社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.124 イデオロギーを超えられるか ~その2:緊縮財政とPB黒字化

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北朝鮮問題・米中貿易戦争・シリア攻撃と国際情勢は激動していますが、日本の国会は相変わらずのモリカケと官僚不祥事に終始しています。

今日取り上げる緊縮財政をはじめ、私も安倍政権への異論は幾つもあります。また、倒閣運動もそれを阻止するのも政治力ですから仕方のない面はあるものの、第一次安倍政権が「憲法改正国民投票法」制定に動いた際に起きた、「消えた年金問題」や「絆創膏大臣騒ぎ」のデジャブを覚えます。

日米首脳会談でトランプ大統領が安倍首相との信頼関係を強調し、米朝首脳会談で「拉致問題を提起する」と明言した現在、国益を考えると、安倍叩きよりも、問題に優先順位を付け、どのように変えていくかに議論が移っていくことを願うばかりです。

【日米首脳会談】共同記者会見(1) トランプ大統領「拉致被害者が日本に帰れることをシンゾーに約束」(2/10ページ) - 産経ニュース(特に2~4ページ)

 

  • 各国の名目GDP成長率

さて、6月に政府が策定する「骨太の方針」からプライマリーバランス(PB)黒字化目標を外せるか否かも、経済成長という国益を左右することから、前回に続いて緊縮財政イデオロギーについて考えてみたいと思います。

 

まず、内閣官房参与藤井聡氏が、講演に使われたデータをご紹介します。

世界最悪の経済政策【CGS 神谷宗幣 藤井聡 特別編 その1】 - YouTube

1995年~2015年の期間、世界各国の名目GDP成長率ランキングを(おそらく)ドル建てで示されたものです。

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一番成長率の高い国はカタールで+1,900%超(20倍!)、二位は中国で+1,400%超。

ずっと右に来て世界平均は+139%。

ワースト二位がドイツの+30%、残念ながら最下位が日本で▲20%です。

※ドル建ての各国のGDPはこちらで確認できます。

世界の名目GDP 国別ランキング・推移(IMF) - Global Note

 

ドル建てですから、為替の影響を受けます。

実際、ドル円相場は1ドルが1995年:約94円→2015年:約121円と円安が進んでいるのですが、だから大丈夫という訳にはいきません。

USドル/円の為替レートの推移 - 世界経済のネタ帳

以前、ほぼ同時期(1997年~2015年)の各国通貨建ての名目GDP成長率をご紹介しましたが、ドイツの1.54倍に対し、日本は0.95倍でした。

Vol.106 大義を持って、それに寄せていく ~政府と企業の役割~ - 社長の「雑観」コラム

因みにランキングワースト三位でギリシャショックを引き起こしたギリシャでさえ、1995年931億ユーロ→2015年1,763億ユーロと1.89倍になっています。

ギリシャのGDPの推移 - 世界経済のネタ帳

 

藤井氏の講演タイトル「世界最低の成長率を導いた世界最悪の経済政策」は冗談ではないのです。

その結果、藤井氏をはじめ何人かが指摘しているように、世界の名目GDPに占める日本のシェアは1995年の17%台から2014~5年には6%弱に凋落、1世帯当たりの平均所得は1994年(平成6年)の664.2万円から2015年(平成27年)545.8万円へと118万円減少しました。

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf

 

「将来世代にツケを回している」わけですが、原因は放漫財政ではなく、デフレの放置。

デフレ下でも緊縮財政(=増税+政府支出の削減)を続けるという主流派経済学のイデオロギーであり、政府と家計を同一視した「収入よりも支出が多いのは不健全」、即ちPB黒字化にこだわる空気だと考えています。

 

藤井氏が講演で以下の図を使って指摘しているように、財政再建を標榜した1997年の消費増税によってデフレに陥り、デフレが経済成長を阻害したため、逆に赤字国債が急増するという愚を続けています。

 

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最近読んだ『ダーウィン・エコノミー』(ロバート・H・フランク著 若林茂樹訳 日本経済新聞出版社)から引用しましょう。

大恐慌時代にジョン・メイナード・ケインズが説明したように、泥沼に陥った経済の低迷が自力で急回復することはない。ケインズによれば、消費者は債務を負い、まだ職があるとしてもその職を失うかもしれない恐怖に囚われているから、経済回復を先導することはできない。同様に、企業の設備投資が回復のきっかけとなることもない。多くの企業がすでに需要を上回る過剰な生産設備を保有しているからだ。つまり政府だけが、人々の雇用を生み出すのに十分な需要を喚起する動機と能力をもっている』(同書P18)

