読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.60 解散総選挙を考える

f:id:msandc:20141127174524j:plain

 18日に安倍首相が記者会見を行い、21日の解散、12月の総選挙が決定しました。10日からの一週間余りで一気に解散に傾いた感があります。最終的なトリガーとなった7-9月期のGDP一次速報は、消費税増税の反動減を受けた4-6月期よりも悪い結果となり、衝撃が走りました。。

国民経済計算(GDP統計) - 内閣府

 科目別のデータを見ると、民間最終消費支出はプラスに転じましたが、在庫調整額がそれを上回り、輸出も増えたものの輸入がそれを上回り、悪化が続いているのが民間住宅という構図です。日本経済が真っ逆さまに転げ落ちているわけではなく、前回の消費増税賛成派の多くが言っていたV字回復が起こらずに低迷が続いているという状況です。

 

  • “大義なき解散”の誤謬

 こうした結果を受けて、安倍首相が18日の記者会見で、

「デフレから脱却し、経済を成長させる、アベノミクスの成功を確かなものとするため、本日、私は、消費税10%への引き上げを法定どおり来年10月には行わず、18カ月延期すべきであるとの結論に至りました。」

「本年4月の消費税率3%引き上げに続き、来年10月から2%引き上げることは、個人消費を再び押し下げ、デフレ脱却も危うくなると判断いたしました。」

「このように、国民生活にとって、そして、国民経済にとって重い重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきである。そう決心いたしました。今週21日に衆議院を解散いたします。」

平成26年11月18日 安倍内閣総理大臣記者会見 | 平成26年 | 総理の演説・記者会見など | 記者会見 | 首相官邸ホームページ

と発言されたのですが、この解散について「大義なき解散」だという批判が展開されています。しかし、

1, 4月の消費税増税アベノミクスによる景気浮揚を吹き飛ばし、病弱な状況に戻った日本経済にとって再増税は死活問題であること。

2, 確かに現在はほとんどの政党・政治家が増税延期容認の立場を取っていますが、三党合意時の政権与党であった民主党増税延期容認を決めたのは解散が確定的となった後の14日。解散の話が出るまでは自民党内にも多くの再増税賛成派がいて、どうなるか余談を許さない状況にあったこと。(実際、有識者による点検会合でも7割超の方が増税を容認していました。)

消費税「予定通り増税を」7割超 政府の点検会合終了 :日本経済新聞

を考えると、解散の大義は消費税増税延期にあったとみるのが妥当です。そのあとで、増税を掲げて選挙は戦えないという理由“も”あって、延期容認一色になり、争点が見えにくくなったことと混同しては公平さを欠きます。

 点検会合で増税に賛成されたある有識者の方が、理由の一つに「変更するための時間と政治エネルギーのコストの方が大」ということを挙げていらっしゃいました。それが政治家の仕事では?と疑問に思っていたのですが、結論は真逆ながら、ある意味では的を射ていたようで、景気条項が入っていると言っても、一度決めた増税を延期するためには選挙という時間とエネルギーが必要なのかもしれません

  • 安倍首相の矛盾

 一方、安倍首相は同じ会見で、

「来年10月の引き上げを18カ月延期し、そして18カ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。3年間、3本の矢をさらに前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる。私はそう決意しています。」

と発言、更に21日に行われた記者会見でも、

「消費税の引上げ延期は野党がみんな同意している。だから、選挙の争点ではないといった声があります。しかし、それは違います。野党の人たちは、ではいつから10%へ引き上げるのでしょうか。その時期を明確にしているという話を、私は聞いたことがありません。そこは極めて大切な点であります。」
と強調しています。

平成26年11月21日 安倍内閣総理大臣記者会見 | 平成26年 | 総理の演説・記者会見など | 記者会見 | 首相官邸ホームページ

 普通にとれば、2017年4月には景気の如何に関わらず消費税を上げるということで、これは問題です。ご自身がおっしゃっているように「経済は生き物」であり、総理の決意や自信がどれだけ大きくても、安定的に好況が続くという状況にならない限り、増税をすれば国民生活と日本経済に大きな打撃を与えてしまうのです。前々回の投稿でご紹介したノーベル経済学者ポール・クルーグマン氏の現代ビジネスのインタビューの中に、

