Vol.114 北朝鮮問題と現実直視
- トランプ大統領の国連演説
何カ国かを名指しで非難したことや、『北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させていることについて、「アメリカは、強さと忍耐を持ち合わせているが、アメリカと同盟国を守らざるをえない場合、北朝鮮を完全に壊滅するほか、選択肢はなくなる」と述べると、会場ではざわめきの声が聞かれました。』と物議も醸した上、北朝鮮との非難の応酬が続いていますが、特に日本人として、
『「工作員の日本語教師として強制的に働かせるために愛らしい日本人の13歳の少女を連れ去ったことをわれわれは知っている」と述べ、拉致被害者の横田めぐみさんに言及し、北朝鮮を非難しました。』
と発言されたことに対し、素直に感謝したいと思います。
トランプ大統領 国連総会の演説で北朝鮮を強く非難 | NHKニュース
現在の北朝鮮問題は、核・ミサイルから国民の生命・財産を護れるかということと、同じ国民でありながら不当に拉致された被害者達を奪還できるか、二重の意味で日本の安全保障が問われていることを忘れてはなりません。
- 国連の歪み
また、北朝鮮問題によって国内外で様々な戦後の歪みが明るみに出ています。
例えば当の国連では、それぞれ核を保有している五大国が拒否権を持っています。
6回目の核実験を非難したフランスは、北朝鮮から『核兵器の保有が本当に悪いことであれば、何の脅威にも直面していないフランスはなぜ核兵器を廃棄しないのか』と言い返される始末。
北朝鮮が、フランス大統領の表明に反応 - Pars Today
「拒否権」による安保理の形骸化は、以前から指摘されていたことではありますが、今回も中露の存在によって、北朝鮮に対する制裁決議は『最大の焦点だった原油の禁輸措置は、事実上の現状維持に終わった。』など、骨抜きになっています。
【北朝鮮核実験】強力案提示も…中露説得できず米国譲歩 「北の輸出、9割削減できる」と米国連大使が成果強調 - 産経ニュース
選挙のある民主主義国家であれば、多少抜け道のある経済制裁でも効果はありますが、金王朝による独裁国家に対して骨抜きの経済制裁を科しても、困窮するのは人民だけとなる可能性があります。
その他の紛争に対しても国連は有効な手を打てていません。現体制の限界が見えてきたように思えます。
- 日本の歪み
さらに日本国内は深刻です。
そもそも防衛白書によれば、『北朝鮮は1970年代から弾道ミサイルの開発に着手したとみられ』(平成29年版『日本の防衛』 防衛省 p94)、最初のミサイル発射実験は1993年(同p87)、翌94年にはクリントン政権が『寧辺(ニョンビョン)の核施設への空爆を検討』するも断念。
【北ミサイル】金正恩氏の強気の裏には…米が折れた1994年の核危機「再演」狙う?(1/2ページ) - 産経ニュース
1998年のテポドン発射では既に、日本列島の上空を越え、『第一段目は日本海に、第二段目は太平洋に落下』しています。
北朝鮮によるミサイル発射実験 (1998年) - Wikipedia
この頃から、いつか北朝鮮が核を持つと言われるようになり、阻止のために20年以上続けられた「話し合い」の結果が現在です。さすがに昨今、「全ての選択肢がテーブルの上にある」と言われていますが、それでも野党やメディア等では「話し合いによる解決を」という声が主流です。
憲法上「座して死を待つ」よりはと、昭和30年代から認められている(と解釈されている)らしい敵基地攻撃能力の保有には、安倍首相も『現時点で具体的な検討を行う予定はない』とのこと。
敵基地たたく攻撃能力、首相「保有の検討行う予定なし」:朝日新聞デジタル
言い換えれば「アメリカにお任せする」ということですね。
組織論を一つご紹介しましょう。
サービス・マネジメントの権威:カール・アルブレヒト氏は著書『なぜ、賢い人が集まると愚かな組織ができるのか~組織の知性を高める7つの条件』(ダイヤモンド社)の中で、瀕死の状態に陥った企業は、新しい現実に対処する前に、『危機から目を逸らす』→『危機は認めながらも、「自分たちは変わらなくてよい」と主張する』→いよいよ痛みが拡がってくると『“犯人探し”を始める』というフェーズを辿ることが多いと指摘しています。(同書p30-31参照)
どこか現在の日本に当て嵌まるのではないでしょうか。
- 「備え」としての安全保障議論
北朝鮮を取り巻き、今後起こりうる未来は、
1, 外交交渉で北朝鮮が核開発の放棄に合意し、約束を履行する
2, 裏合意がなされ、ワシントン(ないしアメリカ本土)に届くICBMの開発は中止、実質的に核保有を認める
3, 北朝鮮がワシントンに届くICBM及び核の小型化に成功する
4, 3の成功前に米国が叩く
の何れか、ないしはそのバリエーション(暗殺による体制変更など)となるでしょう。
1がハッピーエンディングですが、核を断念したフセインやカダフィの末路を知っている独裁者が、4による人民の被害を重視するか甚だ疑問です。要は金正恩氏の一存にかかっている訳です。
となれば2~4について「も」対策を考えることは、至極真っ当なことに思えるのですが、こう書くと「強硬派」のレッテルを貼られるのでしょうか?
