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社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.101 日本経済の現在と未来

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前回の投稿でも簡単に触れましたが、今年最後のブログでは2016年の日本経済を振り返ってみたいと思います。

皆様、本年も拙いブログにお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

 

  • 安倍首相の発言

安倍総理は今年、年頭の会見で、

「私は、デフレではないという状況を創り出すことはできた、こう申し上げておりますが、残念ながらまだ道半ばでありまして、デフレ脱却というところまで来ていないのも事実であります。」

という曖昧な答弁を、参院選を控えた6月の会見では、消費税の再増税延期と共に、

アベノミクスのエンジンを最大限にふかし、デフレからの脱出速度を更に上げる。」

と力強い発言をされました。

しかし、その後の補正予算は真水(直接的な財政支出)不足。緊縮病を治癒できないまま年末を迎えています。

 

  • 7-9月期GDP

その結果、12月8日に公表された四半期GDP(2016年7-9月期)2次速報の四半期GDP成長率は

・実質GDP:0.3%

・名目GDP: 0.1%

国民経済計算(GDP統計) - 内閣府

に留まりました。実質値が名目値を上回っていることでわかりますが、GDPデフレーターは▲0.2。むしろ脱出速度が不足し、デフレが再度本格化しかねない状況です。

 

合わせて残念なのは、0.1%しかない名目GDP成長の中身です。寄与度が最も大きいのは純輸出の0.2ポイントなのですが、これも輸出産業の活躍によるものではありません。

統計表一覧(2016年7-9月期 2次速報値) - 内閣府

純輸出は「輸出額-輸入額」で計算されるのですが、過去5四半期の輸出入額をグラフ化すると下のようになります。

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世界経済全体の需要不足で輸出は減ったけれども、それ以上に輸入が減少することで純輸出が増えたのです。

 

輸入が減っていることでも分かるように、純輸出を除く内需(民間及び政府の消費や投資などの合計)の名目GDP成長に対する寄与度は▲0.1%。こちらは直近一年間で3四半期目のマイナスとなっており、内需の冷え込みは深刻です。直近ではトランプ景気で株価が上がっていますが、どこまで消費や投資といった実需につながるかはわかりません。

 

  • デフレの怖さ

我々は今、モノが溢れる日本に住んでいますので、経済成長に対する考え方も様々でしょう。しかし、まだ見ぬ我々の子孫のために、「デフレだけはヤバい」のです。

当ブログで何度も触れてきたことですが、

モノを買う立場では物価が安くなるのはありがたいことです。

しかし、我々は同時に仕事(生産)をしています。

生産者側にとって物価が安くなるということは、自分の仕事の価値、ひいては給与が下がることを意味します。そのような環境下では、多くの人は仕事にやり甲斐を見出しにくく、将来不安を抱えます。

 

ましてデフレは、政府が無策であれば、一過性のものですみません。給与が下がれば、節約し、万一の時のために少しでも貯金しておこうと思うのが人情です。

個人が倹約し、企業がコスト意識を高めるのは立派なことですが、その分だけ消費と投資が減りますので、国の経済はさらに冷え込みます。これが「合成の誤謬」といわれるもので、デフレスパイラルの誕生です。

わが国は1997年の橋本政権下における消費増税+緊縮財政以降、実に20年間この状態が続いています。

 

需要が減っている局面では、企業は整備投資・人的投資・技術投資を抑えます。売れないのですから仕方ありません。まして、短期利益の最大化を求める金融資本主義下にあれば尚更です。

しかし、それが長期にわたれば、本来持っていた筈の供給力まで失われて行きます。

使わない技術や能力を保有・伝承し続ける理由や方法がないからですが、失った技術を取り戻すのには途方もない時間がかかります。

伊勢神宮では20年毎に式年遷宮が行われていますが、これは、常に瑞々しい社殿にしておきたいという理由だけではないのです。

 

さらに悪いことに、デフレで将来不安や閉塞感が蓄積し、節約が日常化した結果、我々は政府にまで節約を求めるようになりました。

バブル期に、贅沢三昧をしている民間人を苦々しく見ていた官僚がいたそうですが、今では、公務員が特権階級のように見られています。そして、公共投資を増やすとなれば、「誰かが私腹を肥やしている」という勘ぐりが生まれ、「身を切る改革」が叫ばれます。

政治家や官僚、あるいは公共投資に関わる人達の中には、そういう人もいるでしょうし、不正は厳しく追及すべきですが、それと経済は別の問題です。

需要が少ない=儲けにくい中で、あえて国内に多額の投資と消費を行う主体は政府しかありません。政府がインフラや技術、教育などへの投資や消費の拡大、あるいは減税を行わない限り、デフレは底なしです。そしてマイナス金利の今は、投資によって、将来世代に最少の利払いで資産を残す絶好のチャンスです。

