社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.36 消費増税考 ~順番の違う意思決定と狂った羅針盤~

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 社長の並木です。去る10月1日に安倍総理が消費税増税決定の発表を行ないました。以前の投稿でもわかるように、私はデフレ脱却前の消費増税には反対でしたので、大変残念です。

 

  • 順番を間違えた意思決定

 安倍首相は「デフレ脱却前の消費税増税はしない」といっていました。しかし、食料やエネルギーの影響を除いた消費者物価指数「コアコアCPI」は対前年で8月:▲0.1%→9月:0%と推移しています。少しずつ前進しているにせよ依然としてデフレであることに変わりはありません。(http://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.htm

 好況になった後の増税であれば、税収増につながり社会保障制度の持続性向上に貢献するのでしょうが、「順番を間違えた」という印象は拭えません。

 企業でもよくあることですが、同じ意思決定をする場合でも、順番やタイミングを間違えたり、言葉を尽くして説明責任を果たさずメッセージの一貫性・納得性が揺らぐと成果が出るのに時間がかかったり、効果が薄くなってしまったりするものです。

 また、大きなリスクを伴う意思決定の場合、その後の結果を虚心坦懐にみつめて柔軟に修正を行なうという姿勢を意思決定権者が持つことも大切です。消費税については今後、経済状況をみた上で2015年10月に10%へ引き上げるか否かを判断するタイミングが巡ってきます。今回の結果をみつめた上で、その時の再増税を見送る。場合によっては5%に戻すということがあってもよいのではないかと思います。消費税率を頻繁に変えられては、企業側の事務手間も大変なのですが、増税にせよ、減税にせよ手間がかかることに変わりはないのですから。

 

  • 狂った羅針盤

 さて、この一ヶ月間様々な方の意見を目にし、自分でも考えてきました。その中で引っかかっている根源的な懸念について今回は触れておきたいと思います。

 現在、内閣官房参与でもある京都大学の藤井聡教授の著書『維新・改革の正体』(産経新聞出版)の中に“日本の成長を阻む「狂った羅針盤」”という、内閣府の「マクロ計量モデル」について元経済企画庁審議官の宍戸俊太郎先生と藤井教授が語っている章があります。その内容を何ヶ所か引用しながら紹介します。

「マクロ計量モデルというのは、日本のGDPや失業率、税収などのマクロな経済指標が、どの様に変遷していくのかを分析し、予測するシミュレーションモデルのことを意味する。(中略)政府はこのモデルのシミュレーション結果を参考にしながら、増税や減税といった税政策や、マクロ経済政策を検討していくのが一般的だ。」

ということは、今回の消費増税決定にも影響を与えた可能性が高いと考えられます。内閣府モデルは、2001年小泉・竹中改革の中で導入され、先進国で唯一IMF型のモデルを採用したのだそうです。IMFの融資先には発展途上国が多く、IMF設立当初には融資の焦げつきが多発したため、それを防ぐために「増税や緊縮財政に誘導しやすい」モデルであることがIMF型モデルの特徴だそうです。そして、

「宍戸氏は、そんな緊縮財政を誘導するIMFモデルを作っているのが、市場原理主義を信奉するシカゴボーイズ達(並木注:ミルトン・フリードマンに代表されるシカゴ大学経済学部の影響を受けた新古典派経済学者=新自由主義者)であると指摘する。」

「マクロ計量モデルは、供給先行型モデルと需要先行型モデルに大別できる。

需要先行型モデルとは、その国の消費や投資の総量につられる格好でマクロ経済状況が決まると考えるモデルである。これはケインズ経済学の理論に基づいて構成されるものである。一方で、供給先行型モデルというのは、その国の産業の生産総量につられる格好でマクロな経済状況が決まると考えるものである。」(並木注:IMF型モデルは供給先行型モデル)

「今日、いずれのモデルが主流になっているのかと言えば、それは明確に『需要先行型モデル』のほうだ。なぜならそれは偏(ひとえ)に、宍戸氏が言うように供給先行型モデルが『全然当たらない』一方で、需要先行型モデルが現実の変動をより忠実に再現してきたからである。」(出典:全て『維新・改革の正体』 藤井聡著 産経新聞出版)と続きます。

 そのようなモデルですから「消費税を1%増やしたときに、その後5~6年間のGDPに与える影響」を他のシミュレーションと比較すると、

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 (出典:『維新・改革の正体』藤井聡著 産経新聞出版 63ページ)

このように、内閣府モデルでは増税の影響が小さく、かつ短期に見積もられています。このモデルが政策決定に影響を与えているのだとすれば、今後、別の問題も発生する可能性があります。

 安倍首相は記者会見で「消費税率の引上げによって、東日本大震災の復旧・復興に支障が生じることはあってはなりません。新たな経済対策の中で、復旧・復興の加速に取り組むとともに、被災者の住宅再建に係る給付措置を創設します。これらの給付措置を含む新たな経済対策を12月上旬に策定します。その規模は5兆円規模とします」と語りました(http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/1001kaiken.html)。しかし、公共投資GDPへの影響を推計したシミュレーションでも内閣府モデルは独特の傾向を示します。

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 (出典:『維新・改革の正体』藤井聡著 産経新聞出版 60ページ)

 考えたくはありませんが、内閣府モデルに従えば、何らかの理由づけで財政出動も規模が縮小されたり、国土強靱化が不十分なまま短期化され得るという懸念を忘れてはならないということです。

 

  • 歴史に学ぶ

 消費増税決定以降、デフレ脱却のためには「市場に任せろ」「金融政策が重要」「財政出動(公共投資)が重要」など様々な言説が飛び交っています。経済的かつ安全保障上の危機にあるという環境下「市場に任せろ」という声には異論がありますが、金融緩和の影響は既に体験し、公共投資には上記のように多くのシミュレーションが複数年にわたって1.5~4倍の経済効果を認めており、更に今の日本には必要不可欠なのですから、「金融緩和も財政出動も両方とも重要」で良いのではないでしょうか。東日本大震災からの復旧と、次の巨大地震に対する防災は経済云々以前に、国民の安全を守る国家の責任であり、それがデフレ脱却に「も」有効なのです。

 先日、ノーベル経済学者のスティグリッツ教授の講演に行ってきました。教授もリーマンショック以降、緊縮財政をとったユーロは二番底に沈んでおり、大幅な金融緩和と「マイルドな緊縮財政」をとった米国も、その資金が中堅中小企業などに回らず、不況から脱せていないという例を引きながら財政出動の必要性を語っていました。

 安倍首相をはじめ、専門家の方々も「景気の腰折れを防ぐために・・・」と消費増税の景気への悪影響を認めています。他国の状況に学び、更に橋本政権下で消費増税と緊縮財政を同時に実施した結果、デフレに突入し、自殺者数が毎年約1万人も増えてしまったという自国の歴史・経験に学ぶことは決定的に重要だと思うのです。