社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.79 アベノミクス第二ステージ!?

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9月24日、自民党総裁に再選された安倍総理は記者会見にて、『次の3年間、私は、未来を見据えた、新たな国づくりを力強く進めていきたい。本日、この日から、アベノミクスは、「第二ステージ」へと移ります』と語り、「一億総活躍」社会を目指し、新しい三本の矢として、

第一の矢、『希望を生み出す強い経済』。

第二の矢、『夢をつむぐ子育て支援』。

第三の矢、『安心につながる社会保障』。

を掲げ、それぞれGDP600兆円、出生率を現在の1.4から1.8へ回復、介護離職ゼロという目標を宣言されました。

安倍晋三総裁記者会見(両院議員総会後) | 総裁記者会見 | 記者会見 | ニュース | 自由民主党

 

最初に考えたいのは第一ステージの成果をどのように評価するかです。

私は当初のアベノミクスについて、小渕政権以降久々に本気になってデフレ脱却を目指した政策として評価していますが、昨年度の消費増税という大失策、今年度の(補正予算が組まれなければ)1978年度以来の低水準にある公共事業費という二年連続の緊縮財政によって、4-6月期は実質GDPが前期比▲1.2%(年率換算)、政府が発表した10月の月例経済報告における、景気の「総括判断」ですら一年ぶりの下方修正を余儀なくされる状況に至っています。

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出典:https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2015/seifuan27/05-13.pdf 8ページ

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/gaiyou/pdf/main_1.pdf

10月の月例報告、景気の総括判断を下方修正 :日本経済新聞

 

安倍総理が同会見で『もはや「デフレではない」という状態まで来ました。デフレ脱却は、もう目の前です』とおっしゃったこととは裏腹な状況です。

消費増税民主党政権下で決まったことですが、政権交代後にストップしなかったことは痛恨の失策で、それまでのアベノミクスの貯金をはき出す結果となってしまいました。当時「影響は軽微」などと増税に賛成した方々のことを、政権も国民もよく覚えておかなくてはなりません。

『Vol.76 上海ショックと日本経済』でもご紹介した以下のグラフが示すとおり、消費増税の影響は反動減だけでなく、長期にわたるのです。

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出典:『維新・改革の正体』藤井聡著 産経新聞出版 63ページ

 

第一ステージを成否とその原因をどうとらえていらっしゃるのか?

今回の内閣改造に関連して行われた自民党の税調会長交代人事などに光明も見出せますが、会見の内容からは、残念ながら「消費増税」や「緊縮財政」の失敗という認識は感じられません。

 

  • 新三本の矢

次に新三本の矢ですが、これについては経済学者の青木泰樹氏が『三橋貴明の「新」日本経済新聞』というメルマガに寄稿した『アベノミクスは第二ステージ「3つの的(まと)」』という記事が、まさに的を射ています。

上記のアベノミクス第二ステージの新三本の矢について、

安倍総理はこれらを矢と称していますが、誰が見ても、三つとも的(目標)ですね。
名目GDP600兆円、出生率1.8、介護離職ゼロといった具体的数値目標です。
そうした目標をどうやって達成するのかという具体的政策手段、それが本来の意味での「矢」です。

それが明示されていない、もしくは隠されているのは問題です。』

【青木泰樹】アベノミクスは第二ステージ「3つの的(まと)」 | 三橋貴明の「新」日本経済新聞

 

単なる言葉の問題と思われるかもしれませんが、言葉には現実をどう認識しているかが表れます。そして、問題を生み出した原因・課題は何か、それを的確に捉えなければ、正しい解決策が生まれません。

そう考えると、具体性がかけていること、加えて補正予算が下手をすれば年を越してしまいそうな現実に危惧を抱いてしまいます。

2014年度の名目GDPは、およそ490兆円。任期中の2018年度までにGDP600兆を実現しようと思えば、490兆円×105%の4乗=596兆円。会見では『いわば『ニッポン「一億総活躍」プラン』を作り、2020年に向けて、その実現に全力を尽くす決意です』とありますので、2020年度と考えても490兆円×103.5%の6乗=602兆円ですから、今年度から年率3.5~5%平均の成長を目指す必要があり、悠長に構えている場合ではありません。

 

第二の矢の子育て支援出生率の向上については、幾つかの方策が挙がってはいますが、まずGDP600兆円の実現との因果関係をはっきり示すべきでしょう。

 

上記メルマガの発行人でもある経済評論家:三橋貴明氏のブログに、とても重要なグラフが掲載されていましたのでそちらもご紹介します。

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出典:続 三つの的(まと)|三橋貴明オフィシャルブログ「新世紀のビッグブラザーへ blog」Powered by Ameba

 

