社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.111 炎上政治 ~東京都議選と内閣支持率~

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前々回「民主主義の限界」について、前回は政治の役割の中で、一部「炎上」について触れましたが、その後の都議選での都民ファーストの圧勝、内閣支持率の急落を見ると、いよいよそれらが本格化してきたように感じます。

 

小池都知事は風を利用した側、安倍首相は逆風に晒されている側という違いはありますが、「豊洲問題」と「加計問題」に共通するのは、問題のないことが問題とされ、さらに、問題がなかったという証言・事実は無視されるということです。

 

豊洲問題に詳しいジャーナリスト:有本香氏の『「小池劇場」が日本を滅ぼす』(幻冬舎)から引用させて頂くと、

豊洲という土地に「汚染」はない。東京ガスの所有していた土地の一部には汚染が見つかったが、それはコンクリートアスファルトで封じ込める対策で十分事足りるもの。土壌汚染対策法という国の法律面でもそうであるし、環境リスク学の複数の専門家もそう述べている。

豊洲=土壌汚染のある土地、と言っているのは、この件を今さら蒸し返して政争の具にしている小池都知事、マスメディア、一部の市場移転反対派活動家らである。

なお、東京都江東区豊洲地区には現在約11万人の人が住んでおり、その人たちが被った風評被害は深刻である』(P80)

という状況ですし、加計問題に関しては前回ご紹介した通りです。

 

  • マスメディアと炎上

その中で、連日「危ない」あるいは「怪しい」という報道が展開され、国民に刷り込まれていく様を、有本氏はワイドショーが政治を動かす「ワイドショー政治」と批判しています。

 

私が驚いたのは、7月10日に行われた閉会中審査の報道が、前川前文科事務次官に偏り、同氏の文部科学省の先輩であり、実際の当事者だった加戸前愛媛県知事の「(少なくとも獣医学部の問題では)歪められていた行政が正されたというのが正しい」を始めとする証言の扱いが余りに小さく、ほぼ報道しなかったメディアもあったことです。

 

※加戸証言を知らないという方はご覧下さい。

https://www.youtube.com/watch?v=hl42tJ73So8

 

リベラル色の強いマスメディアに反安倍が多い理由は、祖父である岸信介内閣での60年安保まで遡れる根が深い問題な上、安倍首相が憲法改正に踏み込んだ影響も大きいと思うものの、国会で語られた重要証言を報道してくれなければ、いちいち自分で一次ソースに当たらなければならず、面倒くさいことこの上ありません。

 

ともあれ、『対論「炎上」日本のメカニズム』(佐藤健志藤井聡著 文春新書)の中で藤井氏が

『「炎上」では、そこに提示された「勧善懲悪の構図」や「物語」と整合しない事実や主張は「隠蔽」(抑圧&無視)される』(P77)

と語った現象が現実に起こっており、それを知ることも貴重な「学び」だと思います。

 

  • 古典に学ぶ

但し、これは今に始まったことではありません。

何と1800年代前半、トクヴィルは『アメリカのデモクラシー』の中で、『民主政治とは「多数派(の世論)による専制政治」だと断じ、その多数派世論を構築するのは新聞、今で言うところのマスコミではないかと考えた』

アレクシ・ド・トクヴィル - Wikipedia

そうですし、オルテガも1929年『大衆の反逆』(オルテガ・イ・ガセット著 神吉敬三訳 ちくま学芸文庫)で、『風のまにまに漂う浮標のような人々』(P18)が作り出す世論や炎上に警鐘をならし、世論の形成に関わりかねない専門家こそが、『自分が知らないあらゆる問題において無知者としてふるまうのではなく、そうした問題に関しても専門分野において知者である人がもっているあの傲慢さを発揮する』(P160)と指摘しています。

 

人間はいつの時代もそうは変わらないもので、炎上した結果が失敗に終わっても、また繰り返す生き物だと認識しておくことが、「賢者は歴史に学ぶ」ということなのかもしれません。

 

  • 安倍政権の失政

わざわざ火のないところに煙を立てて批判しなくても、安倍政権にも問題はたくさんあります。

例えば鳴り物入りでスタートしたアベノミクス

不思議なことにこちらは実質GDPの成長をもって「5四半期連続のプラス成長」と持ち上げられていますが、2017年1-3月期の実質GDP成長率は確かに+0.3%ながら、名目GDPは▲0.3%(共に2次速報値)。

