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社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.51 G1後の世界と安全保障・集団的自衛権

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 社長の並木です。前回ご紹介したように、世界に対する米国の影響力が薄れ、G1と言われたアメリカ一極体制が変化しつつあります。このような時代の転換点にいることを踏まえて、安全保障について考えてみたいと思います。

 

  • G1体制の変化

 米国の一極支配体制の変化は、イラク戦争の失敗とリーマンショックによる不況に主たる原因があると思いますが、はっきりと表面化したのは、シリア内戦におけるアメリカ外交の迷走です。オバマ大統領が「化学兵器の使用はレッドラインだ」と表明し、米政府はシリアのアサド政権による化学兵器使用を強く確信しているという報告書を公表、軍事介入を示唆しました。しかしその後、オバマ大統領は介入の決定を議会に委ね、結果的にシリアが保有する化学兵器を国際管理下に置くというロシアの提案に乗ることになります。「民主主義を重視した」と好意的に捉えることもできますが、二転三転した方針変更が、超大国の指導者の発言に対する信頼を失うという結果を招いてしまいました。そして同時期、オバマ大統領はテレビ演説で「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と語っています。
 その後、シリアで仲介役となったロシアがウクライナ問題を起こします。

 

 ウクライナソ連邦崩壊後に独立を果たしたものの、経済的には低迷。1999年あたりから世界的な好景気とロシアからの安価なエネルギーなどを背景に、ようやく成長をはじめるのですが、2004年オレンジ革命によって生まれた政権が親欧米路線を鮮明にします。そうなるとロシアとしては、エネルギーを友好国価格にしておく必要はなくなり、値上げを敢行。ウクライナ天然ガス料金未払いを起こし、ロシアがウクライナ向けのガス供給を停止するという「ロシア・ウクライナガス紛争」が起こります。

 一方、冷戦の崩壊でロシアの影響圏は大幅に縮小しました。東側といわれていた国々が1999年からNATOに、2004年からEUに加盟するようになったのです。2004年にEU及びNATOに加盟したエストニアラトビアはロシアと直接国境を接する国です。のど元までNATOが迫ってきたわけです。そして今回のウクライナ。国境を接していることに加え、ウクライナのクリミア自治共和国にはロシアが租借している黒海艦隊がありますので死活問題です。
 そんな中、リーマンショック後のウクライナはデフォルト寸前。IMFの緊急融資などを受けますが、今回もEU以上に好条件だった、ロシアからの最大150億ドルの財政支援で乗り越えようとします。
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MXWI4R6JTSEC01.html
 しかし、そのタイミングで親欧米派によるクーデターが勃発。それに対し、ロシアはヤヌコヴィッチ大統領(当時)の要請を受けたという形でクリミアに軍事介入し、住民投票の結果を受けた形で編入を決めたというのがウクライナ問題のあらましです。
 これに対し、「力による現状の変更は許さない」と言われますが、同時に「一応は手続きを踏んでいるロシアに対し、クーデター政権に正統性があるのか」といった逆説もあり、「ウォール街を中心とした金融資本が、抵抗するプーチンの失脚を狙った」という見解もあります。外交問題の「正義」は国や利害集団の数だけあるのかも知れません。
 いずれにせよ、今回の文脈で重要なのは、この状況下で米国が有効な手を打てていないと言うことです。ロシアへのエネルギー依存や経済的なつながりから、ユーロ諸国も過度の制裁には慎重です。

 こうしたアメリカ一極から、今後の世界秩序がどうなるかわからないという混沌とした状況は世界の不安定化要素となります。

 

  • 世界各地の紛争

 アメリカが撤退した後のイラクでは、イスラム教スンニ派武装組織「イラクとシリアのイスラム国ISIS)」が同地にイスラム国を樹立すると宣言し、北側のクルド人、南側に追いやられた格好のシーア派現政権と三分割状態となっていますし、南シナ海では中国とベトナム(やフィリピン)の衝突も深刻化しています。こうして世界各地で起こっている内戦・紛争に、かつて「世界の警察」と言われた米国は積極的な関与をしていません。

 

