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社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.94 主義主張を超えて ~経済対策と日本の安全保障~

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  • 一水四見(いっすいしけん)

先日届いた手紙に「一水四見」という言葉が書かれていたので、どういう意味か調べてみると、「人間にとって飲み水にもなる川は、魚にとっては住処、天人には歩くことができる水晶の床、餓鬼にとっては飲もうとすると炎に変わる苦しみの流れとなるように、同じ物でも見る側の世界観・価値感によって異なって見える」とのこと。

前回、参議院議員に当選された青山繁晴氏の言葉を引用し、「立場の違いを乗り越えて一致できるところを探す」ことが大切だと書きましたが、お互いに一水四見だとわかり合った上で、それでもより良い国にしていくために、主義主張を超えて一致できる点を探す姿勢が、これまでよりも必要な時代を迎えています。

 

  • 活道理、死道理

今回取り上げる経済対策でも安全保障面でも、経済学や主義主張という「しがらみ」が必要以上に我々を縛っているように思います。

以前にもご紹介しましたが、『日本思想史新論』(中野剛志著 ちくま新書)の中に、古学の開祖と目される江戸時代の儒学者伊藤仁斎の語った「活道理」について説明している部分があります。

『道理があるかないかは、あらかじめ抽象的な原理原則として示されているのではなく、実際の生活の中での試行錯誤の結果として決まるのであり、したがって具体的な道理の内容は、場面や状況によって異なる。状況に依存して変化するような柔軟な合理性が「活道理」である』。

逆に、理論的に正しいかどうかはともかく、現実に適していない原則に従うのは道理が死んでいるのですね。

 

さて、今回閣議決定された経済対策について考えてみましょう。

「28兆円の事業規模」という言葉がメディアを賑わし、一方で「真水が足りない」とも語られています。今回ほど「事業規模」が喧伝されたことがあったでしょうか。

 

閣議決定された経済対策の内容は、こちらで確認できます。

http://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/20160802_taisaku.pdf

 

最後から2ページ目に、事業規模28.1兆円、財政措置13.5兆円とありますが、事業規模は、今回の経済対策に盛り込んだことを全部足せば、民間も含めてこれだけ使うだろうということで、それほど意味はありません。

最終ページには財政措置13.5兆円の内訳が、国・地方の歳出(いわゆる真水です)7.5兆円、財政投融資6.0兆円に分解され、注意書きを読んでみると、真水の7.5兆円のうち、国費が6.2兆円。その中で今年度使う分は4.6兆円(一般会計4.1兆円+特別会計0.5兆円)、残りは来年度以降となっており、地方の歳出に関する記載はありません。

額が小さく算出されてしまう内閣府の試算でも現在の需給ギャップは▲6兆円ですから、投資が約束されている4.6兆円だけではデフレ脱却には不十分です。

 

参院選の選挙公約に「赤字国債に頼らない」としたことのツケが回ったのでしょうが、国債には赤字国債以外に、インフラに投資する建設国債があります。今回の経済対策は「未来への投資を実現する経済対策」と銘打っているのですから、未来のために建設国債を発行し、経済成長によって社会保障の財源を確保すると言えないものでしょうか。

ことさら事業規模の大きさを強調するところからも、政治家や官僚に財政均衡主義が蔓延していることがわかります。

 

恐らく、そこで登場したのが多額の財政投融資。政府・公的団体から民間企業へ低利で貸し付けを行うという仕組みです。

今は国債をマイナス金利で発行できるという異常な状況ですから、選挙公約やプライマリーバランス重視など、これまでの内閣の姿勢と整合をとるには妙案です。これによって投資が進み、活況になればよいのですが、公的団体が直接投資をしない限り、いつ使うか(=どの時点のGDPがプラスになるか)は借り手である民間企業に委ねられるという弱点があります。

 

先ほど「政官に財政均衡主義が蔓延」と書きましたが、財界も変わりません。著名な経営者が何人か、財政健全化への懸念を表明されていました。

経営者ですから連結決算はお手のものです。政府の借金は1,000兆円を超えますが、日銀の金融緩和によって、両者の連結で考えると今年の3月末時点で約700兆円に“健全化”されていることも、投資の重要性もご存知でしょう。

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/breakdown.pdf

ここでも財政均衡主義が浸透、固定化している様子がうかがえます。

 