しかし、企業も個人も程度の差、自覚の差こそあれ、リスクを感じれば未然に防ぐための手間やコストをかけるものです。その時は同時に、相応の無駄も覚悟しなければなりません。
泥棒に入られるかどうか分からないのに、家には鍵をかけますし、引っ越したら鍵を取り替える人も多いでしょう。保険会社や警備会社、ITセキュリティーも万一の時のために成り立っているビジネスです。
現在、日米同盟はかなり強化されていますが、2の裏合意がなされた場合、敵基地攻撃能力を米軍にお任せするという訳にはいきません。現在の自衛隊の装備で対処できないからには、万一の備えを進めておくことは良識の範囲だと思います。
加えて、国民国家である以上、拉致被害者を取り戻すのは日本の使命です。
さらに、2016年、日本の領空侵犯のおそれがある航空機が発見された時にかかるスクランブルの回数は冷戦期のピークを上回る1,168回。実に1日平均3.2回です。
こちらは中国が851回、ロシアが301回(平成29年版『日本の防衛』 p341)となっている通り、日本の脅威となり得るのは北朝鮮だけとは限りません。
先ほどの『なぜ、賢い人が集まると愚かな組織ができるのか』からもう一つ、
『知性、創造性にあふれた優秀な人々が意欲をみなぎらせながら、まるで魔が差したように自分の首を絞める』(出典:同書p18 ※文脈の都合上2文字削除)ような判断をする原因として挙げられている『グループシンク(集団思考)』についてご紹介します。
優秀な人が集まっても、『性格、感情、好き嫌い、利己的な動機、表に出せない事情、対抗心、誤った情報、そして頑なさなどにも影響され』(同書p32)
・つくられた空気による同調圧力
・声の大きい人がねじ伏せようとする力
・過去の発言や費用によるバイアス
・迫り来る刻限のプレッシャー
・今の混迷や不評を避けるための先送り
・わかりやすい回答のない中、漸進を続ける不透明さに耐えられない
などの場合に奈落への道を歩むことが多いようです。(同書p35-38を参考に並木作成)
ならばどうするか。
出来るだけ早く危機に目覚めて、現実を直視し、『皆が周囲の意見をよく聞き、意見を出し、軽はずみな判断を控え、いくつものアイデアを組み合わせてよりよいアイデアへとまとめあげ、異なった見方についても尊重すれば、ほぼ例外なく、状況や可能性を最大限に活かす解決策を編み出せる』(同書p35)そうです。
なかなか示唆的ではないでしょうか。
右だ左だと(実はこれだって定義が曖昧です)対立していても、国防の成否に関しては一蓮托生にならざるを得ない以上、「状況や可能性を最大限に活かす解決策を編み出す」べく、禁忌を作らずに議論を始めるべきではないでしょうか。
- 余談ですが、、、解散総選挙について
そんな中で解散総選挙が話題となっていますが、自民党の公約案として最初に話題に上ったのが、次の消費増税の一部を政府債務の返済ではなく、教育無償化の財源に充てるための使途変更とのこと。目を疑いました。
これって前原民進党代表の意見と一緒ですよね。むしろ争点にならず、消費増税が確定してしまうのではないでしょうか。そもそも「税と社会保障の一体改革」三党合意の際、消費増税は社会保障の充実のためと説明されていませんでしたか?
実際には、8割が政府債務の返済に充てられているそうで。こちらの方がビックリです。
【衆院解散】消費税の使途変更論が浮上 財政健全化目標、遠のくか 教育無償化へ「重要な視点」(1/2ページ) - 産経ニュース
消費増税が景気の減速に直結することは数年前に痛感した筈。また、教育は国民に対する「投資」ですから、不況期には「教育国債の発行」で賄うべきです。
こんな問題より「日本の安全保障」や「消費増税の凍結」が争点となる選挙になるよう、心から願っています。