社長の「雑観」コラム

MS&Consulting社長、並木昭憲のブログです。 未来を担うビジネスマンや学生の方々に向けて、 政治・経済・社会・経営などをテーマに書き進めています。

Vol.109 女性宮家と民主主義の限界

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前回は、プライマリー・バランス黒字化目標を「変えるべきだ」という話をしました。今回は「変えるべきでない」ことから始めたいと思います。

 

天皇陛下のご譲位に関する特例法案(※法案名では退位)が成立しました。

特例法には賛成なのですが、同時に衆参両院の委員会で「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等の検討」を求める付帯決議まで採択されました。

天皇退位、特例法が成立 一代限り退位容認 :日本経済新聞

付帯決議は法的拘束力を持たないが故に、本会議では採決されないのですね。 

 

さて、女性宮家については民進党:野田幹事長が、総理だった時代から熱心に進めていましたが、安倍首相は常に「女性・女系天皇の即位につながりかねない」として否定的だった筈です。

女性宮家 - Wikipedia

 

以前も書きましたが、女性天皇女系天皇は全く別のものです。
過去、推古天皇をはじめ何人かの「女性天皇」は存在しましたが、「女系(ないし母系)天皇」、即ち女性皇族が一般男性と結婚して生まれた子供が(男性であれ女性であれ)、皇位を継承したことはありません。

遺伝子の中の性別を決める染色体は、男性がXY、女性がXXですので、男系(父系)天皇と皇后の間に生まれた男子は必ず、父親のY遺伝子を受け継ぎます。それ故、Y遺伝子を遡れば神武天皇まで行き着くことができるのです。

女性天皇の場合は先代天皇のX遺伝子を継承しますが、その次の女系天皇になるとわかりません。
その為、過去の女性天皇は、独身または未亡人のまま終えるというご不自由をされてまで、万世一系の皇室を紡いでいたのです。

Vol.95 日本人とアイデンティティー ~皇室のご存在~ - 社長の「雑観」コラム

 

因みに、弟殿下の薨去(こうきょ)による継承者不在で、桂宮淑子内親王殿下が女性宮家の当主となった唯一の例がありますが、同様に生涯独身を通されました。

桂宮淑子内親王 - Wikipedia

 

つまり、女性宮家を創設しても安定的な皇位継承にはつながらないのです。

にも関わらず、ご譲位の法案成立のタイミングで、眞子内親王殿下のご婚約がスクープされ、女性宮家の議論が再燃したため、女系天皇に向けたサラミスライス戦略の一歩か?という懸念が生まれるわけです。

悠仁親王殿下の継承者が心配であれば、時間はあるのですから、占領下にGHQの指令によって皇籍離脱することになった旧宮家の方々に復帰して頂く方が正道でしょう。

 

また、一部の方が「女性差別ではないか」と発言されていますが、女性は誰でも皇后や皇太子妃などになり得ることを考えれば、むしろ皇室は一般男性よりも女性に開かれています。

別次元の問題として、これが神武天皇即位以来2677年続く、皇室および日本の伝統と理解すべきでしょう。

以前ご紹介したイギリスの保守思想家チェスタトンによる「死者の民主主義」の文脈、つまり、

『伝統とは、(中略)我らが祖先に、投票権を与えることを意味する。死者の民主主義なのだ。単にたまたま今生きて動いてるというだけで、今の人間が投票権を独占するなどというのは、生者の傲慢な寡頭政治以外の何ものでもない。』

http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp-content/uploads/2013/09/democ.pdf

という姿勢が大切です。


プライマリー・バランス目標は、破棄して積極的な財政出動を進めれば、取り返しが効きます。しかし、女系天皇を認めてしまえば「日本本来の皇室」は二度と戻りません。
幾多の先祖が大切に護ってきた皇室を、今を生きる我々の「ちょっとした気分」で変えてはいけないのです。

 

  • 肝心なことが議論されない?