「実は日本の経済政策の歴史を振り返ると、経済が少しうまくいきだすと、すぐに逆戻りするような愚策に転向する傾向が見受けられます。」

本誌独占インタビュー ノーベル賞経済学者クルーグマン 「日本経済は消費税10%で完全に終わります」 | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]

という部分がありますが、その繰り返しになりかねません。あらゆる政策には適したタイミングというものがありますので、この発言は自縄自縛に陥りかねません。

 ただ、複数の論者がおっしゃっていることですが、政治的エネルギーという面からみるとあり得る話のようです。消費増税を推進する財務省の力が、門外漢の我々にはわからないほど強いという説です。確かに、

1, 結果論になりますが、当時も根強い反対論があったにも関わらず、今年4月の増税を法律通りに実施し、アベノミクスの成果を台無しにしてしまった。

2, 今回の増税延期には解散総選挙が必要だった。

3, 選挙にも、今後の政治運営にも足かせになるように思えますが、二度の記者会見で次回の増税を強調している。

こと。さらに、今は丁度予算編成のタイミングです。何しろ膨大な国家予算の編成ですから、優秀な官僚組織に働いて貰わなければ組めないでしょう。その目線で考えると安倍首相が18日の会見で解散のタイミングについて「国民の皆様の判断を仰いだ上で、来年度予算に遅滞をもたらさないぎりぎりのタイミングであると考えたからであります。」と発言されたことも何らかの含みがあるのかもしれません。

 選挙結果次第ですが、安倍政権が続くと仮定して次回の増税期日が明記された場合、その時までに総理のおっしゃる「企業の収益が増え、雇用が拡大し、賃金が上昇し、そして消費が拡大していく、そして景気が回復していくという経済の好循環」が定着していればよいですが、その途上であったり、一部の人の利益にとどまっていた場合はどうすればいいでしょうか。

 国民主権の民主主義国家である以上、状況をみて我々国民が声を上げることが最も確実です。政治家任せ・官僚任せでは法律通りに進むだけです。幸い、2016年には参議院選挙がありますので、時の政権に再び延期を訴える機会があるわけです。

 

  • 争点

 増税延期容認一色になったことで争点の見えにくい選挙になったと書きましたが、18日以降あれこれ考える中で、1イシュー選挙に傾きすぎた風潮から脱する機会になるかもしれないと思うようになりました。小泉政権下の「郵政解散」とか、民主党の「政権交代選挙」は争点はわかりやすくても、(意見の違いはあるでしょうが)ろくな事になりません。風に乗って投票し後悔した人も多いでしょう。

 安倍首相は「アベノミクス解散」だとおっしゃっています。しかし、乱暴な分類ではありますが、三本の矢は、金融緩和がリフレ派、財政出動ケインズ成長戦略は現状でところ規制緩和の色が濃いのでサプライサイド経済学が主に主張する政策ですから、異なる思想が盛り込まれているわけです。政策の組み合わせによってはデフレ脱却策とデフレ促進策が混在するということにもなりかねません。

 時々刻々と動く経済情勢・国際情勢の中で適した政策を打って頂かなくてはなりませんから、民主主義のあるべき姿に戻って、第一に政治家の人品骨柄をみる。自分でわからなければ信頼できる人に聞いてみる。第二に「自分の争点(関心)」を考えて、その分野だけでも各候補や政党の主張と実現可能性を確認する。同時に、その政策がどのような負の影響を与えるのかも知っておくために、賛成派と反対派の両方の意見を聞いてみるのもいいでしょう。これから何回も選挙はあるのですから、そのための鍛錬をする端緒になると思います。自分で考え、信頼する人と意見を交わす。その方が変な「風」に流されるよりも、福澤諭吉がおっしゃった「一身独立して一国独立す」の歩みにつながるのではないでしょうか。