 特に中国の脅威に関しては、日本も他人事ではありません。尖閣は勿論、5月24日と6月11日の二回、哨戒中の自衛隊機(プロペラ機)に中国軍の戦闘機が異常接近するという事態も発生しています。
http://www.asahi.com/articles/ASG6C5S96G6CUTIL034.html
 そんな中、日本では集団的自衛権閣議決定されました。意見の違いはあるでしょうが、米国の重石が軽くなりつつある今、自衛権や安全保障について、様々な「危機」を想像しながら議論を行うことは大切だと思います。
 異論のある人も多いと思いますが、私としては、自衛権はあらゆる人も国家も持っている自然権だという見解に賛成です。

 そして国連憲章第51条に「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。(後略)」とあるように、個別的も集団的も1セットで考える方が自然だと思います。自分(自国)の危機を守るけれども、一緒に守ってくれる人(同盟国・関係国)を助けられないというのは、世界の非常識であるばかりでなく、日本的に言えば「義」がありませんし、誇りも持てないと思います。
 確かに日本国憲法第九条は、第一項が戦争放棄の条文、第二項は「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とその前半が戦力放棄の条文となっています。しかし「憲法自衛権の放棄を定めたものではなく、その自衛権の裏付けとなる自衛のための必要最小限度の実力は憲法第九条第二項にいう『戦力』には該当しない」という憲法解釈を支持して自衛隊ができたわけですから、本来はその時点で解決しておくべき内容だったのでしょう。

 今回、これだけ大きな議論となっているわけですから、この機会に自衛権全般について、今なされているような「どういうケースなら行使していいのか」というポジティブリスト方式ではなく、「何をしてはいけないのか」というネガティブリスト方式の議論に展開することを願っています。現在起こりうる危機でも多様なものがあるのに、将来のことを想定しきるのは不可能ですので、自衛権行使に関してはネガティブリストの方が実効性と抑止力があるのです。政治家の皆様には、また十年後に「あの時解決しておくべき問題だった」と言わなくてすむよう、言葉のレトリックでどうこうするのではなく、本質的な議論をお願いしたいと思います。

 

  • 様々な危機を想像する

 集団的自衛権尖閣や日米同盟の強化という文脈で語られることが多いですが、例えばエネルギー安全保障と、今世界で起こっている紛争を重ねてみると、その枠に入りきらないリスクもみえてきます。
 現代は、石油と電力がなければ生活ができません。一方賛否は別にして、日本では安全対策が施されてもなかなか原発が再稼働しにくい状況にあります。その為、足元をみられて高い価格で液化天然ガスを輸入せざるを得ず、四兆円程度輸入金額を押し上げていると言われています。
http://www.dir.co.jp/research/report/japan/sothers/20140310_008307.pdf
 輸入費用は当然海外に流出しますので、国内への経済効果はありません。しかし、ここまではお金の話ですから、我々消費者が価格の上昇を受け入れるという合意があれば解決可能です。
 ただ、上記したイラクもロシアも産油国である上、南シナ海は中東から原油や液化天然ガスを運ぶシーレーンにあたります。集団的自衛権の議論の中でホルムズ海峡の機雷除去などは話題になっていましたが、それ以外にも、例えば南シナ海での紛争が激化することで輸入が途絶え、大規模停電が起こる可能性もあるわけです。このように尖閣や日米同盟と直接の関係はなくても、日本国民の生活を脅かす事態は想定できます。一朝有事の際には、電力会社・石油会社は輸入先の分散を進めてくれるでしょうが、国家としてエネルギーのベストミックスをどう考えるのか、それこそ成長戦略としてメタンハイドレードなどによるエネルギー自給率の向上を進めるのか、あるいは今回取り上げた集団的自衛権を行使してシーレーンの早期安定化に寄与するのかといったことも考えておくべきです。

 

 上記は一例に過ぎませんが、「アメリカ一極支配に陰り」「G1からG0の時代へ」といった言葉を目にした時、米国の世界への関与が薄れることの影響がどういうところに生まれるのか、自国や自分の家族、周囲の人々の未来を想いながら、考えてみる。それが将来に向けて、大きく誤った方向に向かわせないために必要な自助努力だと思います。