社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.20 グローバリズムを考える ~ユーロとドイツ~

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 社長の並木です。国家単位で考えた場合、グローバリズムが行きわたった国の代表例は、米国・ドイツ・中国・韓国など幾つもあげられるでしょう。片や地域で観ると、ユーロに学ぶのが一番ではないかと思います。何しろ、「ユーロという共通通貨なので為替の変動なし」「域内の関税なし」「人の移動も自由」が概ね実現している、グローバリズムの実験場のような地域です。そのユーロが欧州債務危機以降、迷走を続けています。そんな中、経済的な好調を維持し続けているのがドイツです。少し調べてみると、近年だけでもユーロ諸国とドイツの関係にはなかなか興味深いものがあります。

 

  • 失業率の推移に観るドイツのITバブル崩壊

 

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出典:IMF - World Economic Outlook Databases (201210月版)

 

添付のグラフはドイツとPIGS諸国(ポルトガル・イタリア・ギリシャ・スペイン)の失業率の推移です。注目したいのは2005年。この頃のドイツの失業率はスペインやギリシャよりも高いのです。その主な原因はITバブルの崩壊。ITバブルに完全に乗ってしまったドイツでは、2000年のバブル崩壊によって、ドイツのナスダックといわれる新興株式市場ノイマルクトがピークから96%も下落したそうです。ちょっと想像を絶しますね。そして、戦後最悪といわれる不況に突入しました。

 

  • ユーロの特殊性

ドイツは基本的に財政出動を好みません。その徹底ぶりたるや、2009年の憲法改正で「債務ブレーキ制度」即ち、均衡財政を憲法に盛り込んだほどです。その上、ユーロにはマーストリヒト条約というものがあり、財政赤字はGDP3%までと決められています(但し、現在のユーロ危機でこれは有名無実化されつつあります)。

その上、金融政策もユーロ圏ではECB(欧州中央銀行)が差配しますので、各国の自由が効きません。

つまり現在アベノミクスで推し進められている「金融緩和と財政出動のパッケージ」が全く使えないということです。当然、リストラの嵐が襲ったようです。現在、スペインやギリシャの失業率問題、特に若年層失業率が50%を超えたという記事が新聞に踊っていますが、10年程前は逆にドイツ経済が瀕死の状況にあったのです。

 

  • ドイツの復活と副作用

ドイツにとっての救世主はECB。そもそもECBはドイツ中央銀行ブンデスバンクの影響が大きいのですが、そのECBが短期金利を2%にまで引き下げてくれました。バブル崩壊後は資金が借金の返済に向かい、銀行も不良債権処理のために貸し出しを渋りますので、それを救うための金融緩和です。

 

ただ、ECBですからその政策はユーロ全体に影響を及ぼします。その結果、迷惑を被ったのがフランス、そして大してITバブルの恩恵を受けていた訳でもない南欧諸国です。金利が下がることによって資金が流れ込み、不動産バブルが生まれました。

その結果ドイツは、バブルが生まれ景気の良くなった国々、同時期にITバブル崩壊から不動産バブルへとバブルの付け替えで好況を謳歌していたアメリカなどへの輸出を伸ばして復活します。2000年から2011年までの間にドイツの輸出は1.8倍になり、GDPに対する輸出額の比率(輸出依存度)が40%を超えます。同年の輸出依存度は日本で14%、中国でも26%ですから、韓国と並び、中国を凌ぐ輸出依存国家になったのです。そして、その中の約40%がユーロ圏に対する輸出です。

 

  • PIGS諸国とドイツの違い

そして2008年以降、世界中でバブル崩壊が起こりました。そしてECBは、再度金融緩和に踏み切りました。しかし、ドイツと今回のPIGS諸国では決定的な違いが2つあります。

一つは、当時のドイツのように輸出で伸ばそうにも、今、世界に輸入を増やしてくれる好景気の国がありません。

二つ目には、ドイツとPIGS諸国では生産力が違いすぎることです。

ユーロという同一通貨ですので、不況になっても通貨安になり輸出がしやすくなるというボーナスがありません。同じ条件で勝負したら、特産品を除いて、ドイツの輸出競争力に負けてしまうのです。その為、ユーロ危機といわれながら、ユーロ圏内でも、その他の国に対してもドイツは(2009年を除いて)輸出を増やすことが出来ているのです。穿った見方をすれば、欧州債務危機によるユーロ安がドイツの輸出増を後押ししているとさえいえます。そこまで精緻な国家戦略を狙っているのかどうかは知りませんが、そんな観点から考えるとタイトルの「ユーロとドイツ」が「ドイツのユーロ」にも思えてしまいます。

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  • 歴史を振り返る

「それは、これまでの努力が足りなかったんだから仕方ないよ」という声が聞こえるようです。ギリシャ・スペイン・ポルトガルは1970年頃まで独裁政権だったとか、様々な歴史的・地理的・民族的な事情はあるのでしょうが、確かに各国の指導者層の責任は重大です。

ただ、少し歴史を遡るとドイツも英国が産業革命を成功させ、圧倒的な生産性で迫ってきたときに保護主義で自国の産業を守り、育てて、英国に追いつき、追い越したのです。世界大戦を経て圧倒的な経済力を誇ることになった米国も、それ以前には自国産業の保護をしていました。日本も同様です。

それを今、ユーロ各国は「ユーロ加盟国であるが故に」やりようがないというのも現実です。

 

グローバリズムによる完全な自由競争というのは、一見合理的に思えますが、ひとたび苦境に陥ると、各国の歴史や技術力・生産力・国力の発展過程を無視した弱肉強食の世界を繰り広げる羽目になります。

そして現在、ドイツからは「なぜ、怠けていた国の支援をしなければいけないんだ」、ギリシャなどからは「我々の不況でユーロ安になってドイツは儲けているじゃないか」といった声が聞かれるように、逆に極端なナショナリズムが生まれてしまうようです。

日本でも依然として、あらゆる分野が国際標準で競い合うべきだという構造改革的な言説をよく耳にします。グローバリズムにせよ、ナショナリズムにせよ、行き過ぎないことです。スペインやギリシャ、さらにはアメリカのように産業が空洞化してしまえば、それを立て直すのには長い時間がかかるのですから。都度、適度なバランスを探すのが将来に対して責任ある態度だと思います。

そして経営者は、まずは自国の経世済民のために、国内の雇用と供給力を守り、給与支払いを通して内需の原資を生み出すことが王道だと、私は考えます。