記事も一部引用させて頂きます。

『元々、この情報をくれたのはチャンネル桜でお馴染みの村田春樹氏ですが、氏に指摘されてわたくしも調べてみて吃驚してしまいました。

ポイントは、有配偶女性1000人当たりの出生数、つまりは「有配偶出生率」です。実は、日本の有配偶出生率は、バブル絶頂期を「底」に回復傾向にあります。

直近のデータを見ると、すでに1980年を上回る水準にまで回復してきているのです。つまり、結婚した夫婦が産む子供の数は増えてきているのでございます。

<中略>

日本の少子化を引き起こしている「主因」は、「結婚した夫婦が産む子供の数が増えない」ではなく、有配偶率、つまりは婚姻率の低下なのです。』

『結婚する意思がある回答者に、
「結婚を決心する状況」
を聞いたところ、
「経済的に余裕ができること」
が46.33%で最多になりました。』(共に出典:同上)

とのこと。デフレで給与(額面は勿論、実質賃金でも同様です)が下がり、雇用も不安定化する中での結婚・出産はなかなか難しいということです。安倍総理も会見で『雇用を更に増やし、給料を更に上げて、消費を拡大してまいります』とおっしゃっていますが、そこの具体策は語られていません。『大きな経済圏を世界に広げながら、投資や人材を日本へと呼び込む政策を、果断に進めてまいります』とありますが、世界的な需要不足、中国バブル崩壊の中での輸出増は難しいでしょうし、外国人労働者の増加はむしろ賃金抑制要因となってしまいます。

 

当社にも育児をしている社員が多数いますので、待機児童や小一の壁、仕事と家事・育児の両立などは切実な問題です。子育て支援は勿論大切ですが、その前に雇用の安定と、将来にわたる所得向上への期待を高めることが、出生率向上のために第一に解決すべき課題だということです。

 

子育て支援や介護離職問題の根っこにある第二の問題は、保育士や介護職員の人手不足です。これについては上記メルマガで青木泰樹氏が語っているように、

『周知のように、現在の保育士不足、介護職員不足の原因はただ一つ、低賃金です。
厚労省の賃金構造基本統計調査によれば、保育士の平均月給は約21万円、介護職員のそれもほぼ同水準で、いずれも全産業平均を10万円余り下回っております。
これでは、人が集まりません。』(出典:同上)

これが解決すべき第二の課題です。幸い保育士や介護職員の賃金上昇は市場に任せなくても、政府の決断でできることです。

 

  • 新三本の矢と逆行する政策

翻って、安倍政権下で介護報酬の引き下げが行われました。同時に、月収1万2000円程度を目処に介護職員の処遇の改善に取り組んだ事業者には報酬が加算される制度ではあるのですが、介護職員不足の解消のためには額が少なすぎる上に、介護報酬の引き下げは当然事業者の利益を圧迫しますから、長期的な賃金上昇につながるのか、むしろ過重労働などの温床になってしまうのではないかが心配です。

加えて、派遣法改正も行われました。派遣社員を受け入れる企業が、これまでは原則最長3年だった受け入れ期間を延長できる。すなわち正社員化しなくても、人さえ代えれば同じ仕事をずっと派遣社員に任せられるというものですので、非正規雇用の増加という方向に進むのではないでしょうか。

因みに厚生労働白書の「結婚に関する意識」の中に、このようなデータが掲載されています。

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出典:http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13/dl/1-02-2.pdf 82ページ

 婚姻率の上昇が出生率の向上に必要だとすれば、矛盾した政策だと言わざるを得ません。今は人手不足で企業が正社員化を進めたい時期なのが救いといったところです。

 

  • 緊縮病からの脱却

なにしろ消費増税の影響が大きく、足下の消費は冷え込んだままです。消費が増えなければ企業は投資できません。先に書いたように輸出を大幅に伸ばすことも困難でしょう。こういう時に景気回復の担い手になれるのは政府しかありません。

介護職員や保育士の賃金アップは政府最終消費支出の増加を通じてGDPを増やします。賃金が上がった人達は(貯金もするでしょうが)消費を増やし、さらにGDPを上昇させます。防災対策や(安倍総理が会見で触れた高速鉄道網のような)インフラ整備・技術開発投資などの公共事業は公的固定資本形成としてGDPを上げ、受託した企業の人件費や資材購入・投資などに結びついて、その地域を活性化させます。


必要以上に財政赤字を心配する人が増えていますが、常々書いているように、日本は経常収支黒字国であり、国債は自国通貨建てですので、デフォルトの心配は杞憂であることに加え、年率3.5~5%の成長が続けば、それによる税収増で、緊縮財政派が熱望する財政均衡さえ期待できます。いい加減「緊縮病」から抜け出すときです。

 

安倍総理の言動を拝見していると、構造改革・緊縮財政・外資流入・自由貿易と人件費抑制による輸出競争力の強化を好むグローバリストとしての側面と、外交・安全保障や『瑞穂の国の資本主義』を語るなど国益や国柄を大切にする側面が共存しているように思えます。

思想・信条は人それぞれですが、エンジンとブレーキを同時に踏むような政策を打つのではなく、デフレ脱却を実現して、好況が日本全国に行き渡るまでは財政出動と金融緩和を重視し、インフレ抑制が必要な時期になってから緊縮財政と「適度な」構造改革に取り組むというメリハリ、政策の一貫性を保って頂きたいと思います。