社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.106 大義を持って、それに寄せていく ~政府と企業の役割~

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都内では満開の桜の下、入学式・入社式などが行われました。

かたや世界では、トランプ大統領が「中国が北朝鮮に対する圧力を強めなければ、アメリカが単独で行動する」という発言をした数日後、北朝鮮がまたもやミサイル発射、さらに米中首脳会談の最中に、米軍がシリアの空軍基地に59発のトマホークミサイルを撃ち込むなど、日本人にとっても他人事ではすまない危機が高まっています。

 

直前の3月末、国会では新年度予算が成立しましたが、前回のブログで書いたように森友問題一色。防衛はおろか、予算の中身についてすら十分な審議がなされたように見えません。

世界情勢と国会議論のギャップに心が冷えました。

 

防衛費の増額に賛成の人も、反対の人も、防衛費は単に軍備増強のためだけではなく、万が一日本にミサイルが撃ち込まれた時の備えにも関わるのですから、金額や使途について議論し、国民に知らしめるのが義務ではないでしょうか。

政局に偏りすぎた野党も、それを許した与党ですら、根っこの部分を勘違いしているように思えます。

 

  • デフレと平均給与

さて、今回は安全保障ではなく、日本経済や企業経営の面から「あるべき姿」を考えてみたいと思います。

 

予算は過去最大の97兆4500億円と報じられていますが、本来、予算は前年度までの予算とではなく、決算と比較すべきです。日本の場合、補正予算などで最終的な歳出額は100兆円を超えていますので、今回の当初予算だけでは依然として緊縮財政だということを押さえておく必要があります。

 

このブログで度々お伝えしているように、日本経済が抱える問題の多くは1998年以降、実に20年続いているデフレに根っこがあります。

 

デフレはバブル崩壊をキッカケに生まれます。バブル期には値上がりを見込み、借金をして株や土地を買う「投機」が増えますが、バブルが崩壊すると、株や土地の資産価値は暴落、しかし借金額は目減りしませんので、民間は借金返済に汲々とします。稼いだお金を借金返済に充ててしまうわけですから、消費や投資(株や土地ではなく、設備投資や技術開発投資・人材投資など)が減り、不景気に陥ります。

この時、通貨発行権を持った政府まで緊縮に走ると、デフレが悪化します。日本でも1990年前後のバブル崩壊後、何とか1997年までは政府が公共投資などで需要を下支えしていたため、名目GDPは成長していました。

・1990年449兆円→1997年523兆円:+16%成長

 

ところが、橋本政権が緊縮財政に舵を切った結果、日本はその後一回も1997年の名目GDPを超えていません。その間、小泉政権期に戦後最長の景気回復、最近ではアベノミクス景気が戦後3位の52ヶ月と報道されていますが、枕詞のように「実感なき」と付く由縁です。

アベノミクス景気、戦後3位の52カ月 実感乏しい回復 :日本経済新聞

デフレ期に緊縮財政・構造改革、さらにアベノミクス以前は金融引き締めという「インフレ対策」をとり続けてきた罪は本当に重いのです。

 

GDPは国内の支出や所得の合計ですから、パイが拡がらない中での競争を強いられ、勝ち組と負け組に分かれ、さらに過度のグローバリズム(=金融資本主義=株主資本主義)が席巻、アメリカ型の短期利益追求を迫られた結果、サラリーマンの平均年収も1997年水準を大きく下回っています。

サラリーマン平均年収の推移(平成26年)-年収ラボ

 

国際政治・米国金融アナリストの伊藤貫氏によれば、アメリカにおいて、

・1947年から75年:アメリカ人の平均的な労働者の労働生産性は98%上昇し、その間の実質賃金も95%アップ

であったのに対し、

・1976年から2013年:労働生産性は85%向上したが、平均給与は4%しか上がっていない

のだそうです。

『未来展望を暗闇にする進歩信仰』伊藤貫〔ワシントンD.C.在住〕 現代アメリカ―近代主義のモンスターなのか【2】TOKYOMX西部邁ゼミナール - YouTube(12:10頃)

 

労働生産性は賃金上昇の原資ともなるべきものですが、昨今の人手不足によって政財界で改めて注目が集まっています。

その際、日本の生産性は低いというのが定説で、データを見るとその通りなのですが、最近拝見した内閣官房参与藤井聡氏のメルマガにも勇気づけられ、以前から疑問に思っていたことを書いてみたいと思います。

 

日本生産性本部によるOECD加盟諸国の労働生産性のグラフ(2015年)

http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2016.pdf(3ページ)

