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社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.31 消費増税のタイミング ~税率アップと税収アップの違い~

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 社長の並木です。最近、消費増税に関する報道が多数なされています。日本の景気回復に大きな影響を与えることですので、もう一度過去の経験やデータに基づいて、この問題を考えてみたいと思います。

 

  • 消費増税法「附則18条」の存在

 消費税は、民主党政権下において自民党・公明党との三党合意によって2014年4月に8%、2015年10月に10%へと増税されることになっていますが、同時に附則18条に「それぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。」とあり、時の政権の判断で施行の停止も可能な状況にあります。そして、現安倍政権は発足以来、一貫して秋に経済情勢を勘案して判断するといってきました。

 以前から書いてきたように、私は少なくともこのタイミングでの消費増税には反対です。アベノミクスによって大胆な金融緩和が実行され、2012年度補正予算と2013年度予算で拡大された公共事業費が運用されはじめ、秋には国土強靱化法案が可決されそうな状況にあります。それらによって、災害に対する安全保障が高まると共に、株・為替といった金融経済から、実体経済の回復、地方経済の好転につなげ、デフレを脱却することがアベノミクスの最優先事項だと思うからです。需要不足によってデフレが起こっているのに、デフレ脱却前に消費をおさえる増税を行なうのは、それを補って余りある程の財政出動(=政府による需要の創造とそれを請け負う人たちの所得の創造)が伴わない限り、ブレーキ役にしかならないからです。

 

  • 消費増税=税収増ではない

 現在、消費増税が必要な理由としてあげられているのは政府の財政赤字です。社会保障費が増加を続け、今の税収では賄えないというわけです(国際公約などという意見も聞かれますが、国際公約とは共同声明やコミュニケ(http://p.tl/g3sE)で発表した内容を指すのであり、記者会見で誰かが話したということとは違いますので誤解してはいけません)。

 しかし、デフレが続けば、失業や生活保護によって社会保障費が余計に増えてしまいます。その上、税率を上げても税収が「減る」可能性が高いとなればどうでしょうか。

 日本の消費税は1989年4月に税率3%で導入、その後1997年4月に5%に増税されて今日に至っています。この間の消費税・法人税・所得税という主要な税収とその合計値の推移をまとめたのが下のグラフです。

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出典:財務省「主要税目の税収(一般会計分)の推移」より作成  http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/011.htm

 1989年から1990年にかけて税収は伸びましたが、1997年の増税時は翌年から減っています。これは、それぞれの時期の景気動向に大きく影響を受けているからです。バブル景気が本格化したのが1988年頃ですから1989年は好況です。だから税収増になりました。その後、1991年からバブルが崩壊し始め、1992年頃からその影響が本格化しましたので税収も大きく減っていきます。片や1997年はバブル崩壊後、公共投資によって何とか名目GDPを維持し、阪神淡路大震災の復興需要もあって若干上向きかけたという時期であり、この年から行われた消費増税と緊縮財政の結果「失われた20年」といわれる長期不況に突入してしまったため、増税すれども税収減になってしまったのです。

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 消費増税を行っても、景気が悪化すれば税収は減る。逆に言えば、景気が良くなれば税率を上げなくても税収は増えるのです。

 

  • 税収=名目GDP×税率×税収弾性値

 これは、「税収=名目GDP×税率×税収弾性値」という関係にあるからです。税率を上げても名目GDPが減れば税収は減ります。さらに税収弾性値というものがそれを加速させます。これについては産経新聞の田村秀男氏が「田村秀男の経済がわかれば、世界が分かる」というブログの中でわかりやすいグラフを示してくれています。

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出典:「田村秀男の経済がわかれば、世界が分かる」http://tamurah.iza.ne.jp/blog/entry/3132222/

 これを見ると、名目GDPの上下動を何倍かした形で一般会計税収が上下動していることがわかると思います。これが税収弾性値です。不況だと多くの企業は赤字で法人税を払いません。そういう企業も景気が好転し、黒字になれば払い始める。そうした現象によって、プラスにもマイナスにも名目GDP以上に税収が変動します。特に不況と好況の転換期はその影響が大きくなるようです。

 

  • 慌てずに今は待つというのも大切な意思決定

 日本だけではなく、欧州債務危機以降の不況下で増税をしたイギリスやイタリア、ギリシャも税収減に見舞われました。施策を打つ時にはタイミングが重要だということがわかります。日本の政府債務の額は確かに大きいですが、資産もたくさん持っています。平成21年度末時点で1,019兆円の負債に対し、資産が647兆円です。それに国債は円建てで発行していますので、日本が債務不履行するという事態にはなりえません。国債金利の暴騰を心配する人もいますが、今の日本の長期金利は1%未満で世界及び史上最低水準です。1989年は年平均で5%強、1997年でも2.3%以上でした。

http://p.tl/y7h6

 また、デフレというのは一般物価水準の継続的下落です。便宜的にIMFや内閣府では2年以上という期間設定をしています。消費増税が行われた時期のコアコアCPI対前年比を見てみましょう(コアコアCPIは消費者物価指数の中で変動の激しい食品やエネルギー価格を除いた指標ですから、現在のように電気料金が上がり、原油価格の変動が激しい状況では、最も適切に物価状況を示してくれます)。

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 双方とも決して高くはありませんが、1997年の消費増税が決まった時(1996年)の対前年伸び率は0.5%しかありません。そして、今年6月のコアコアCPIの対前年比はマイナス0.2%ですから、依然としてアベノミクスの主眼であるデフレ脱却、そのためのインフレターゲット2%の達成には至っていないことがわかります。

http://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.htm

 先に発表されたGDP成長率は右肩上がりながら、期待以下の水準だったようですが、これは当然でアベノミクスが始まってから、まだ1年も経っていません。政策が実体経済に波及するためには期間が必要であり、(瞬間的な上昇ではなく)それが定着し、継続可能な状況まで待てないと「失政」に終わってしまいます。にも関わらず、周囲が短期的成果を求めすぎているというのが私の印象です。15年もデフレが続き、ようやく希望が持てるようになってきたのです。少し落ち着いて景気回復(それによって自動的に税収増)を進め、消費と投資の増加によって名目GDPが成長し、我々国民の所得が増えるまで「慌てずに待つという意思決定」が大切なように思います。