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社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.46 賃金上昇と雇用関連の政策 ~国家のツジツマ~

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  社長の並木です。いよいよ消費税が増税されました。今回は久しぶりに政治・経済の話題です。

 

  • 日本経済の分岐点

 今、日本経済は

アベノミクスの第一の矢(異次元の金融緩和)、第二の矢(機動的な財政出動)が奏功し、デフレを脱却する。

②消費増税等によって消費が減り、デフレが継続する。

③円安とエネルギー価格の上昇に消費増税が加わり、コストが上昇。コストプッシュインフレとなる。その結果、マクロでは、物価は上がるが「実質賃金」が上がらない(物価上昇に賃金の上昇率が追いつかない)状況に陥る。

という三方向への岐路に立っている状態だと思います。①が理想であり、本来は普通の経済環境なのですが、金融緩和の一部しか、貸し出し(つまり、企業・個人による投資や消費)に回っておらず、金融市場に滞留しているなど、不安な要素も顕在化しています。

 どの道に進むかの鍵を握るのは「名目(額面の賃金)及び実質賃金の上昇」だと思います。物価が緩やかに上昇し、賃金がそれを上回って上昇するという状態をつくり出すことです。

 親の遺産で暮らしていけるという特殊な方はともかく、ほとんどの人は「生産者」としての自分か家族の収入をもとに生活しています。デフレによって物価が下がる。それ自体は「消費者」としての自分達にとって嬉しいことですが、それを生産し、流通させている会社は同じものを同じ量だけ販売しても、売上や利益が下がるということになります。そこでコストダウンをせざるを得ず、簡単なものから始め、そのうち人件費削減に乗り出します。すると「生産者」としての自分や家族の収入が下がり、場合によっては失業ということも起こりえます。そして、所得の下がった「消費者」としての我々は消費を控え、それが更に生産している企業の業績にダメージを与え・・・・・・という底なしのデフレスパイラルに陥るというところにデフレ問題の本質があります。実際、日本の平均賃金は1997年の年467万円をピークに、410万円弱まで下がり続けました。

 ③の道でも額面金額はともかく、実質賃金の低下で生活が苦しくなり消費を控えてしまうという、経済への悪影響は変わりません。

 

  • 賃上げ要請と雇用関連の政策

 そういう意味で、政府が賃上げ要請を行っているのは正しい方向だと思いますが、一方で、外国人労働者の受け入れ、扶養控除の廃止、派遣法の改正(http://www.asahi.com/articles/ASG3C3C2FG3CULFA008.html、果てはリストラ奨励のような助成金の拡充(http://yukan-news.ameba.jp/20140225-201/)を積極検討していることは、どうも整合性がとれていないように思います。

 断っておきますが、当社では女性社員も多数活躍してくれていますし、私の妻も仕事をしています。女性の活躍に反対しているわけではありません。また昨年、当社で働いてくれていた派遣社員の皆さんを社員採用する際に、「派遣という働き方が性に合っている」という理由で辞退されたこともありますので、そういうニーズがあることも分かっています。また、過去のブログで書いているようにグローバリズムには疑念を持っていますが、母国との関わりを意識したインターナショナリズムには賛成です。今年の新入社員には台湾国籍のメンバーもいて、当社で学んだ後、台湾に戻って自国の人々の「働きがい」と「お客様満足」の向上に貢献したいと言っていますので、楽しみにしています。

 そういう個別の話ではなく、マクロで考えた時に、実質賃金が低下している今、これらの政策を進めることは労働市場における競争を激しくし、目指すべき賃金上昇とは逆方向に進むのではないかと思うのです。

 政策というものにはタイミングの善し悪しがあります。以前、消費増税反対を唱えたのも需要不足のデフレ下で消費マインドを冷やしてどうするという思いからで、好景気の時であれば判断は変わります。同様に、2013年平均で失業率が4.0%。生活保護受給者数は過去最多(http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_general-seikatsuhogo)という状況下で検討される政策かどうか疑問です。

 