を参照すると、確かに日本はOECD平均を下回っています。日本とG7諸国を比較すると、

・アメリカ:1.63倍

・フランス:1.35倍

・イタリア:1.31倍

・ドイツ:1.29倍

・カナダ:1.19倍

・イギリス:1.16倍

と散々なのですが、これは

労働生産性GDP÷就業者数(または就業者数×労働時間)」

の値を購買力平価で換算したものですから、分子=GDPに引きずられているのです。

 

では、日本がデフレに陥った1997年から2015年までの各国のGDP成長を上記の順で見てみると、

・アメリカ:2.10倍

・フランス:1.68倍

・イタリア:1.50倍

・ドイツ:1.54倍

・カナダ:2.19倍

・イギリス:1.99倍

であるのに対し、日本は何と0.95倍。

(データ出典:世界経済のネタ帳 世界経済のネタ帳 各国通貨建てデータを使用)

経済政策の失敗によって、労働生産性が上がりにくいのです。

余談ですが、他国の成長を見ると、「日本は先進国だから経済成長できない」という説が誤りであることもわかります。

 

藤井聡教授も、『労働生産性とGDPの「相関係数」は、実に「0.96」という、超絶に高い水準にあります。』と語り、グラフを公開していらっしゃいます。

【藤井聡】「デフレ」こそ「労働生産性」低下の元凶。生産性向上のためにも「PB制約」撤廃を! | 「新」経世済民新聞

同氏がおっしゃるように、例えば「部下の労働生産性を比べる時に、部下Aと部下Bのそれぞれが営業しているマーケットの違いを考慮せずに、単に一月間の営業成績だけに基づいて、「労働生産性」を比較」しても仕方ありません。

 

また、名目GDPは税収にも強い相関がありますから、防衛費の増加も難しい。冒頭で触れた安全保障対策不足の遠因にもなっているのです。

 

勿論、政府だけではなく、企業や勤務者にも責任の一端はありますが、言うなれば国全体のマーケット環境を良くするのが政府の役割、その環境下で生産性を上げ、顧客・社員・経営陣・株主・関係先等々のステークホルダーに対して、バランスのとれた貢献をするのが企業や働く人達の仕事です。役割が違うのですね。

 

  • 大義を持って、それに寄せていく姿勢

民間の取り組みの一例として、手前味噌で恐縮ですが当社の事業に絡めてお話しします。

 

当社はミステリー・ショッピング・リサーチを軸に、一般消費者モニターがお客様として受けたサービス内容やその時に抱いた思いを店舗にお届けし、クライアント企業がお客様満足(以下、CS)向上に向けたサービス改善を行うお手伝いをしています。

CS向上に取り組む中でスタッフのやり甲斐が高まり、それを基に様々な創意工夫と実践が生まれ、恒常的にCSが向上。結果としてお店のファンが増え、業績が上がり、その収益を更なる働きがいや生産性の向上に向けて投資するという「従業員満足の向上→顧客満足の向上→業績向上→従業員満足の向上・・・」のサイクル(このサイクルをサービス・プロフィット・チェーンと呼びます)を好転させいくことを使命として、様々な取り組みを行っています。

 

コストを掛けてこうした活動を行う企業の皆さまは、付加価値競争や生産性向上の大切さを良くご存知です。

安い価格で買えるというのは消費者にとってはメリットですが、廉価販売が賃金抑制の上に成り立っているのであれば、スタッフの働きがい向上にも限度があります。またマクロで考えた場合、殆どの消費者が生産者でもあるため国全体のパイの拡大には貢献しません。

一方、働きがいが高まれば改善意欲も増し、定着率と共にスキルも向上します。そうして付加価値や生産性を高めて賃金と利益を上昇させ、収益を人材投資・教育投資、設備投資、ITなどの技術投資に振り向ければ、将来の顧客満足や生産性にも好影響を与えます。

 

綺麗事だと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、大義を持って、できる限りそれに寄せていくという姿勢が大切なのだと思います。

 

  • 政府・国会の大義

では国家・政府の大義は何かと考えると、国民を豊かにすること(主に経済政策、特にデフレ脱却)と安全を守ること(主に安全保障政策)ではないでしょうか。

政局や財政均衡など特定の主張に偏ると、どうしても私欲が透けて見えます。私欲で目が曇れば、国民全体が見えにくくなります。

 

例えば経済政策。

日本は人口構造上、賃金が上がりやすく、(政府が移民拡大策をとらなければ)生産性向上が急務となる「人手不足」に突入しました。その中で、多くの民間企業が苦しいながらも、賃金上昇や生産性向上に向けた投資・戦略を真剣に考えています。

この時期に政府・国会も、国全体の生産性向上に向けた投資を拡大するなど、当面の需要を増やしてマーケット環境を整えると共に、将来、「人手不足がむしろ好機になった」と言えるような政策議論を戦わせて欲しいと思います。