社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.113 GDP速報と経済対策

f:id:msandc:20170828160653j:plain

  • 4-6月期名目GDP4.6%成長(年率換算)

8月14日に発表された4-6月期のGDP一次速報は、

「物価変動の影響を除いた実質ベースで前期比1.0%増、年率換算で4.0%増だった。プラス成長は6四半期連続。」

「生活実感に近い名目GDPは1.1%増、年率換算で4.6%増」

と明るい兆しを見せました。

実質GDP、年4.0%増 4~6月期 内需けん引 : J-CAST会社ウォッチ

 

それを受けて茂木経済再生担当相が

「率直にいい数字だと思っている」「内需主導の経済成長が続くように万全の対応をしていきたい」

とおっしゃった事には同感ですが、その後の

「現段階で具体的に新たな経済対策は想定していない」

となると話は別です。

GDP「率直にいい数字」と茂木再生相、新たな経済対策想定せず | ロイター

今回は、その理由から考えてみたいと思います。

 

  • 経済対策が必要な理由

まず第一に、GDPの成長要因を見てみましょう。

新聞等では実質GDPが使われることが多いですが、実額である名目GDPを見ていきます。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/gaiyou/pdf/main_1.pdf

こちらの13ページに名目GDP(季節調整系列)の対前期比成長率がまとまっています。(実質で見たい方は11ページ)

それによると、成長率の高い方から
・公的固定資本形成5.3%(年率換算22.9%、以下同じ)
・民間企業設備2.9%(12.2%)
・民間住宅1.5%(6.3%)
・民間最終消費支出0.8%(3.4%)
となっています。

もともとの額が違いますから、金額で見れば「民間最終消費支出」「民間企業設備」「公的固定資本形成」の順、この三つを合算するとGDP増額分(季節調整系列)を上回ります。


2016年度補正予算の執行による公共投資(公的固定資本形成)の増額が、消費や投資に与えた影響は測定されていませんが、成長エンジンとなったことは明らかです。

 

次にGDPデフレーター消費者物価指数を見てみましょう。

今回修正された2017年1-3月期(前四半期)のGDP成長率は実質0.4%、名目0%でした。

実質GDPの方が、名目GDP成長率より大きくなっている時は、GDPデフレーターがマイナス、デフレ傾向だったということです。

4-6月期のGDPデフレーターは、前期比では+0.2%と僅かながらプラスではあるものの、前年同期比は▲0.4%、決して誇れる数値ではありません。

前年同期比のGDPデフレーターは4四半期連続のマイナスですので、デフレ脱却には力不足の数値なのです。

統計表一覧(2017年4-6月期 1次速報値) - 内閣府

 

消費者物価指数も、生鮮食品を除いたコアCPI(日銀が指標としている数値)で0.5%、エネルギーも除いたコアコアCPIでは0.1%と、インフレターゲット2%とは程遠い状況が続いています。

統計局ホームページ/消費者物価指数(CPI) 全国(最新の月次結果の概要)

 

さらに拙いことに、総務省統計局による家計調査(8月29日公表)の「二人以上の世帯の消費支出(実質)」をみると、消費税を増税した2014年以降、対前年同期比で延々とマイナスが続き、6月だけ+2.3%。速報値では7月も▲0.2%に落ち込んでいます。

統計局ホームページ/家計調査報告(二人以上の世帯)―平成29年(2017年)7月分速報―

公共投資の効果なのか、ボーナス消費が多かったのかわかりませんが、決して「経済対策を打つ必要がない」と構えるほど、良好な環境ではありません。

 

  • デフレなのに人手不足

アベノミクスが成功しているか否か、評価は分かれますが、「幸運」であることは確かです。

その理由は「デフレ(不況)なのに人手不足」。こういう状況は過去存在したのでしょうか。

 

雇用の改善こそがアベノミクスの成果だという方もいらっしゃいますが、それは過大評価。同志社大学の服部茂幸教授は、日本の「延べ就業時間」は増えていないとおっしゃっているそうです。

【島倉原】アベノミクスの虚構 | 「新」経世済民新聞

気になって厚労省の毎月勤労統計調査で調べてみると、2013年の労働時間指数100.7(2015年を100として)に対して、今年の1~6月は92.6~103.2、単純平均すると98.9です。

毎月勤労統計調査 平成29年6月分結果確報|厚生労働省(時系列第2表)

 

一方有効求人倍率はバブル期超え。当時を知る人間としては、とてもそんな好景気には思えません。

求人倍率74年2月以来の高水準 | 2017/8/29(火) 12:59 - Yahoo!ニュース

金融緩和の貢献もありますが、最も大きな理由は日本の人口構造、人口ピラミッドにあります。

人口ピラミッド - Wikipedia

一目見て、労働市場から退出していく60代の人口が、20歳前後を迎える人達よりも多いことがわかります。仮に、来年から少子化が解消されたとしても、この傾向は向こう20年間続きます。


