「雑観」コラム

(株)MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.18 新旧経済ビジネス・モデル~新自由主義とグローバリズムの負の「遺産」~

f:id:msandc:20130312110733j:plain

こんにちは。並木です。これまでも何回か取り上げてきましたが、現在の混迷の病巣となった新自由主義グローバリズムについて改めて考えてみたいと思います。

 

旧経済ビジネス・モデルと新経済ビジネス・モデル

前回もご紹介した中野剛志氏の近著「日本防衛論」の中に、イノベーションの理論家であるマサチューセッツ大学のウィリアム・ラゾニック氏の研究を引用し、1980年頃を境にして(丁度、レーガノミクスなどで新自由主義が台頭したタイミングです)、企業組織は「旧経済ビジネス・モデル」と「新経済ビジネス・モデル」の2種類に区分できるとし、以下の説明が書かれています。

『「旧経済ビジネス・モデル」とは、企業の所有者(株主)と経営者が分離し、経営者が株主に対して優位に立ち、企業経営を主導するビジネス・モデルである。この旧経済ビジネス・モデルの企業の戦略的な目的は、技術開発にある。また、旧経済ビジネス・モデルは、従業員に対して安定的な雇用を保障し、自社技術の開発に努め、労働者の特殊スキルの向上を目指すと言った特徴がある。また、資金調達に関しては、旧経済ビジネス・モデルの企業は安定性を志向するので、株価は比較的安定していた。

これに対して、1980年頃から広まっていった「新経済ビジネス・モデル」の企業は、戦略目的が技術開発ではなく、株価を高めることになる。技術開発投資は、短期的に株価を下げる要因になるとして、むしろ忌避するのである。また、「新経済ビジネス・モデル」は、もはや雇用の安定を保障せず、非正規労働者を活用して人件費を抑制するなど、徹底した合理化を進めようとする。』

[出典:「日本防衛論 グローバル・リスクと国民の選択」中野剛志著 角川SSC新書P179~180]

 

 新自由主義(=新古典派経済学・主流派経済学)によって企業のあり方・考え方あるいは文化が変わってきてしまったということでしょう。

 

新自由主義グローバリズム負の遺産

そして現在は新自由主義あるいはグローバリズムが、それを生んだアメリカを筆頭に、ユーロでも、中国でも、韓国でも、そして日本でも、一部を除いて世界中に席巻していって、リーマンショック以降のバブル崩壊の連鎖の中で、様々な歪みが浮き彫りとなった時代だといえます。

新自由主義的イデオロギーではデフレ対策は金融緩和までで、財政出動公共投資等)には踏み込めないため、実体経済に緩和したマネーが向かわず、投機によって小麦などの価格が高騰、それがアラブで続いた政変の一因ともなりました。

また、ユーロではECBという中央銀行に通貨発行権が統一され、各国に通貨発行権がなく、自由な金融・財政政策をとれません。そして経済が好調なドイツなどが、不況に陥った国に緊縮財政を迫るため、更に失業率が悪化。遂にイタリア国民が選挙でNoを突きつけ、新たな混迷が生まれています。

先進国が不況に陥り、需要が激減したため、輸出が振るわず、新興国経済も苦境に立っています。

そして、アメリカ発でスタートした1%対99%運動。「オキュパイ・ウォール・ストリート(ウォール街を占拠せよ)運動」とも呼ばれますが、限られた人口1%の富裕層だけが益々豊かになり、格差が広まるばかりだという抗議活動の火の手が上がりました。

新自由主義新古典派経済学)」ではトリクルダウン理論というものがあり、富裕層に富が集まれば、それが社会にしたたり落ちてくるという考えなのですが、残念ながら実証された理論ではありません。現実がそうなっていないから激しい抗議活動が起きたのでしょう。

日本でも「もの言う株主」などと取りざたされたことがありますが、「金融資本主義の膨張」によって強くなりすぎた資本家の短期的な儲けの重視。「グローバリズム」によって行き過ぎた国際的資本移動。この二つが重なると、利益や配当の拡大や株価上昇圧力が高まり、一方でその国で暮らす人たちの将来と関係のない投資家が増えるわけですから、長期的投資ができにくくなり、人件費がカットされたり、より人件費の安い海外に工場を移転されたりして失業が増えるという現象が起こります。

 

米英における所得格差の拡大

下のグラフは「レーガノミクス」「サッチャリズム」を進めた米英と日本における上位1%富裕層の国民の総所得に占める割合を示したものです。

f:id:msandc:20130311191805p:plain

出典:OECD 2011 「Share of top 1% in selected years」を基にグラフ化

米英両国はウォール街、シティーを持ち、金融資本主義を推し進めた国でもあります。アメリカでは1%の富裕層による所得のシェアが近年では、1980年の倍以上になっていることが分かります。これでは激しい抗議活動が行われるのも理解できるというものです。

 

経済も政治も、それぞれの国民を幸せにする為のものだと思いますが、実態は、

グローバル化によって国境が薄くなり、特にユーロなどでは自国民の幸せの守るための政策を打てなくなってしまった。(国民を守る国家の弱体化)

・グローバル企業は「新経済ビジネス・モデル」によって、過度に投資家や経営者の利益に腐心するようになってしまった。(グローバル企業の繁栄がその本社のある国や国民の発展と結びつかなくなった)

その結果、格差が拡大し、中間層が薄くなり、様々な政治的・社会的混乱を生み出しているのです。

 

新たな資本主義へ

 政治や経済といった分野では、物理学などと違い、常に新しい考えが真理であり、素晴らしいという訳ではなく、行きつ戻りつしながら歩みを続けていきます。数式で人の感情や個性、文化や風土は表せないのです。勿論、その時の環境に合わせて変化もしなければなりません。新古典派経済学新自由主義)はこれまでの数十年間、経済学の中で主流となったが故に主流派経済学と呼ばれています。しかし、今となっては余りに負の側面が大きい。タイトルにあえて「遺産」と書きましたが、改めて資本主義のあり方、経済学の主流の考え方を見直す時期にきているようです。

 そして既に、経済学の面では欧米で、政治の面では「アベノミクス」即ち日本で、その萌芽が芽生えてきているように思います。