「雑観」コラム

(株)MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.107 朝鮮半島危機と国防について

f:id:msandc:20170501104647j:plain

 

約一ヶ月前まで森友問題一色だった報道が、連日、朝鮮半島危機を取り上げるようになりました。

28日に国連安保理の閣僚級会合が開かれれば、29日には北朝鮮が弾道ミサイル発射。対して米韓軍事演習に加え、日米英仏の4カ国共同訓練、海上自衛隊の「いずも」による米艦防護など、めまぐるしく動いています。

北朝鮮が弾道ミサイル発射 内陸部に落下、失敗の見方 - 産経ニュース

仏軍艦艇が佐世保入港、日米英と共同訓練へ 北朝鮮などけん制 | ロイター

初の米艦防護任務、海自「いずも」横須賀を出港 : 政治 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

 

政府も内閣官房:国民保護ポータルサイトに「弾道ミサイル落下時の行動」に関する情報を掲載し、相当数のアクセスがあるようですから、危機意識が共有されつつあるのだと思います。

5月9日に行われる韓国大統領選では親北の大統領誕生の可能性も高く、それが米軍の動きに影響を与えることもあり得ますから、万が一Jアラートが鳴る事態になった時の対応をご存じない方はご覧下さい。

内閣官房 国民保護ポータルサイト

 

さて、北朝鮮がまさかの先制攻撃をした場合には、米軍は躊躇無く反撃するでしょうし、北朝鮮の反撃能力を瞬時に破壊することが可能で、在韓や在日米軍及びその家族・関係者、同盟国である日韓両国への被害が軽微に抑えられると判断すれば先制攻撃もあり得るでしょう。

仮に、比較的短期にXデイが訪れるとすれば、我々にできることは「どのように身を護るか」であり、国家としてすべきことは国家防衛に加えて、「韓国にいる日本人の救出」、「難民(特に武装難民)対策」、さらに「拉致被害者救出」の契機にすることです。

 

一方、4月27日にトランプ大統領が

北朝鮮の核・ミサイル開発を巡ってこう着状態となれば、同国との大きな紛争が起きる可能性があると述べた上で、外交的な解決を望む姿勢を示した。」

と報道されているように「こう着状態」、すなわち問題が長期化する可能性もあります。

インタビュー:トランプ氏、北朝鮮と「大きな紛争」の可能性 | ロイター

 

米国にとって、同盟国の安全もさることながら、第一の目的は「核が搭載されたSLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)やICBM大陸間弾道ミサイル)が実用化され、自国が直接の脅威に晒されるのは許さない」という自国の国益であり、

北朝鮮側は「金王朝の維持」だと思いますが、核を持っていなかったサダム・フセインが滅ぼされたことなどから、「核保有こそが金正恩体制維持への保証」と考えているとすれば、核放棄=体制保証というディールが簡単に成立するとは思えません。

 

中国の影響力に期待する向きもありますが、中国国内が一枚岩である筈もなく、習一派と江沢民派で金王朝をめぐる対立が激化していているという情報もある上、中国自身が拡張主義を続けている以上、過剰な期待は禁物です。

正男氏毒殺…中国「政変」引き金 カード失った習氏激怒 河添恵子氏緊急リポート (3/3ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK

 

同盟関係は重要ですが、他国に期待するだけでなく、自国の安全を本気で心配しなくてはいけない事態が訪れたということです。

 

仮に問題が長期化した場合、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とばかりに政治家やマスコミ、ひいては我々の意識が薄れてしまえば、折角の「時間」を生かすことができません。

 

日本国憲法の前文には、

「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」

とあります。

「諸国民」のところに「米国政府」を代入すれば親米保守、「地球市民」に置き換えれば左翼ということになりますが、そうしたイデオロギー的な対立は一端脇に置いて、歴史上いつの時代も、専制や圧迫を試みる勢力が存在したという事実に立ち返る必要があります。

 

  •  ルトワック氏の警告 

著名な戦略家・国防アドバイザーであるエドワード・ルトワック氏は

『私は戦略家であり、政治家ではない。ましてや教師や牧師でもない。倫理道徳の価値観の教育は専門外だ。』(『戦争にチャンスを与えよ』 エドワード・ルトワック著 奥山真司訳 文春新書 P111 並木註:タイトルは過激ですが真面目な本です)と断った上で、

北朝鮮問題に対して、

『議論をまとめると、日本には「降伏」、「先制攻撃」、「抑止」、「防衛」という四つの選択肢がある。

ところが、現実には、そのどれも選択していないのである。代わりに選択されているのは、「まあ大丈夫だろう」という無責任な態度だ。(並木註:同書は2016年10月に行われたインタビューを中心にまとめたもの)

外国人である私は、日本政府に対して、いずれを選択すべきかを言う立場にない。ただし戦略家として自由な立場から言わせてもらえば、「まあ大丈夫だろう」という態度だけは極めて危険である。』(同書 P120)

なぜなら

『人間というのは、平時にあると、その状態がいつまでも続くと勘違いをする。これは無理もないことだが、だからこそ、戦争が発生する。なぜなら、彼らは、降伏もせず、敵を買収もせず、友好国への援助もせず、先制攻撃で敵の攻撃力を奪うこともしなかったからである。つまり、何もしなかったから戦争が起きたのだ。』(同書 P115)

と語り、

1000年間も続いたビザンティン帝国からの七つの教訓を紹介していますが、その第一は、

『戦争は可能な限り避けよ。ただし、いかなる時にも戦争が始められるように行動せよ。訓練を怠ってはならず、常に戦闘準備を整えておくべきだが、実際に戦争そのものを望んではならない。戦争準備の最大の目的は、戦争開始を余儀なくされる確率を減らすことにある。』(同書 P190)

とのこと。

 

私見では、日本に侵略や領土拡張の野心がないことは、殆どの日本国民と、反日教育を行っていない大多数の国で共有されていると思いますが、それにも関わらず日本では議論の「タブー」が多すぎ、その最たるものが国防です。

タブーには不安を煽らないという側面もあるのでしょうが、「レッテル貼り」で議論を封じ込めるようでは、現実よりもイデオロギーを優先しているように思えます。国防を語れば“右翼”という訳ですが、地下街や地下鉄の駅をシェルター化して避難訓練を行うという穏当な方法だって抑止力になり得るでしょう。

 

余談ですが、フランス大統領選を争っているマリーヌ・ル・ペン氏は“極右”と呼ばれているものの、訴えているのは移民排斥ではなく、移民制限やテロの抑止。さらに経済政策に至っては、大きい政府による格差縮小を主張していますので、むしろ左派的です。少し調べるとレッテルの方がおかしいことが多々あるものです。

 

イデオロギーよりも冷静さと良識に基づいた議論が必要です。

神武天皇の即位を紀元とする「皇紀(こうき)」は今年で2677年。我々には、西暦よりも660年長く続く日本を少しは豊かに、そして安全にして次の世代に引き継ぐ責任がある筈です。