「デフレ=需要不足」+「人手不足=賃金上昇が起こりやすい」というのは、企業にとって双方が利益圧迫要因となり厳しい環境ですが、日本経済がデフレ脱却を果たすためには好機です。

 

日本は人口減少によって成長できないとよく言われますが、総務省による人口推計(3月1日現在:確定値)では、前年同月に比べ
・総需要に影響を及ぼす総人口の減少が▲19.3万人、▲0.15%であるのに対し、
・供給力に影響を及ぼす15~64歳人口はそれを上回る▲62.9万人、▲0.82%

統計局ホームページ/人口推計(平成29年(2017年)3月確定値,平成29年8月概算値) (2017年8月21日公表)

ですから、人口減少はデフレの正体どころか、需要以上に供給力が減る=デフレ脱却のキッカケになり得ます。


これを奇貨と出来るか否かが、日本経済の分かれ道だと思います。

 

  • 必要なのは「生産性向上」と「政府の積極財政」

経済評論家の三橋貴明氏が主張されているように、安倍政権が傾斜している移民の拡大で供給力不足を補おうとすれば、賃金上昇にブレーキがかかってしまう上、欧州のように治安の悪化も抱え込みます。

高度成長期そうだったように、生産性向上で乗り切ることが給与アップと利益向上を両立させる鍵です。

 

であるにも関わらず、本来、利益(≒プライマリーバランス)が目的ではない筈の政府が、

・物流や移動時間の効率化、地方の活性化等につながるインフラ投資

・生産性向上と新しいマーケットの創造につながる技術開発投資

・将来の国民の能力向上につながる教育投資

を拡大しないのは、民間に頼り過ぎというか、理由がわかりません。例えばインターネットにせよ、GPSにせよ、もともとはアメリカ政府の投資から生まれたものです。

本来は、それぞれ票にもつながる政策だと思うのですが、国民が長いデフレによって政府の緊縮に拍手を送るようになったからでしょうか、、、

 

唯一、積極的と思われる「教育の無償化」についても、財源として「こども保険」などが持ち出される始末。これと「プライマリーバランス(PB)黒字化目標」がセットになれば、その他の投資が削減されてしまいます。

 

将来に資産が残るインフラ投資は勿論、将来の生産性や経済環境の向上につながる投資は「将来世代にツケを回す」のではなく、「将来世代に対する義務」であり「将来世代へのプレゼント」である上、家計や企業と違って政府の投資は、直近の名目GDPの引き上げにもつながり、税収増さえもたらすのです。

デフレ下で「PB黒字化」を旗印に緊縮を続ければ、負のスパイラルから抜け出せませんが、名目GDPが数年間、今回のGDP速報のように年率4%成長すれば、政府債務の対GDP比は確実に下がります。こちらの方が、PBよりも余程重要です。

 

前々回の原稿で、データに基づいた安倍政権の経済政策に対する批判であれば、
『1997年のデフレ突入以来、「構造改革」はずっと叫ばれてきた、黒田日銀によって異次元の「金融緩和」も行われた、にも関わらずデフレ脱却を果たせない。となれば、政府が需要をつくる「積極財政」という選択肢がクローズアップされ、問題解決に向かう可能性も生まれます』

と書きましたが、実はそう簡単ではありません。


アベノミクスも2014年以降は緊縮財政(消費増税は緊縮策です)、来年行われる自民党総裁選で対立候補として名前が挙がっている方も緊縮財政派。
新たに民進党代表となった前原氏も「中福祉中負担」の前提として「増税などの負担増」を上げています。

なぜか緊縮財政を好む政治家ばかりなのです。

 

一方で自民党の二回生議員を中心に、PB黒字化目標の撤回や財政出動を求める動きも生まれています。

自民当選2回生がPB黒字化と消費税率引き上げ凍結求める提言 - 産経ニュース

 

前回、「報道しない自由」の問題に触れて、

『民意には力があり、とはいえ受け身で見聞きする情報だけを鵜呑みにできない。

となれば、少しでも多くの国民が積極的に情報を調べ、考えるしかないということになります。』

と書きましたが、経済政策においても同様です。

 

政治家が民意を気にする以上、国民が「どんな経済環境下でも小さな政府が正しい」という机上の空論より、「デフレ下で家計は節約を余儀なくされるものの、政府はデフレ脱却のため、積極的に需要を創り、民間の所得を拡大する財政拡大が必要だ」という、昭和恐慌で高橋是清蔵相、世界恐慌でマリナー・エクルズFRB議長、そしてケインズが打ち立てた「常識」を取り戻す必要がありそうです。