社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.126 ナショナリズムと日本(後編)

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前回に続いて、ナショナリズムと日本のあり方について考えたいと思います。

前回、戦後日本では「ナショナリズム」の議論自体が忌避されてきたと書きましたが、グローバリズムが、その傾向を加速させました。

 

九州大学准教授の施光恒(せ・てるひさ)氏が、近著『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)の中で、

『日本的なものに負の価値が付与された近年の大きな動向と言えば、1990年代のバブル経済の破裂、およびそれに続く構造改革である。

戦後、高度経済成長を経験した日本は、90年代前半までは、「経済一流、政治三流」としばしば言われ、経済面に関しては、多くの日本人が一応の自信を抱いていた。』

しかし、試行錯誤の中で生み出してきた「日本型経営」「日本型資本主義」が、

『知的、理論的裏付けが不十分だった分、日本経済が不況に陥ると、その原因を日本型経営や日本型資本主義に求める声が大きくなった。』(引用・参照 P144-145)

と書いているように、それまで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(日本的経営を高く評価した社会学エズラ・ヴォーゲルのベストセラー)と礼賛していた世論が、急激にグローバル・スタンダードに傾き、特に橋本龍太郎政権以降、グローバル・スタンダードを是とした構造改革によって、日本的なものは叩かれ続けます。

 

  • ネーション対ステート

表現者クライテリオン』7月号の特集「ナショナリズムとは何か~「右」と「左」を超えて」の対談の中で、心に刺さった発言の二つ目は、内閣官房参与藤井聡氏によるものです。

『デフレ、安全保障、社会保障、あるいはグローバリズムへの対峙等という問題の全体を考えていく上でナショナリズムが重要ではないかと思われるわけですが、このネーションの力を発揮することを「阻害」するものとして「緊縮主義」というものもある。この「緊縮主義」というのは、煎じ詰めて言うと国や国民の全体を意味する「ネーション」ではなくて、あくまでもそのための統治機構=政府としての「ステート」というものを重視することで自ずと採用されるものです。それは、ネーションを重視すれば政府=ステートが汗をかいて借金をしてでも様々な事業を行いますが、ステートを重視してネーションを軽視すれば、ステートの「財布」ばかりに気を取られて、国民がどれだけ苦しもうが関知せずに「緊縮」に走ることになるからです。』(同書P29)

災害が起こる度に、対策が叫ばれながら遅々として進まないのはネーションの軽視に他なりません。

 

前回、「適正なナショナリズムがあっても、主権(意識)がなければ機能しない」という問題を考えましたが、国民の生活から政府が目を背けた状態でも、「国の借金1千兆円」「グローバリズムは歴史の必然」という偏った情報によって、適切な国民感情を芽生えさせない場合にも、適正な方向にナショナリズムは機能しないということです。

奇しくも構造改革を続けた期間は、そのまま「失われた20年」になり、最近では「衰退途上国」という言葉も生まれるほど、閉塞感は増すばかりです。

 

折りしも7月6日、報復関税の応酬によって米中貿易戦争が本格化しました。今後、グローバリズムの変化が目に見えるようになるでしょう。

米中が追加関税の応酬、貿易摩擦長期化に懸念も | ロイター

今やらなければやられる… 米中報復合戦、さらに激化へ:朝日新聞デジタル

保護主義に勝者はいない」と一方的に構えるのではなく、その中でどのような政策が日本の将来に資するかを考えることが重要です。

 

そもそも、少し前の歴史を紐解くだけで、我が国が当事者となった類例が見つかります。1980年代~90年代前半の日米貿易摩擦です。

 

レーガノミクスによる大減税によって米国経済は急成長。

しかし、国内経済の空洞化が始まっていた米国では、急増した需要を国内企業で賄うことが出来ず、大幅な輸入超過につながって、財政赤字貿易赤字の「双子の赤字」に苦しみます。

今回、トランプ大統領が貿易戦争と並行し、国内生産強化を謳っているのは、この反省を踏まえているのでしょう。

 