以前、国家と企業の違いとして「通貨発行権」を挙げたことがありますが、それ以外に、

・企業の社員は生産者であって、顧客になるケースは少ない

・国民は生産者であって、消費者である

ことも決定的な違いです。国内での循環が経済の大部分を占めています。

国民の所得を下げて、利益を上げるという選択肢は、本来、民主主義国家にはありません。できるのは「所得が下がるのは仕方がないんだ」と思わせることだけです。

また、企業は社員を解雇することがありますが、国はできません。高齢化が進む中では、経済成長を続け、社会保障の財源を確保する必要があります。となれば、財政健全化よりも、経済の健全化=デフレ脱却を優先するのが自然ではないでしょうか。

 

しかし現実は、「デフレは貨幣現象である」とするリフレ派の方々を中心に、大胆な金融緩和が行われて3年経ったものの、消費者物価指数のコアCPI(生鮮食品を除く総合)は前年同月比▲0.5%と、目指す2%から大きく乖離。

統計局ホームページ/消費者物価指数(CPI) 全国(最新の月次結果の概要)

国債の「不足」により、金融緩和の持続性を心配される始末です。

ゴールドマンもPIMCOなどに同調-日銀緩和は限界に近づいている - Bloomberg

 

とはいえ、希望がないわけではありません。

財政支出に積極的だと言われる二階氏の幹事長就任により、

「財政政策が一段と積極化する可能性が高まったとの声が市場関係者だけでなく、政府・与党からも出ている」そうですし、

アングル:二階幹事長で高まる積極財政への期待、ヘリマネの思惑再燃も

デフレ脱却に向けて政府・日銀が連携を強化、さらに黒田総裁が、

「(日銀が)緩和的な金融環境を整えていくことは、政府の財政政策などの取り組みと相乗的な効果を発揮する」と発言されたように、

デフレ脱却へ政府・日銀で連携…経財諮問会議 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

少しずつ、変化が起きています。

 

金融緩和と財政出動の同時進行が効果を生むという2013年のアベノミクス成功の経験、不況期に緊縮財政をするとデフレが継続し、結果、財政均衡も実現しないという「失われた20年」の経験を踏まえて、効果的な対策が実施されるよう、主権者たる国民も活道理をもって考える必要があります。

 

  • 日本の安全保障

安全保障も同様です。

 

憲法9条というと、護憲派改憲派が国論を二分する様相で、議論するのがはばかられる雰囲気すらありますが、そうも言っていられない状況になりつつあります。

 

中国の軍艦や海警局の船が、連日、尖閣周辺の接続水域に入るようになってきました。7、8日には13~15隻の中国公船が200~300隻の中国漁船と共に、尖閣諸島の接続水域を航行、断続的に領海に侵入するなど、挑発を激化させています。

中国公船、尖閣接続水域・領海に最多の15隻 :日本経済新聞

中国の、少しずつ相手を慣れさせて常態化・既成事実化を進める方法を「サラミスライス戦術」を呼ぶそうですが、評論家:潮匡人氏は「もはや厚切りハムになってきた」と懸念していらっしゃいます。

 

さらに3日、北朝鮮がノドンと見られるミサイルを発射。秋田県沖の日本の排他的経済水域に落下しました。落下地点を延長すれば三沢基地があることから、命中精度も上がっているものと思われます。日本のほぼ全域が射程に入るノドンを、北朝鮮は200発も保有しています。

北朝鮮の弾道ミサイル、日本のEEZ内に初めて弾頭部分が落下 | ロイター

 

政府は、北朝鮮のミサイルに備えた破壊措置命令を常時発令とし、加えて、尖閣周辺の領海侵犯の状況を外務省と海上保安庁のホームページで公表しました。

中国船領海侵入の実態を公表…政府、異例の対応 : 政治 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/1608-senkaku.pdf

 

今後も様々な対策がとられると思いますが、例えば、数年前のように衝突事故が起こったらどうするのか、あるいは中国の漁民(ないし漁民を装った軍人)が尖閣に上陸したらどうするのか、憲法(特に9条)をどうすれば国家・国民の安寧につながるのか、、、

敗戦後、対外的な安全保障をアメリカに依存したこと、ないしは依存できたことで、我々は「平和ぼけ」と言われるように、特段考えなくても、(拉致被害者とそのご家族を除けばということを絶対に忘れてはいけませんが)普通に暮らしてこられました。しかし、これらの問題に国民一人一人がリアリティーをもって考えるべき時期が到来しています。