法的拘束力のない付帯決議にしたことと、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等の検討」と「、」によって皇位継承女性宮家を分けているようにも読めることから、政権側は分かっているのだと思いますが、それだけに「一番大事なことが議論されない」という民主主義に内在する問題があぶり出されます。

 

民進党が審議拒否をちらつかせたことによって、今回の付帯決議が決まりました。

我々は「審議拒否」という言葉に慣れっこになっていますが、こちらは完全なサラミスライス戦略である中国の領海侵犯や北朝鮮のミサイル発射同様、慣れっこ=慣れて特別のことと感じなくなってはいけません。

 

国会議員は、国のために議論するのが仕事であるにも関わらず、その場につくのに「条件」をつけたのです。

一方、与党は民意によって衆参共に過半数議席を持っているにも関わらず、民進党共産党に必要以上の譲歩した格好です。

その結果、我々国民は「女性宮家」にはどういう意味やリスクがあるのか、将来の「安定的な皇位継承」の為にはどのような方法があるのか、といった情報を得られないまま、物事が進んでいきます。

 

この種のことが最近目立ちます。

 

野党側は、森友・加計問題に熱心です。追求するなとは言いませんが、北朝鮮危機を放ったらかしにして時間を費やした森友問題に、司法がどう対応しているのかは報じられません。同様に、安保法制を「戦争法」、テロ等準備罪を「共謀罪」と呼び、実効性よりも「安倍政権は危なくて怪しい」という印象操作を優先しているように感じます。

例えば、テロ等準備罪の処罰対象になるのは、

① 犯罪組織に参加し、
② その組織が二人以上でテロや重大犯罪を計画し、
③ 実行するための「資金準備」「爆弾等の材料の調達」「現場の下見」などを行った

場合だと何割の人が知っているでしょう。「上司への愚痴」や「花見の下見」との違いは①だけで十分でしょう。

 

一方の政権与党側も、安保法制の際に「このケースは存立危機事態にあたるか否か」の説明を繰り返し、中国や北朝鮮リスクをなかなか俎上に載せませんでした。

その結果、在外邦人の保護については、

① 現地で戦闘行為が行われていないこと
② 相手国等の同意があること
③ 相手国等との連携・協力ができること

が条件になっているため、半島有事の際に、自衛隊が行うべき拉致被害者の保護・救出が制限されかねません。拉致問題に最も積極的と言われる安倍政権でもこの状態です。

http://www.cas.go.jp/jp/houan/150515_1/siryou1.pdf:4ページ目

 

  • 民主主義に内在する問題

京都大学名誉教授:佐伯啓思氏は、著書『さらば、民主主義』(朝日新書)の中で

『民主主義というのは、基本的な前提として、100人いれば100人の意見をみんな平等に尊重する、という。つまり徹底した「相対主義」なのです。<中略>

つまりどの意見が正しいかは決められないし、もっといえば「正しさ」が問われることもない。その都度の投票結果だけが大事だということになる。』

『民主主義が相対主義に基づくとすれば、民主政治にできることは基本的に利害調整だけです。価値についての議論をしないのですから、異なる思想や世界観を調停することも不可能です。』

『すると、民主主義は基本的に人気投票ですから、議会での話題はどんどんわかりやすいものへと矮小化します。<中略>国家の舵取りに関わる大きなビジョンでの争いはできず、<中略>各論が中心となる。

それならまだしも、政治家のスキャンダルや、政治とカネをめぐる話に時間を費やすことになるでしょう。』(同書P118-122)

と語っています。

 

  • 答えのない問題

こうして、双方が重要な問題に正面から向き合わないという現象が生まれます。
これが厄介なのは、民主主義に「内在している」ため、処方箋がないことです。

 

本来、議論というのは、それを壊そうとする輩が混じっているだけで成り立ちません。過半の人が真摯に問題や対策を語ろうとしても、誰かが他者の意見に耳を貸さず、自説のみを叫び続ければ、話し合いにならないからです。

最近の国会で顕著ですが、世界観の違う人同士では尚更です。

すると、正しい情報の発信も含めた、善きものを生み出す努力よりも、安易な妥協に走ることになります。

 

しかもこの状況、双方にとって都合がよい可能性すらあります。

野党は、現実的な優先順位を考えずに叩きやすいところを叩いていれば、強い支持層に顔が立つ上、自分の世界観も傷つきません。

与党にとって、叩かれても大して痛くないところであれば、他の重要政策で対抗されるよりは、野党よりも政権運営能力があると評価されて支持率が下がらない。
という具合です。

 

人間や民主主義にはこういう傾向があるのです。

その上で、最悪の処方箋は、今の欲得のみを追い求めてニヒリズムに陥ること。

であれば、一人一人が人間の理性の限界を謙虚に認識し、忙しい中でもできるだけ学び合い、考え、伝統を大切にしながら、子孫にどういう日本を受け継ぎたいか模索し続けるしかないように思います。