社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.19 TPP交渉参加表明に思うこと

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 こんにちは。並木です。先週末、遂に安倍総理大臣がTPPへの交渉参加を表明してしまいました。今回は別のテーマを考えていたのですが、これまで「TPP反対」「アベノミクス(特に金融緩和と財政出動の2本の矢)には賛成」という意見を述べてきた経緯もあり、現在の私見を述べたいと思います。

※ 記者会見の内容は首相官邸のホームページから、動画及び文章で観ることができます。(http://goo.gl/vWGGH

 

■現状認識

私としては大変残念ですが、様々な考え方や知見がありますので仕方ありません。

ただし、あくまで「交渉参加」を表明しただけであり、これから事前交渉→参加承認→本交渉があり、協定確定後にも、国会での批准を受けることが必要です。そして、与党自民党内にも240名のTPP反対派がいるのです。

※TPP参加の即時撤回を求める会 公式ブログ http://ameblo.jp/tpp-tekkai/

新聞等には年内合意を急ぐといった見出しも見かけますが、昨年も同様の報道もあり、世界貿易機関(WTO)の例を引くまでもなく、お互いの国益のぶつかり合いになりますので、一筋縄ではいかないと思います。負け惜しみではなく、これが現実ですので、その間に皆で認識と議論を深めていくべきだと思います。

 

■首相会見での矛盾

さて、3月7日の東京新聞に「TPPに後れて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、米国など既に交渉を始めていた九カ国から『交渉を打ち切る権利は九カ国のみにある』『既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない』などと、極めて不利な追加条件を承諾した上で参加を認められていた」という趣旨の報道がされていたようです。(http://goo.gl/oZKsl

 

安倍総理の会見の中でも「残念ながら、TPP交渉は既に開始から2年が経過しています。既に合意されたルールがあれば、遅れて参加した日本がそれをひっくり返すことが難しいのは、厳然たる事実です」という認識を示しています。一方、同じ東京新聞の方からの質問に答えて「ただ、今まで、まだ、例えば関税等についてはほとんど議論がされていないわけでありまして、これから決めることもたくさんむしろあると言ってもいいと思いますね」とおっしゃっています。

 

また、会見前日に総理は自民党から「聖域(死活的利益)の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとする」という文章の入った「TPP対策に関する決議」を受け取っており(http://goo.gl/t08u0)、

 

その上で、会見で「TPPに様々な懸念を抱く方々がいらっしゃるのは当然です。だからこそ先の衆議院選挙で、私たち自由民主党は、『聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉参加に反対する』と明確にしました。そのほかにも国民皆保険制度を守るなど五つの判断基準を掲げています。私たちは国民との約束は必ず守ります。そのため、先般オバマ大統領と直接会談し、TPPは聖域なき関税撤廃を前提としないことを確認いたしました。そのほかの五つの判断基準についても交渉の中でしっかり守っていく決意です」と語っています。

この「五つの判断基準」(聖域なき関税撤廃に反対も含めると6条件)に関しては以前のブログに書いていますので、ご覧下さい。

※Vol.16_TPPについて_~政策と議論:両面から考える~(http://goo.gl/n08sS

報道と会見内容、自民党の決議文およびそれに関連する総理の発言と幅広い自由貿易協定と謳われているTPPとの間に矛盾があること。更に交渉2年間で関税に関しての議論がされていないということから、相当複雑な状況にあることとまだまだ時間がかかるであろう事が伺えます。

 

■他人事としてTPP問題を捉えることの危険性

そして、その時間を使って、認識と議論を深めるべきだと思う理由は、報道で「TPPは農業問題」という印象が強すぎるため、農家以外の方は余り自分のこととして捉えられていないと感じることにあります。 

上記Vol.16の原稿(http://goo.gl/n08sSをご覧いただければと思いますが、TPPの検討分野は実に多岐にわたっており、ビックリするような方向から流れ弾(?)が飛んできます。

2月末頃の日経新聞だったと思いますが、「日米首脳会談の共同声明で『自動車と保険部門に残された懸案事項がある』とされたことに対し、保険会社幹部が解決済みではなかったのかと肩を落とした」、「TPPに関して米国政府が日本独自規格である軽自動車の税制優遇を問題視していることに対して、自動車会社のトップが『TPPと軽は全然関係がなく、何が何だかさっぱりわからない』と語る」といった趣旨の報道がされています。

