生産力の増大を確実にするような、現在の世代の事業と努力の費用を多くの世代の上に分割する手段として利用されるかぎり、国民のためには大いに役立つものである。」(出典:『経済と国民 フリードリヒ・リストに学ぶ』 中野剛志著 朝日新書 P49)

国民国家国債を発行し、安全保障・経済成長・生産性向上のために投資することは、将来世代にツケを回すのではなく、「同時代に生きる諸個人とつぎつぎに継続する諸世代とが共通の目的に向かって一致した努力」(出典:同上P50)を行うことなのです。