 

緊縮病とデフレからの脱却に向けて、リフレ派の中心人物である浜田宏一内閣官房参与日経新聞週刊エコノミストのインタビューで

「私がかつて『デフレは(通貨供給量の少なさに起因する)マネタリーな現象だ』と主張していたのは事実で、学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない」

 「(著名投資家の)ジョージ・ソロス氏の番頭格の人からクリストファー・シムズプリンストン大教授が8月のジャクソンホール会議で発表した論文を紹介され、目からウロコが落ちた。金利がゼロに近くては量的緩和は効かなくなるし、マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを損ねる。今後は減税も含めた財政の拡大が必要だ。もちろん、ただ歳出を増やすのではなく何に使うかは考えないといけない」

(経済観測)アベノミクス4年 減税含む財政拡大必要 内閣官房参与 浜田宏一氏 :日本経済新聞


「一番よいのは、金融緩和を続けながら政府が財政支出、あるいは減税をすること。そうすれば、需要が増えて金利が上がる。通常は、公共投資増による公債発行増大に伴う利子率上昇が民間投資を阻害する「クラウディング・アウト」効果が出てしまうが、同時に金融緩和も継続すれば、金利上昇を抑えられる。金融緩和で財政政策の効果を強化できる。」

浜田宏一氏インタビュー 「金融緩和を続けながら財政出動を」 - 世界と日本でいま起きている経済事象の核心をあますことなく伝えます

と語られているのは重要です。

 

政策に影響を与える人は「公人」です。自分の学説や名誉以上に、国民のことを考えて頂く必要があります。

多くの政治家・官僚・有識者の方が、自分の考えと矛盾する現実に直面したときに感じる不快感から、自分に都合のよい解釈をしたくなる「認知的不協和」を乗り越えて、現実に即した政策を選択して頂きたいと思います。

 

とはいえ、我々国民やマスメディアも「認知的不協和」を乗り越えなければなりません。


長きにわたり「国の借金1,000兆円。GDPの二倍」という刷り込みを受けており、それによって反射的に公共投資に反対する世論が形成されます。

 

第一に、国ではなく政府の借金であり、その90%以上は国民による貸し付けであること。

第二に、その政府の借金についても、今年9~10月の同時期に発行された上念司氏の『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α新書)や、髙橋洋一氏の『これが世界と日本経済の真実だ』(悟空出版)などで反証されています。


後者から参照・引用すれば、

『「借金1000兆円というが、政府内にある資産を考慮すれば500兆円」。つまり、国債発行額も多いですが、「日本政府のバランスシートの特徴は、先進国と比較して政府資産が巨額なことだ。政府資産額としては世界一を誇る。その政府資産の中身についても、比較的換金可能な金融資産の割合が極めて大きい」ため、差し引き500兆円程度になるということです。さらに日銀は政府の子会社ですから連結対象になるため、「直近の政府のバランスシートが不明なためおおまかにしか言えないが、日銀も含めた連結ベースのネット国債は150兆円程度だと見られる。」「実質的に借金が150~200兆円程度ということは、GDP比で30~40%程度だろう。諸外国の場合で中央銀行と連結したネット国債GDP比で見ると、アメリカで65~80%、イギリスは60~80%程度である」』

(出典:『これが世界と日本経済の真実だ』 髙橋洋一著 悟空出版 P108~112を参照、「 」部完全引用)

といった情報を知り、自分の頭で考えることが大切です。

 

健全な財政よりも、健全な経済に戻すことが先決であるばかりでなく、その財政は既に相当程度健全なのです。

 

  • 日本経済の今後

現在の日本の完全失業率は3.0~3.1%で先進国最低。地方でも2%台前半の県が多数あります。

統計局ホームページ/労働力調査(基本集計) 平成28年(2016年)11月分結果

図録▽失業率の推移(日本と主要国)

統計局ホームページ/<参考>労働力調査(基本集計)都道府県別結果


人口減少を上回る、生産年齢人口の減少という人口構造によるものですが、不景気なのに人手不足という珍しい環境に置かれています。

政府が正しい経済政策をとれば、前回ご紹介した構造失業率2.7%程度に到達して賃金が上がり、デフレ脱却のエンジンになる可能性も高いのです。

 

ブレグジットやトランプ現象で顕著なように、世界各国で過度のグローバル資本主義が行き詰まっている現在、デフレ脱却は勿論、今後の資本主義のあり方や哲学を見出す新年になればと心から願っています。そして、長期的視野・お客様や従業員重視という特徴を持つ日本的経営を生んだわが国は、その先鞭をつける可能性を持っていると思うのです。