「雑観」コラム

(株)MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.15 世界大恐慌の教訓 ~歴史に学ぶ~

 

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社長の並木です。今回は、1929年に発生した世界大恐慌と現在の世界同時不況の類似性についてお話ししてみたいと思います。改めて勉強し直してみたら、余りに似ているので驚きました。以前「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言をご紹介しましたが、「言うは易く、行うは難し」を実感します。

 

世界大恐慌も第一次グローバリズムによる世界的なバブルの果てに起こった

大恐慌の19世紀末から20世紀初頭、世界は第一次グローバル化とも言われる時代にありました。何といっても植民地政策です。貿易は盛んで、資本移動も一部では今よりも積極的だったそうです。経済学の主流は「古典派経済学」。(少々乱暴なまとめ方をすれば)市場を重視し、経済には最小限しか政府が介入しないレッセフェール(自由放任)に重きを置いている点も現代との共通点です。

当時の先進国が集中していたヨーロッパを舞台に第一次世界大戦が勃発(1914年)。グローバル化も一端沈静化するのですが、終戦後、戦場とならなかったアメリカが物資の輸出国として活況を呈し、改めてアメリカからヨーロッパへ資本の移動が盛んになりました。こうして1920年代は世界的なバブルに沸きます。

 

世界大恐慌ケインズ革命

そして起こったのが1929年ニューヨーク証券取引所における株価大暴落に端を発するバブル崩壊です。それによってアメリカの資金はヨーロッパから急速に引き揚げられ、欧州では金融危機が起こり、それが南米、そして世界へと拡がりました。今回と同様、アメリカのバブル崩壊がヨーロッパに飛び火しているのです。

アメリカの時の政権(フーバー大統領)はそれでもレッセフェールを決め込み、救済策を打たなかったため、アメリカでの失業率は25%、ドイツは40%を超えました。現在、スペインやギリシャの失業率は26%を超え、依然としてジリジリと上がっています。

他方、打開策を模索する動きも起こります。日本では高橋是清蔵相が世界に先駆けてデフレ脱却に成功、アメリカでは大統領に就任したF.ルーズベルトの下、マリナー・エクルズがニューディール政策を主導し、イギリスからは有名なジョン・メイナード・ケインズが「雇用・利子および貨幣の一般理論」を発表。「ケインズ革命」といわれる経済政策の転換の中心となりました。

三者の政策の共通点は「民間の消費や投資という有効需要が不足している時は、政府が金融緩和と公共投資などの財政出動を行い、足りない需要を補う必要がある」というもので、今のアベノミクスにもその考えは踏襲されています。

 

少し話はそれますが、アメリカはニューディール政策で立ち直ったかに見えた途端、完全に傷が癒えぬうちに財政均衡に舵を取り不況に陥ってしまいます(ルーズベルト不況)。日本がバブル崩壊後、ようやく景気回復が見られはじめた1997年に消費税増税や緊縮財政に走り、デフレ不況に突入させてしまった橋本政権は同じ轍を踏んでしまったのです。「病み上がりに少し調子が良くなったからといって直ぐに無理をしない」、これも歴史に学ぶ教訓の一つです。

 

さて、結局アメリカは第二次世界大戦の戦時需要によって持ち直し、世界の覇権国家となっていくのですが、終戦直前にブレトン・ウッズ会議が開かれ、今後の経済体制について話し合われました。

その時IMFや世界銀行の設立が決まったのですが、同時に

・自由な資本移動が進むと、一国で起きたバブル崩壊が資本の動きによって他国に連鎖してしまうため、短期の資本移動は制限する

金本位制からドルを基軸通貨とした固定相場制(金ドル本位制)に変更し、いざという時の各国の金融政策の自由度を拡げる

という主旨の合意もなされます。

 

■「新」古典派経済学の復権と第二次グローバル化、そして世界同時不況

時が過ぎ1970年代に入ると、ベトナム戦争などの独自の事情に加え、オイルショックが世界を襲い、アメリカやイギリスはインフレなのに不況というスタグフレーションに苦しみます。

そしてインフレ対策のため、1980年代に入って共に「レーガノミクスレーガン大統領:米)」「サッチャリズムサッチャー首相:英)」という経済政策を打ちます。このバックボーンとなったのがミルトン・フリードマンやジェームス・M・ブキャナン達が提唱する「新自由主義新古典派経済学)」です。

この学派は「市場原理主義」とも呼ばれ、政治と経済の領域は独立していて、市場の調整機能に任せ、政治は経済に極力介入するべきではないという立場をとりますので、ケインズ革命に対する反革命とも呼ばれます。「自由派・古典派」の復権といったところでしょうか。

それ以降、グローバル化が急速に進展し、デフレに苦しむ日本を尻目に世界各国は好況を謳歌しました。その後、リーマンショックとそれに続く世界同時不況に陥ります。

 

■歴史に学ぶ

歴史は繰り返すといいます。人間はなかなか進歩しないのかもしれません。

「自由貿易は素晴らしい」「緊縮財政をしなければならない」と固定観念を持ってしまうとそのイデオロギーに縛られて事態を鳥瞰することが出来なくなってしまいます。これはビジネスマンも同様で、自分の頭の中で勝手に物語を作って、その物語と合わない情報を排除したりしないよう注意したいものです。

 

・バブル崩壊時にはケインズの教えに従い、政府が躊躇せず必要な救済を行いつつ、公共投資などで有効需要を補う

・好況が定着し、インフレに進んだら「急ぎすぎず」適度なタイミングでインフレ対策を打つ

・過度なグローバル化(資本移動の自由)は投機的になるためバブルを作りやすく、その後主要国でバブル崩壊に陥るとパンデミックを起こしかねない

という教訓を20世紀中盤に経験していながら、我々は失敗を繰り返してしまいました。

自由というのは心地よい響きがありますが、「自らに由(わけ・よりどころ)がある」と書きます。由は「儲け」と考えるのであれば元も子もありませんが、我々は「自分が儲ける」という一点のためだけに仕事をしている訳でも、まして生活している訳でもありません。また、それだけでは企業や金融機関の社会的責任は果たせません。 

特に社会科学の分野では、主流派の意見や学説よりも、歴史に育まれた常識・分別の方が正しいことも多いのです。大勢や流行に流されず、分別をもって仕事と人生を歩んでいきたいものです。