実額(名目GDP)は減っているのに、GDPデフレーターの影響で実質GDPが増えるというデフレ型の経済成長に陥っています。

国民経済計算(GDP統計) - 内閣府

加えて、家計調査による「二人以上の世帯の実質消費」は2014年以降、延々と減り続けています。消費税増税のダメージが未だに残っているのです。

統計局ホームページ/家計調査報告(二人以上の世帯)―平成29年(2017年)5月分速報―

そして、日銀がコミットメントしたインフレ目標2%にも遠く及びません。

統計局ホームページ/消費者物価指数(CPI) 全国(最新の月次結果の概要)

インフレ目標に関しては、本来2015年度の達成を企図していたものが、直近で6度目の延期。遂に「2019年ごろ」と黒田総裁の任期中(~2018年4月)の実現すら断念しています。

2%物価目標、6度目の延期 日銀「19年度ごろ達成」:一面:中日新聞(CHUNICHI Web)

それでも政権や日銀、官僚、消費増税に賛成した知識人たちの誰も責任をとっていません。これも妙な話です。

 

こうした事実・データに基づいた批判であれば、1997年のデフレ突入以来、「構造改革」はずっと叫ばれてきた、黒田日銀によって異次元の「金融緩和」も行われた、にも関わらずデフレ脱却を果たせない。となれば、政府が需要をつくる「積極財政」という選択肢がクローズアップされ、問題解決に向かう可能性も生まれます。

しかし「破壊的な炎上」ではその後の展望がみえません。

 

  • 政治・まつりごとの目的

佐藤健志氏は、

『政治の目的は国民全体に協力や統合をもたらすことですが、破壊的な炎上は分断や排除を前面に押し出すことで成り立つ。炎上政治は、統治の邪道とも言うべきものであり、本質的に自滅への道なのです』(『対論「炎上」日本のメカニズム』P189)と、

青山繁晴氏は、

『(十七条憲法の)「和を以て貴しとなす」は、みんなでなぁなぁでやれと誤解している人もいるけれど全くその逆さまで、それぞれの意見は全部一端正しいとせよ。その上で多数決で決めるんじゃなくて、独裁者が決めるんじゃなくて、一致できる点を探しましょう。それが日本語で言う政(まつりごと)。政というのは非常に奥の深い言葉ですよね。それは宮中祭祀とも響き合って「祈り」にも通じている。その政とは「人の為に生きる」。僕がいつも申している通り、自分のために生きるんだったら、何をやっても最後は死ぬだけですから命は空しい。でも人の為に生きる、人の為に生きているからこそ、それぞれの意見を尊重できる。』

【青山繁晴】イジメの国家的背景・防大生の任官拒否問題[桜H29/7/14] - YouTube (15分15秒頃~)

と語っています。

 

何となしの不満・不信を燃料にした炎上は、一時的に溜飲を下げる効果はあるものの、分断によってその後の施政が混乱する可能性が高まります。

それでも東京都は、既に豊洲移転の遅れなどで計画通りのインフラ整備が危ぶまれている東京オリンピックを開催しなければなりませんし、

日本国は憲法を変えるにせよ変えないにせよ、中国の領海侵入北朝鮮のミサイル発射が続く中、国民と国家の安全を確保するための施策を実行し、国民を貧困化させるデフレからもいい加減脱却しなければなりません。

 

一端燃えさかった「炎上」は、人は誰しもこれまでの感情・発言に引っ張られますから、鎮火させるのは難しいものの、24-25日に行われる閉会中審査で、安倍首相自らが説明されるようですから、加計学園の件はそれに関心を持つとして、

衆院予算委、24日に閉会中審査=安倍首相出席、参院は25日-和泉氏招致も:時事ドットコム

安全保障・デフレ脱却・オリンピックなどの重要な問題に関しては、政治家ひいては彼らを選ぶ我々が、

前回ご紹介した「単一の徳の過剰は不徳に転ずる。相矛盾する徳の間でのバランスを保つことが人間および社会の仕事である」と認識し、

感情を「情念」に暴走させず、理性を「屁理屈」に堕することなく、両者の間にある「良識」に基づいて考え、行動していくしかないのだと思います。