社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.96 日本人とアイデンティティー2 ~日韓合意10億円拠出~

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8月末日、昨年末の日韓合意に基づき、韓国の「和解・癒やし財団」へ、日本から10億円が「ソウル・日本大使館前の“いわゆる慰安婦像”撤去前に」拠出されてしまいました。

安倍首相は朴大統領に日韓合意の「着実な実施」を要請したのだが… - 政治・社会 - ZAKZAK

 

一月の投稿で「日韓合意そのものに反対」という私の考えをお伝えした際、共同記者発表で

『岸田外務大臣が(中略)「軍の関与」という言葉を使ったのは、日本国民に対しては、「強制連行ではなく、慰安婦の衛生管理といった関与(殆どの国の軍がやっていました)」、韓国内では「強制連行を認めさせた」という両国政府の説明ないしは言い訳のためでしょう。事実に基づいた「おわびと反省」ならともかく、曖昧な言葉で誤魔化し、我々の先祖や子孫の誇りを傷つけないで頂きたいと思います。』

と書きました。前回のコラムでも紹介したように、言葉は大切です。レトリックで誤魔化したりせず、事実を発信し続けて欲しいと思います。

Vol.83 波乱の年明け - 社長の「雑観」コラム

 

“いわゆる従軍慰安婦問題”とは、慰安婦の有無ではなく、強制連行があったか否かが争点です。


もともとは、吉田清治なる人物が著書や新聞・講演で、戦時中に済州島(下線の意味は読んで頂ければわかります)などで慰安婦狩りをしたと語ったことが発端となり、朝日新聞などが広めたものですが、今日に至るまで証拠となる公文書が見つからず、遂には2014年朝日新聞も誤報と認め、謝罪をしています。

朝日新聞の慰安婦報道問題 - Wikipedia

検証記事や謝罪会見は行われたのですが、ここでもレトリックが使われることで、強制連行から広義の強制性、女性の人権へと問題のすり替えが行われているという側面もあります。

 

今回、丁度このタイミングで新潮45誌上に、ジャーナリスト:大高未貴氏による吉田氏の長男へのロングインタビューという衝撃的なリポートが掲載されました。

一部抜粋すると、

『父が犯した慰安婦強制連行の捏造について、吉田家の長男として、日本の皆様にたいへん申し訳なく思っております。できることなら、世界中の慰安婦像をクレーン車で撤去したい。父の過ちを糺したい、少しでも罪滅ぼしをしたい』

『父は済州島には行っていません。それは父から聞いています。それで父は、済州島の地図を見ながら、原稿用紙へ原稿を書いていました』

(共に出典:『新潮45』2016年9月号 新潮社)

参考:慰安婦“捏造”吉田氏の長男が真相激白「父は誤った歴史を作り出した」 (1/3ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK

 

しかし、捏造と誤報で一件落着とはいきません。同書にもあるように国際的には、
『「吉田証言」を根拠とする(国連人権委員会の決議に基づいて提出された日本への非難勧告書である)クマラスワミ報告は撤回されなかった』上に、『アメリカやオーストラリアで、在米・在豪韓国人、中国系活動家らによる反日ロビー活動に拍車がかかり、新しい慰安婦像設置の動きも加速している』(出典:同上( )部は同書を参考に並木加筆)のが実態です。

 

政府の行うべき事は、事実を国内外へ強力に発信することのはず。

前回の投稿で渡部昇一上智大学名誉教授の「最大の国難とは、日本人のアイデンティティーが失われてしまうことである。」という言葉を引用した上で、

アイデンティティーとは自己同一性などと訳されますが、その根幹にある、誇りや帰属意識・よりどころと考えてもいいでしょう。

自分は徐々に成長し、時に失敗し、また老けてきたけれども同じ人間であり、これからもあり続けていいんだという意識。そして、同じ日本人として誇りを持って今を生き、手を携え、未来につないでいくんだという気持ち」と書きましたが、この問題も、先の大戦を戦った先祖と今を生きる我々、そして未来の日本人の誇りの問題です。

 

  • 10億円の資金使途と日韓関係

それにも関わらず、

『10億円から元慰安婦への支援として生存者1人に1000万円程度、死亡者には200万円程度の支出が予定されている。』

韓国の元慰安婦支援財団に10億円拠出|日テレNEWS24

とのこと。


“癒やし金”などと呼んでいますが、個人賠償との違いがわかりません。それでは、先の日韓合意時の「軍の関与」発言と同様、日本政府が“いわゆる従軍慰安婦”を認めたことになってしまいます。