 その通りです。しかし、保険や医薬品分野、法律、投資、農業というより遺伝子組み換えを含むアグリビジネスといった分野が強い米国は当然そこを狙ってきます。そして、日本は「第三の開国」などと言っていますが、実際には一部の農産品を除けば関税は既に低く、他国の参入の壁となっているのは環境や健康に配慮した規制、或いは日本語などの非関税障壁なのです。

そしてISD条項。ある経営者団体で「反対派がISD条項について反対している理由が分からない」とおっしゃる方がいました。通常、途上国に開発投資した後、成功した途端、国外撤去命令などを出されてはたまらないという場合のための条項なのですが、近年では、国・企業・個人(投資家)から非関税障壁が自社の貿易に不利であるという理由で世界銀行傘下の仲裁センターに提訴され、不利益を被る国が増えているため、問題視され始めているのです。

最近では、米韓FTAの締結によって、既に導入に向けて予算措置までされていた韓国の自動車の二酸化炭素排出規制の導入が米韓FTAの禁じる「貿易技術障壁」に該当する恐れがあるとされ、先送りされたようです。また北米自由貿易協定(NAFTA)でもカナダやメキシコが国内の環境規制によって訴えられ、多額の賠償金を取られています。我々の常識で言えば「それは商品力・技術力の問題でしょう?」と思うのですが、それが通用しない世界(前回お話しした新経済ビジネス・モデル)があるのです。

※Vol.18 新旧経済ビジネス・モデル~新自由主義グローバリズムの負の「遺産」~(http://goo.gl/9T2Kc

 

最近、産業競争力会議で、雇用分野の規制緩和が話し合われているようですが、これも「自由貿易・構造改革」という新自由主義の考え方に則ったものです。近年ではスペインが失業対策として実施し、返って失業率を悪化させるという笑えない結果を生んでしまいました。そして、TPPの検討分野には「雇用」があり、参加国には低賃金国・移民国家が複数入っています。

あくまで可能性ですが、医療や食の安全、雇用、保険、法律、そして投資もほとんど全ての方が直接・間接に関わっています。農業というスケープゴートの陰に隠れていられる状況ではありません。

 

■一身独立し、一国独立す

福澤諭吉は「一身独立し、一国独立す」といいました。国は人の集まりだから、国民が独立しなければ、国が独立できない。独立できないものは人を頼り、恐れ、へつらうようになってしまう。といった趣旨です。そして、人(この場合は政府)を頼りすぎると、国のことを(結局は巡り巡って自分に影響が及ぶのに)我が事と思えなくなってしまいます。自分は無関心だという人が、仮に自分への害は受け入れたとしても、家族や子孫への責任を果たせるのかという問題が残ります。

ちなみに、安倍総理も、施政方針演説でこの「一身独立し、一国独立す」という言葉を引用していました。もしかしたら、安倍首相には成算があるのかも知れません。また、旧経済ビジネス・モデル(アベノミクスの2本の矢「金融緩和・財政出動」、経済団体に所得向上をお願いするなど)と新経済ビジネス・モデル(新自由主義、TPP)の狭間にいらっしゃるのかも知れません。もっと政治的に、交渉を引き延ばしつつ、政治的基盤を整え、経済再生、復興・防災、国家安全保障の道筋を立てた上で、(自民党の決議文にもあるように)脱退も辞さずで国益を守るおつもりかも知れません。

 

安倍政権の誕生で、経済的に大変明るい話題が増えてきました。TPPによる経済効果など既にこの数ヶ月の環境変化で上回ってしまっていると思います(一応、以前の内閣府の試算や、国会における西田昌二参議院議員の質問に対する政府答弁などを観た上で書いています)。

だからといって現政権の全肯定はおかしいですし、TPPに反対だから全否定をするのも余りに偏狭です。自分とまったく同じ考えの人間はいませんし、そういう方が総理大臣になる可能性などないのですから、賛成・反対双方を抱えて当然です。

私は、自分や家族、社員、顧客、パートナーの皆様、そして子孫に対して、より好ましい状態を残していくためにはどうすべきかを時間の許す限り考えたいと思います。