  • 国家の介入

 最近読んだ本で衝撃を受けたものに『国家のツジツマ-新たな日本への筋立て』(佐藤健志・中野剛志著 VNC新書)があります。大変勉強になる内容が多数書かれているので、折に触れてご紹介したいと思います。この本は、時折引用させて頂いている中野剛志氏と評論家佐藤健志氏の対談本なのですが、その一節を紹介します。

「中野:(前略)経済学者も市場が万能じゃないことは認めており、市場が失敗するときは政府が出てきていいって言っている。実際に政府が出てこようとすると「政府だって失敗するんだ」とか、「政府は万能じゃないから」とか御託を並べるわけですね。

 しかし、そもそも、政府というのは、万能だから介入するんじゃないんですよ(笑)。

佐藤:万能でなかろうと、誰かが介入しなきゃいけないから介入する。(中略)

中野:そうそう。経済を全部パーフェクトにコントロールするんじゃなくて、景気が過熱したら冷やし、景気が冷え込んだら温めるといったように、バランスを保つように、市場の逆を張るのです(笑)。」(出典:同上)

 そうです。我々は、市場は国家の適度な統治なしには機能しないということをリーマンショックで学んだのではなかったでしょうか。

 雇用規制の緩和は、グローバリズム新自由主義の特徴の一つですが、それによって失業の増加、非正規雇用の増加、賃金の低下が起こったという悪い例がいくつもあります。グローバル企業を、「国境による障害を低くすることで利益を上げやすくしたい企業」と少々意地悪に定義すれば、人件費の低下は企業のコスト競争力を増しますので、当然の結果です。

 

  • インコヒーレント・テクスト

 上記の『国家のツジツマ-新たな日本への筋立て』の中で「インコヒーレント・テクスト(Incoherent text)という言葉が紹介されています。「ツジツマの合わない物語」のことで、

「(1)首尾一貫した筋立てを持つ物語を描こうとしているにもかかわらず、ツジツマが合っていないこと。(中略)

(2)ツジツマが合わない点を別にすれば、それなりのレベルの出来に達していること。(中略)

(3)したがってツジツマが合わない点自体が、「なぜ破綻してしまったのだろう」という興味を呼び起こす形で、一種の魅力となること。」(出典:同上)

とのことです。つまり、才能のない人が作ったために支離滅裂になったわけではなく、「作り手の世界観に矛盾がある」ために、「それが表面化した際、収拾がつかなくなる」のだそうです。3月29日の東京MXテレビ西部邁ゼミナール」に当の佐藤健志氏が出演していて、「単なる安っぽい物語」で自分の中に矛盾した要素がないかのように振る舞い、矛盾した要素に自分が気づかないよう、必死になって抑えつけながら作ったものは「キッチュ」(Kitsch)と称していました。

https://www.youtube.com/watch?v=N-9A5DTLnuI

 

 デフレ脱却を第一に掲げながら、消費増税を容認したこともそうですが、ツジツマの合わない政策がどうしても目につきます。ただ、同書ではインコヒーレントを基本的に悪い意味で使っていますが、最終盤で(本の中では戦後日本を振り返り、今後に向けて)「国家のツジツマを合わせてゆくうえでは、インコヒーレントであることにも肯定的な意味合いを見出すべきではないか。」とした上で、「人間は、自分で考えているほど首尾一貫した存在ではありません。じつは相当にインコヒーレントで、ツジツマの合わないところも多々ある。」そして「豊かな物語には、曖昧な要素、あるいはツジツマの合っていない要素も必要なんですね。全体としてインコヒーレントになってはまずいのですが、整合性ばかりに固執すると、ふくらみや奥行きがなくなる。」(「」部分出典:すべて同上)と続けています。

 今回取り上げたのは現在進行形の政策ですが、我々がツジツマが合わないと感じるものに対し、説明責任を果たすことが政府の責任であり、一方、個々人は微力な存在でも声を上げ、深みを創れるものなのか、単なるキッチュなのかを考え続けることが主権者の責任なのではないかと思うのです。