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社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.65 自称イスラム国による人質テロ事件と脱ダッカ事件

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 今回はISIL(自称イスラム国)のテロ事件およびそれに関わる報道のあり方について考えてみたいと思います。

 今回、犠牲になられた方々およびご家族の皆様に、心から哀悼の意を表します。

  • 呼称について

 私はこれまでISISと書いてきましたが、政府・与党の決めた「ISIL」と、今回多数引用させて頂く独立総合研究所社長の青山繁晴氏が、最近使っている「自称イスラム国」という呼称を使用させて頂きます。以前より、“イスラム国”という呼び方は、国であるかのような誤解を与えるため、控えた方がいいと思っています。

  • 国論の分裂?

 この件に関して、私が特別な情報や見解を持っている訳ではないのですが、今回あえて取り上げたのは、関西ローカルのテレビ番組「スーパーニュース アンカー」(関西テレビ:2月4日放送分)で、青山氏が話された「メディアに出演する有識者の発言が、ご本人にそういう意図はないにせよ、国論が分裂しているかのような印象につながっているのは問題だ」(発言内容は正確ではありません。要旨だと思ってお読み下さい。以下同じ)という趣旨の発言に共感したからです。溢れんばかりの報道の中の幾つかに、違和感を持たれた方も多いのではないでしょうか。

 1月に起こったフランス紙(シャルリー・エブド)襲撃事件の後、テロに反対する大行進がおよそ370万人・40カ国の首脳の参加によって行われました。その中にはイスラム圏の首脳もいます。シャルリー・エブド紙は、多くの日本人が眉をひそめるであろう過激な風刺画を掲載しており、その中で預言者ムハンマドを題材にしました。イスラム教偶像崇拝を否定していますので、絵にすること自体が問題です。また同紙は、これまで発禁処分や訴訟を抱えてきた経緯から、イスラム教徒の方々は勿論、公共の場で宗教的なシンボルを禁止する法律を持つ、「世俗主義」が徹底されたフランス国内でも、(表現の自由は尊重するものの)特別に支持が強かったというわけではないようです。しかし、この大行進は「テロという手段は許さない」という結束を現しました。ISILがイラク戦争アラブの春以降の内乱に乗じて勢力を拡大したように、テロリストにとって内輪もめをしている相手こそ与し易いのです。

 勿論、現政権の取り組みを批判する「言論の自由」は大切だという意見もわかります。私自身、消費税増税アベノミクス成長戦略財政均衡主義的な側面を批判してきたように、多様な意見はあって然るべきです。しかし国の安全保障という根幹の問題に関して、有識者やジャーナリストがマスメディアで語る以上、十分な取材や分析を行った上で、また他者の分析にも耳も傾け、テロリストよりも政権批判に重きが置かれているような印象を与えないよう、注意して頂きたいと思います。

 今回、日本で起こったように見える世論の分裂。主なものをまとめると、

  1. ISILの目的は金ではない(金であれば2億ドルという法外な要求はしない)。故に、安倍首相の中東訪問および発言は利用されたのではなく、むしろISILを刺激して、今回のテロを引き起こす原因となった
  2.  少なくとも、このタイミングで中東訪問をするべきではなかった
  3.  安倍首相の支援表明演説の内容が悪かった。人道支援ということをもっとアピールすべきだった。
  4. (時期や額の問題はあるにせよ)身代金を払ってでも救出すべきだった
  5.  湯川さんも後藤さんも覚悟の上で行ったので、自己責任だ

といったところだと思います。それぞれについて青山繁晴氏の意見を軸に、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)の著者である池内恵(さとし)氏のブログなども引用させて頂きながら、みていきたいと思います。皆さんの考えを整理する参考になれば幸いです。

  • ISILの目的

 青山氏はアンカーやニッポン放送のラジオ番組「ザ・ボイス そこまで言うか!」で、現地からも情報収集をしていると断った上で、テロの目的は「原油価格の暴落や、空爆による油田の破壊によって、資金的に打撃を受けたことによる金目的。2億ドルは日本の世論を揺るがすために人道支援の金額と揃えた(ふっかけた)もので、そこから交渉が始まる。それに対して日本政府が『テロに屈しない』という立場から、『永遠に1ドル1円も払わない』と伝えたため、目的を『国として認めさせる』ことに切り替えた」。国として認めさせるというのは、「人質と囚人の交換を、ジュネーブ条約で定められた対等な戦時捕虜の交換に置き換えれば、国として認められたという主張ができる。テロリスト集団ではなく国ということになれば、国連決議なしには空爆ができなくなる」という訳です。

 もともと金目的だった根拠として、自身で得られた情報「仲介者を介して、向こうの側から幾らだったら即金で払えるのかという打診があった」こと。「金目的でなければ、あのタイミングで湯川さんが殺害される理由がない」ことなどを上げています。

