社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.16 TPPについて ~政策と議論:両面から考える~

 

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社長の並木です。日米首脳会談が終わり、TPPに再び注目が集まり始めました。TPPは一般に知られているより広範な分野で我々の生活や職に影響を与えます。また、この報道や議論のあり方には特徴的な幾つかの問題があります。このテーマを取り上げることで、「TPP問題」と「議論や情報を見極める方法」の双方について、考えを深めるきっかけになればと思います。時事ネタに関する話ですので、本文は2013226日に書いていることを付記しておきます。

 

皆さんそれぞれの考えがあるでしょうが、私はTPP参加に反対の立場です。経済団体等の会合などでも、多勢に無勢ではありますが、反対意見やリスクの指摘をしています。

その理由は、

・メリットに比べ、デメリットになる可能性のあるものが多すぎる

※外交問題ですので、開示される情報が限られているため「可能性がある」「疑義がある」としか指摘できないのです。読みにくいと思いますがご容赦ください。

・その中に日本という国の良さを壊してしまう可能性を持つものもある

・これまでも話してきたように、自由貿易(グローバル化)が常に適しているとは限らない

といったものです。また情緒的かもしれませんが、震災や口蹄疫で苦しんだ農家・酪農家の方をこれ以上苦しめてどうするのだろうか、先達がようやく回復した関税の自主権を自ら放棄してどうするつもりだろうかという想いもあります。

 

■今回のTPP報道について

さて、TPPに関して最近の報道でビックリしたのは、突然「安倍首相、TPP参加に前向き。早期に結論。聖域が・・・云々・・・」と報じた時です。たまたま夕食中でしたので食べ物を吹き出しそうになってしまいました。思い直して、共同声明文や内外記者会見の動画を確認したところ、

共同声明文では

「(前略)日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国とも二国間貿易上のセンシティビティーが存在することを認識しつつ、両政府は、最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることから、TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する。

両政府は、TPP参加への日本のあり得べき関心についての二国間協議を継続する。(後略)」とあります。

当たり前のことですが、TPPは多国間によるものです。日米首脳会談の共同声明文で語られているのは二国間の姿勢(全ての関税撤廃を約束するものではないという前提で、二国間協議を続けていきましょう)を確認しているわけです。二国間交渉はこれまでも行われていたでしょうから、賛否はともかく、これなら理解できます。

また、記者会見で安倍総理は2度、「オバマ大統領に聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する。それ以外にも5項目を掲げて政権に復帰した(国民と約束をした)と説明した」という趣旨の発言をされています。

因みにそれは自民党の総合政策集に載っているTPP6条件というもので、

(1)    「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。

(2)    自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。

(3)    国民皆保険制度を守る。

(4)    食の安全安心の基準を守る。

(5)    国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。

(6)    政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。

6つです。メディアの報道内容とは随分印象が違います。

重要な報道があったら、多少手間と時間をかけて一次ソースにあたるというのが鉄則です。長時間(といっても15分~1時間)の情報収集は大変かもしれませんが(実は、社員からこのブログも長いと言われます(笑))、正しい情報を得る、異なる考え方を伝えるのにはそれなりの時間が必要なのです。

 

TPP議論の歪み

TPPに関しては、まず農業問題に関する議論に注意すべき点があります。

賛成派の意見では「日本の農業政策(農家保護)には問題がある」或いは「日本の農業は強くなれる」という論調のものが多いです。

農業政策に関しては確かに問題もあるでしょう。但し、それは内政の問題であり、TPPとは関係ありません。日本はこれまで良くも悪くもガイアツで変わってきたといわれますが、そのために参加するというのは動機になっておらず、これからの世代ではガイアツなどに頼らずとも正すべきは正せる政治に向かう道を論ずべきだと思います。

日本の農業が強くなれるのであればそれに越したことはありません。ただ、それが美味しい果物といった品質においての差別化であれば、食料安全保障上の問題が起こります。お米や穀類、肉などを輸入に頼った場合、相手国が大干ばつとなったり伝染病が流行ったりした際に、贅沢な果物では主食の代わりにならないからです。実際、干ばつで輸出制限などということは普通に起こっています。少なくともリーマンショック、東日本大震災尖閣といった経験をした以上、安全保障に関しては「もしも」の時を想定しなければいけません。

また、最近では「食品が安くなる」という指摘もあります。デフレとの兼ね合いや為替によって事情は変わりますが、消費者としては嬉しいことです。ただ、私はその言説をいう方々が(一貫性の面から考えて、消費者に優しい方で)消費税増税にも反対しているのだろうかという疑問を持っています。

 

■潜在的なリスク

そして、そもそもTPPは農業の問題だという矮小化が大きな問題です。自民党の6条件を読めば分かるように、或いはTPPの作業部会が24もあることから分かるように、もっと広範な問題です。

・遺伝子組み替え作物の制限やそれに関する表示義務が非関税障壁と指摘され、遺伝子組み換え食品が拡がる可能性がある

・国民皆保険や薬価基準などが問題となり、米国のように高い医療費になる可能性がある(総医療費の対GDP2010年 米国17.6%、日本9.5%:出典OECD HEALTH DATA 2012

・政府調達に関しては防災などの公共事業を外資に任せられるか、それによって地方の建設会社が少なくなって震災が起こったとき急な対応ができるのか(東日本大震災の時は地場の土木建築会社が「くしの歯作戦」を進めてくれたお陰で、自衛隊がスピーディーに現地に入ることができました)、防衛面では「武器輸出三原則」に縛られた日本企業が対等に競争できるのか、全て外国に頼った場合に国防が出来るのか、といった様々な不安が現実のものになる可能性がある

といった具合です。ネガティブリスト方式で交渉し、それ以外の項目は全て自由化といった流れですので、今回のリーマンショックの大きな原因になった金融サービスの規制緩和、労働者移動の自由化、郵貯・簡保・共済市場の開放など「リスクの可能性」は多岐にわたります。そして、私の切実な感想は「私は米国のような訴訟社会では会社経営したくありません」というものです。こう言うとよく笑われるのですが、米国は輸出に占めるサービス輸出の比率が高い国です。増えすぎた弁護士達が日本に渡ってくる可能性も否定できません。

 

議論の仕方の話に戻しますが、誰かを悪者にする(今回は農業)と、その他の人は安心だと錯覚しますし、彼らをたたくことでガス抜きにもなるでしょう。身近な例を挙げれば、誰かの欠点を指摘することで相対的に優位に立ったり、それに参加した人に仲間意識が芽生えるようなものです。品格の問題として、こういう世論の作られ方には注意し、嫌悪を感じる方が常識的だと思います。