さらに言えば、1965年に結ばれた日韓請求権協定にも反しています。

※日韓請求権協定:当時の国家予算が3.5億ドルだった韓国に対し、有償無償を合わせると5億ドル+民間融資3億ドルの経済協力支援を行うと共に、第二条で『日韓両国間の請求権問題が「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」』としたもので、その後の韓国の経済成長「漢江の奇跡」を成し遂げる原資となりました。

財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定 - Wikipedia

 

今回の日韓合意には韓国内でも反対意見が強いようですが、場合によっては政権交代後、今回の件を「個人賠償だった」と言を翻す可能性もあります。

また、以下の評論家:三橋貴明氏の原稿に詳しく書かれていますが、明治産業革命遺産のユネスコ登録を急いだ外務省が、『韓国側がこだわった「against their will(本人の意思に反して)」「forced to work(働かされた)」』という変な表現を認めてしまったことによって(これまた言葉による誤魔化しです)、今度は「強制徴用労働者像」問題が浮上するかもしれません。

「朝鮮人労働者の強制徴用」というプロパガンダが始まった=三橋貴明 | マネーボイス

戦時下ですから「徴用」(国民の労働の提供)というのは納税と同じく国民(当時は韓国人も日本国民でした)の義務です。それを“強制”徴用というのは、いわゆる“従軍”慰安婦や“強制”連行と同じレトリックです。


今回の件で、朴槿恵大統領の「告げ口外交」と揶揄された反日政策を押し込めることに成功したと評価する人たちもいらっしゃるでしょうが、考えてみて下さい。

告げ口外交→北朝鮮の核開発が本格化したことに危機感を抱いたアメリカが介入→日韓合意→努力目標である“いわゆる慰安婦像”の撤去のないまま10億円の拠出

並行して、領土問題のある竹島に韓国議員団が上陸→日韓通貨スワップ協定再開に向けた韓国側からの提案

といった状況です。国益にかなった結果を得ているのは韓国ではないでしょうか?

 

とはいえ、皮肉なことに強制連行については韓国人のアイデンティティも傷つけています。

前出の大高未貴氏も出演している番組の中で、作家:百田尚樹氏が紹介した済州島の方の証言を引用しましょう。

『当時の済州島の男性が、そんなこと(強制連行)は一切なかった。聞いたこともない、見たこともない。仮にウチの島でそんなことがあったとしたら、我々は自分たちが死ぬか、日本の軍人が死ぬまで戦う。自分の娘、あるいは妻が強制的に慰安婦にされていく、その状況を自分たちが黙ってみているわけがない』

9/6(火)〜百田尚樹・大高未貴・居島一平〜【真相深入り!虎ノ門ニュース】【Toranomon NEWS】 - YouTube

(上記発言は1時間36分頃)

同旨のことは参議院議員青山繁晴氏もおっしゃっています。

国が頼りにならなくても、愛する者を自分たちの手で護ろうとするのが自然な感情であり、誇りの持てる生き方です。

 

 

20世紀初頭のイギリスの保守思想家チェスタトンは「死者の民主主義」を語りました。

『伝統とは、あらゆる階級のうち最も陽の目を見ぬ階級に、つまり我らが祖先に、投票権を与えることを意味する。死者の民主主義なのだ。単にたまたま今生きて動いてるというだけで、今の人間が投票権を独占するなどというのは、生者の傲慢な寡頭政治以外の何ものでもない』

という趣旨で、『「死者」という究極的な「沈黙の民」に光りを当てる事で、様々な種類の「沈黙」に光りを当てる重要性を訴えかけている』のです。

(『 』部は共に以下:藤井聡京都大学教授の論文からの引用

http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2013/09/democ.pdf

もう亡くなった人たちだから責任を被って貰おうなどというのは、傲慢そのものであり、同時に事実を歪めたり、祖先や伝統を毀損することで、今を生きるサイレントマジョリティーやまだ見ぬ子供達にも悪影響が及びます。

 

我々もそうであるように、目先の利益や(政治的)都合が大事に思えるときもあるでしょう。特に現政権は中国の軍事的膨張、北朝鮮の核およびミサイル開発の加速という危機に晒されているので尚更です。

しかし誇りを傷つけ続ければ、国民の統合がほどけ、政治への信頼も失います。

大切なものを間違えないことがリーダーの責任ではないでしょうか。