 また、「空爆によって難民が増え、アメリカや国連が何もしないため悲惨な状況に陥っている」以上、人道支援は誰かがやらなければいけません。

  •  中東訪問の時期

 これについて青山氏は「中東歴訪の準備が始まったのは昨年5月以前。外交日程である以上、公知の事実となった。一方で、湯川さんは8月、後藤さんは10月に拘束され、自前の対外情報機関を持たない日本は、情報を得るために他国に頼らざるを得ない。そのため、日本人人質の存在も知れ渡っていた」という趣旨の説明をされます。その上で延期をしたらどうなるか、これに対してはアンカーの岡安キャスターが「テロリストの顔色を伺いながら外交をやるということですよね」と答えています。

 そもそも、ISILが日本の2億ドルの支援は、非軍事的(人道)支援だと知っていたということを明示されたのは池内氏です。池内氏はご自身のブログで、1月20日の第1回の脅迫ビデオの導入部にある「ISIL自身が付けた英訳」の中に、「Abe Pledges Support for the War against Islamic State with Non-Military Aid」とあり、「Non-Military Aid」すなわち、非軍事的支援と明記されているという証拠を示していらっしゃいます。

「イスラーム国」は日本の支援が「非軍事的」であることを明確に認識している - 中東・イスラーム学の風姿花伝

  •  身代金の支払い

 お金よりも人命優先という議論はあり得るでしょう。しかし、青山氏が「より根本的な日本外交の転換」として挙げられた「脱ダッカ事件」について考える必要があります。

 ダッカ日航機ハイジャック事件というのは1977年9月28日に日本赤軍が起こした事件で、犯人グループは人質の身代金としてアメリカドルで600万ドル(当時の為替レートで約16億円)と、日本で服役および勾留中の9名の釈放および日本赤軍への参加を要求。これに対し、当時の福田赳夫総理は「一人の生命は地球より重い」と述べて身代金を支払い、(9名中数名は本人の意思で拒否したものの)超法規的措置として獄中メンバーの引き渡しを行います。

ダッカ日航機ハイジャック事件 - Wikipedia

 「一人の生命は地球より重い」。耳障りは良いですが、どこまでリアリティーがあるでしょうか。この対応の結果、「日本はテロに屈する」という印象が拡がり、日本では北朝鮮による拉致事件が激化(一例を挙げれば、横田めぐみさんの拉致は同年11月15日です)。世界的にもテロ増加の誘因となってしまいました。今回、同じ過ちを繰り返さないという判断があったものと思います。

 甘い対応が穏やかな将来を約束するものではありません。更にテロを助長し、日本人が狙われることにも繋がりかねないのです。

  • 自己責任論

 後藤さんに対して渡航をやめるよう3回伝達したという報道がありました。またシリア入りの前に撮影されたビデオで、後藤さんご自身が「自分の責任で・・・」とおっしゃっていたことを鑑みても、相当の覚悟を持った上での行動だと思います。とはいえ、渡航中止要請の件と合わせて世耕官房副長官が語ったように「我々は自己責任論には立たない。国民の命を守るのは政府の責任であり、その最高責任者は安倍総理」というのが国としての正論でしょう。

 国内で誘拐事件が起きたら警察に頼るように、国の内外を問わず、テロから国民を守るための交渉や対応は最終的には国家にしかできないからです。加えて、(今回の事件後、旅券法によって渡航制限を受けた人がいるにせよ)日本国憲法が渡航の自由を保障している以上、一人一人が責任を持った行動をすることは絶対に必要ですが、いざトラブルが起こった場合は国が責任を持たねばなりません。

 となると、後顧の憂いを減らすためには、そこまでの覚悟を持って渡航した動機の究明も必要だと思います。

  • 進むべき道

 さて、暗い話ばかりではありません。国会では(同じような質疑が繰り返されていたものの)、全会一致で「中東・アフリカ諸国に対する人道支援を拡充し、テロの脅威に直面する国際社会との連携を強め、これに対する取り組みを一層強化するよう政府に要請する」というテロ非難決議を採択しました。また、直近の実効性はともかく、自前の対外情報収集力の強化や自衛隊による救出に関する議論も始まっています。

 ただ、脱ダッカ事件という外交上・危機管理上の転機だとすれば、これも青山氏の主張に共感するところなのですが、「拉致問題と包括」した議論に進展させていくべきだと思います。自己責任に絡めて言えば、拉致被害者は文字通り自分の意思に反して囚われてから、既に30年以上が経過しています。その間、国会等で今回ほど集中して審議されたことはありません。

 政治リーダーは、必ず国民の意見や性質の影響を受けます。大きな悲劇を目の当たりにしたあと、日本がどのような道を歩むべきか、お一人お一人考えてみて頂きたいと思います。

 

※「スーパーニュースアンカー」は映像公開を許可していらっしゃらないようですので、ご興味を持たれた方は、青山氏が同旨の発言をされている「ザ・ボイス そこまで言うか!」の音声をお聞き下さい。

2015/01/29 ザ・ボイス 青山繁晴 - YouTube 13分25秒~24分20秒頃

2015/02/05 ザ・ボイス 青山繁晴 - YouTube 5分10秒~24分20秒頃