日本は最近、生産年齢人口の減少、安倍政権に好意的に書けばアベノミクス効果(日本が経済成長軌道に戻るのなら手柄は誰のものでも結構です)で求人倍率が高騰、失業への不安は薄らいでいるでしょうが、ベテランが退職し、若者や非正規雇用、安倍政権に批判的に書けば「安価な労働力」としての移民(外国人労働者)が増える構造で、実質賃金は減少を続けているため、直ぐにデフレ脱却のエンジンとなるには厳しい状況です。

 

『現在では、深刻な不況にはケインズのアプローチが効果的であるとほとんどの経済学者が考えている』(同書P87)

残念ながら、少なくとも日本では多くの経済学者が消費増税に賛成しました。

 

『政府による景気刺激策に反対する理由は、つまるところ以下のような衝撃的な主張である。政府がいま借金で支出を増やすと、消費者はそのツケは将来の税負担になると考え、いま消費しなくなる。消費減は政府支出の増加分と相殺され、景気刺激策の効果がなくなる。

このような主張をするから、経済学者は心理学者から「IQは高いが無知」と言われるのだ。不確実な将来の税負担に備えていまの消費を控える人たちは、いるのかもしれない。しかし、あなたが本当にそんな人を1人でも知っているとは考えにくい。行動経済学者が何十年も言っているように、人はそのように行動しない。』(同書P87)

日本の場合は、過去20年間デフレによって所得が減少、マスメディアが財政赤字を煽り、政治が消費増税を約束したままですから、実質賃金の減少や将来不安から消費を抑える人も相当数いらっしゃるでしょう。

しかしそれは、景気刺激策が無効化されるということではなく、長期デフレを経験していない国以上に、消費増税凍結や積極的な投資を政府が約束・実行しないとデフレマインドを転換させられないということです。

 

前回、ジョーン・ロビンソン氏の有名な言葉「経済学を学ぶ目的は、経済学者にだまされないようにするためである」を紹介しましたが、ダニ・ロドリック氏は『エコノミクス・ルール』(柴山桂太・大川良文訳 白水社)で同旨のことを言っています。

曰く、経済学には多種多様なモデルがある。モデルとは経済学者が世界を理解するために用いる抽象的な枠組であり、数学的手法を用いるのが一般的で、『経済学の強みでありアキレス腱でもある。』

『経済学のモデルは、現実社会が変化していくのに合わせて多様にならざるを得ない。異なる社会状況では、異なるモデルを使う必要がある。経済学者が普遍的で万能なモデルを発見するなど絶対にありえないことだ。

しかし、自然科学を模範としているところにも理由の一端があるのだろうが、経済学者はモデルを誤って用いる傾向がある。あるモデルを唯一の・・・モデルとして、どんな状況にあっても関連づけたり適用したりする間違いを犯しやすいのだ。』(同書P14-15を参照・引用)

 

デフレ脱却のためには、インフレ対策に主眼を置く主流派経済学ではなく、ケインズ的な有効需要拡大策の方が効果的なモデルだと言うことでしょう。

 

日本には多くの国が持っていない利点があります。

一つに、国債が100%円建てであるため、デフォルトしようがないこと。

二つに、国債が超低金利=人気があるため新規発行しても引き受け手に困らないこと。

三つに、異次元の金融緩和によって統合政府(政府+日銀)で考えれば、財政状況を示す本来の指標「政府債務対GDP比」は改善を続けていること。

四つに、人手不足によって今後の賃金上昇が起こりやすいこと。

などです。

 

低成長+緊縮財政イデオロギーが続けば、多くの人が豊かになれない上、社会保障を削る動きもありますから格差が広がり、

ケアプランの自己負担、経団連も提言 要介護度に応じた負担の導入も

財務省が年金支給68歳開始案=高齢化対策で審議会に提示-実現には曲折も:時事ドットコム

子供世代の貧困化も進む、予算縮小で安全保障も脆弱になる等の悪影響が生まれますので、本来、景気刺激策による経済成長は、多くの国民が一致しやすい方向の筈。加えて、内需を増やすと他国からの輸入も増えるので国際的合意も得やすい政策です。

 

骨太の方針」に向けて、様々なモデルを認識した上で、どのモデルが今の日本に適しているか・・・

政治家や官僚が考えるのは勿論ですが、彼らが間違った選択をしないよう、主権者である我々も学ぶ必要があります。