当時、輸出超過国の代表格であった日本に対し、ジャパンバッシングが始まり、プラザ合意による急激な円高、報復関税、輸出自主規制、日米構造協議などを経験しました。

こうした「戦略的貿易政策」と言われる、有り体に言えば自国に有利な外国の反応を、様々な手段を使って引き出す政策が推進されたことで、

戦略的貿易政策 | 時事用語事典 | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス

米国発の輸入超過なのに、いつの間にか日本の市場が閉鎖的なのが悪いとされ、構造改革にもつながっていきます。

 

その後、日本は現地生産などを促進して輸出超過の解消に努める一方、アメリカは、金融とインターネットで有利な状況を生み出し、企業献金の上限撤廃などによるグローバル資本の影響力の高まりもあって、グローバリズムに舵を切ったのですから、先祖返りしただけ。あるいは国益に合った政策を、少々エゴイスティックに推進しているだけです。

 

トランプ大統領から仕掛けたこともあって、中国を自由貿易の旗手のように持ち上げる報道もありますが、中国もエゴでは負けていません。

 

以前、株価が暴落した時に、あからさまに政府が介入していましたし、中国が不正に得た知財を、国家主導で経済及び軍事技術に利用しているという懸念は以前からあります。

最近では、国有企業は勿論、外資を含めた民間企業にも共産党政府が、手を入れようとしています。

中国企業に広がる「共産党支配」 3200社へ明文化を要求 - 産経ニュース

また他国に対しては「一帯一路」「真珠の首飾り」戦略の名のもと、ジブチに海外軍事基地を建設したり、スリランカが陥ったように、高額高金利の“借金のカタ”に99年間インフラの譲渡を強いるという帝国主義的な政策を推し進めています。

中国は軍事基地を世界に建設の公算、米国と利害衝突も-米情報当局者 - Bloomberg

スリランカの港に中国旗 99年間譲渡「一帯一路」債務重く“借金のカタ”に奪われる(1/2ページ) - 産経ニュース

「債務の罠」外交でアジアを蝕む中国の「一帯一路」|BIGLOBEニュース

 

国益国益ナショナリズム同士がぶつかるのが外交、国際社会なのです。

 

  • 下村治氏の30年前の卓見

ジャパンバッシング当時の経済学者で所得倍増計画も支えた下村治氏は、著書『日本は悪くない 悪いのはアメリカだ』(文春文庫:初版は1987年ネスコ刊)の中で、自国の責任を認めず、一方的に責任を日本に押しつけてくる米国。「日本も悪いんだから・・・」とそれに従う日本の有識者を批判しながらも、

自由貿易というのは、そういう国際経済の中で選択できる一つの選択肢にすぎない。決して、自由貿易にさえすれば世界経済がうまくいくというものではない。

ましてや、自由貿易のために政治経済が存在するのでは決してない。それなのに、あたかも自由貿易が人類最高の知恵であり宝であり、犯すべからざる神聖な領域であるかのように言うのは、一体どういう思考の仕方をしているのだろうか。

むしろ、敢えて言うなら保護主義こそ国際経済の基本ではないだろうか。まず自国の経済を確立するには弱い部分を保護する必要がある』(P104)

 

そして、藤井氏の発言とも通じるのですが、

『本当の意味での国民経済とは何であろうか。それは、日本で言うと、この日本列島で生活している一億二千万人が、どうやって食べどうやって生きて行くかという問題である。この一億二千万人は日本列島で生活するという運命から逃れることはできない。そういう前提で生きている。中には外国に脱出する者があっても、それは例外的である。全員がこの四つの島で生涯を過ごす運命にある。

その一億二千万人が、どうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である。』(P95)

と語っています。

 

政治・経済・安全保障それぞれ、これまでの枠組みが崩れていっています。

「緊縮主義」にも「自由貿易」にも幻想を抱かず、国民を安全かつ豊かにするための適正なナショナリズムを機能させなければ、本当に日本は「衰退途上国」になりかねません。