「雑観」コラム

(株)MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.26 国家と企業③ ~企業の利益と国益の違い~

 

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社長の並木です。前回は「通貨発行権」について考えました。今回は「国家の役割」を踏まえた上で、国家運営と企業との違いについて観てみたいと思います。

 

  • 国家の役割とは

企業には理念があります。理念はその会社が何を実現したくて存在しているかを示したもので、優良企業の多くは「理念」に基づいた経営を行っています。では国家は何のために政策を打つのでしょうか。それは経済の語源である「経世済民(世をおさめ、民をすくう)」のために他なりません。言いかえれば国民に豊かさと安全・安心、そして誇りを提供し続けることです。豊かさは国全体で考えればGDPの向上です。GDPには支出面・分配面・生産面からみたGDPがあり、それが一致します(三面等価の原則といいます)。そして、この中の分配面のGDPが所得の合計です。安全・安心と誇りのために必要な政策には、防災、外交安全保障、治安維持、ライフラインやインフラの整備、教育、医療、生活保障などが挙げられるでしょう。

 

  • 金は天下の回りもの

そのためであれば、プライマリーバランス(政府の歳出と歳入の差。企業でいえば営業キャッシュフローのようなもの)が赤字でも構いません。企業では利益以上に、キャッシュフローが存続のための絶対条件です。しかし、政府には通貨発行権があるからです。

そして、企業(や家計)の場合、経費であろうと投資であろうと使った金額は自社の口座から消えてしまいますが、国単位で考えた場合、使っても円は消えません。少しわかりにくいかもしれませんが言葉の定義づけをしてみましょう。

専門家ではないので、正しい定義かどうかわかりませんが、日本とか国家という言葉を3つに分類してみます。

1,        Nation:国民(あるいは国民国家)のことです。曖昧ではありますが、歴史や伝統・文化などを共有した存在。先日の『西部邁ゼミナール』(TOKYO MXテレビ)でも「Natioは誕生の意味」だと話されていました。

2,        State:制度としての国家。日本にも外国人労働者もいれば、観光客もいます。逆に日本人も海外に出ています。外資系企業の日本法人もあれば、その逆もあります。この場合は、日本国の領土内という意味での国家です。GDPは「国内」総生産であり、海外の工場や支店で生産・販売してもカウントされません。

3,        政府:Stateを動かし、Nationを代表して行政を行う内閣とその統轄する行政機構。広義では立法・行政・司法機関の総称。

政府が、公共投資で支払った金額は、それを受託した企業群に移ります。その企業群が給与を支払うとそこで働く個人の所得になります。その人が何かを消費すると、そのお金は商品を売ったお店に移ります。消費されない分は銀行に貯金され、銀行は集めたお金で利ざやを稼がないと成り立ちませんので、企業に融資したり、国債を買ったりします。こうして円は国内をグルグル回り、火事で燃えたりしない限り消えてなくなりません。外貨に両替しても、両替した銀行に円は残ります。そして消費や投資に使った金額はGDPにカウントされます(貯金や借金返済分、土地購入費などは別です)。更に、こうした活動が繰り返されると、それぞれ法人税・所得税・消費税などによって政府にも戻ってくるのです。政府には「通貨発行権」だけでなく「徴税権」があるためです。ここも企業との大きな違いです。

こうした連鎖で、もともと使った分以上の経済効果が上がる(GDPが増える)ことを乗数効果といいます。

 

  • 企業の収益と国益の違い

企業経営で利益を出すためには、「売上-原価=売上総利益」、「売上総利益-経費=営業利益」と、売上をどの位上げられるか考えつつ、それ以下の原価・経費に抑える『入るを計って出ずるを制す』という引き算的な考え方が必要ですが、国家(State)の場合は、お金の巡りの足し算でGDPが決まったり、乗数効果というかけ算が必要になったりするわけです。

 

また、企業は少なくとも中期的には金額的な利益を出さないといけませんが、国家が金銭的な利益に囚われるとむしろ国民が迷惑します。例えば、普通の道路の整備や健康保険、地方まで行き届くユニバーサルサービスなどが受けられなくなるためです。金銭的な利益に関わらず、国民の安全・安心・誇りに関わるもの、将来の豊かさの形成に必要なもの。すなわち、インフラやライフラインの整備、防衛や警察・消防などの行政サービス、教育や健康保険・社会保障といった我々の生活基盤に関わること、エネルギーやスーパーコンピュータなど多額かつ長期の投資が必要になり、将来の国力の強化に繋がる技術開発などには、優先順位をつけて取り組んでもらわなければなりません。

 

そうして国民が豊かになり、名目GDPが上がると、税率を上げなくても税収が増えます。逆に(1997年の消費税増税の時がそうだったように)余程の好況でもないときに増税すれば、肝心の税収は減ってしまいます。不況時には財政赤字になっても、歳出を増やし、好況時には民業圧迫やインフレに注意して、歳出を引き締めることでプライマリーバランスを黒字化する。前回書いた「デフレ」や「悪性インフレ」で国民を苦しめないよう、企業経営より複雑でしょうが、より長期的な視野から官民様々な団体と調整し、この繰り返しを行うのが国家運営であり、国会議員・内閣・官僚の役割だと思います。